66.双子猫のきもち 第4号


 ガガーン!
 
 ってなった後は、イラっ、ムスーっとなった。
 4人とも、同じ気持ち。
 誰も喋らない。
 生徒会室に折角来たのに、お腹ぺこぺこなのに、誰も動こうともしない。
 お気にいりのソファーに横一列で体育座りしたまんま。
 ムスっとだんまり、さっき見たばっかりの光景を、頭の中で再生し続けていた。
 どうして?

 前陽大は、僕達皆のお母さんじゃないの?

 「あ〜――…怠ぃ…ってビビった!お前ら、居たのかよ!」
 ピピっとカード認証の音がして、気怠そうに入って来たこーちゃんに、ビリビリっと空気が震えた。
 「何してんの…?仲良く勢揃いしてんのはいーけど…超不気味…ソレ、新しい遊びとか?ま、どーでもいーけど、とっとと宿題片して新歓の仕事してくれよ。俺は今日こそ寮で寝るからな」
 なんにも気にしていないこーちゃんは、欠伸を噛み殺しながら自分の机に行って、役員専用ルームサービスのメニュー表を手に取っている。
 いつもとちっとも変わらないこーちゃん。
 「男前同盟」として、今日も観察するに足る男前っぷりには感心するけど。
 けど。

 ひさしが立ち上がって、それにはっとなったそーすけが遅れて続いた。
 ゆーとみーは顔を見合わせてから、そーすけの後に続いた。
 急に近寄って来た僕達に、こーちゃんはきょとーんとしてる。
 きょとーんとしたお顔も、写メりたい程男前で、余計にムカっとする。
 僕達の真剣で張り詰めた雰囲気にも、まるで動じないこーちゃん。
 「何だよ、どした?」
 そーすけは、生徒会の中で1番背が高い。
 ひさしだって、こーちゃんよりは低いけど、中学3年間でどんどん背が伸びた。
 それなのに、いつだってこーちゃんが1番大きく見える。
 いつでも堂々と立っていて、何もかも包み込む様な、底知れない瞳をしている。
 
 僕達はいつになったら、こーちゃんと同じ目線に立てるの?
 いつになったら、隣に並べる様になれるの。
 
 「………こーちゃん、俺達に何か言う事あるでしょ」
 ひさしが、喉の奥から低く硬い声を出した。
 「あ?何の事だ」
 まったくわかっていない様子のこーちゃんに、そーすけが口をへの字にした。
 「…こーちゃん、おれたち、さっき見た。ちゃんと、見た。」
 「だから何を?」
 それでも首を傾げる、ほんとうにわかってないこーちゃんに、ゆーもみーも泣きそうになった。
 どうしてわかってくれないの?
 こーちゃんは賢いから、いっつも何も言わなくたって、何でもわかってくれるクセに!
 
 「はぐらかさないでよ!見たんだから!こーちゃん、はるちゃんと2人で一緒に居たでしょ?!職員棟の廊下を2人で歩いてる所、見たんだから!どういう事…?今日ははるちゃん、武士道と弁当のハズっしょ?何で昼休みにこーちゃんと一緒に居るの?意味わかんねー…」
 「…こーちゃん、はると、楽しそう。おれたち、なにも、聞いてない。どうして…?」
 ひさしとそーすけの言葉に、こーちゃんはでも、全然動じていなかった。
 「あぁ…業田センセーに新歓関連の用があって〜職員棟に向かう途中、陽大がふらふら歩いててな。何かと想ったらまだ不確定な話だが、どっかの親衛隊に嫌がらせされたみてえ、怪我してた上に校内迷子ってた。んなの誰も見過ごせねえだろ。だから職員棟の保健室に連れてって、そしたら業田センセーも居たし、手当して早退の手配して武士道に連絡して、武士道に引き渡しに行ってた所。
 お前らも気を付けろよ。宇宙人の登場やら何やらで親衛隊が荒れそうだ。特に悠、陽大と幼馴染みならちゃんと気ぃ配ってやんな」

 前陽大がケガ?!
 おろおろするしかないゆーとみーだったけど。
 ひさしとそーすけは、違った。
 なんだか悔しそうな顔をしていた。
 「……その話、ホント?」
 「……本当?」
 「こんな事で嘘吐く訳ねえだろ」
 何事にも動じない、いつも余裕で、大人のこーちゃん。
 まっすぐ僕達を見てくれる、揺らがない強い瞳。
 
 「…ウソだったら俺……俺達に黙ってはるちゃんと会ってたこーちゃんの事、許さないから!」
 「…許さない。から。」
 「ひさし!」
 「そーすけ!」
 どこへ行くの?って聞けないまま。
 それぞれの机の上の書類を引っ掴んで、ひさしとそーすけは部屋を出て行ってしまった。
 出て行くすれ違い様にりっちゃんが来て、ぶつかっちゃったのに、2人共何も言わないで行ってしまった。

 「???何だ、あいつら…何かあったのか」
 「「………こーちゃん…」」
 「仕様がねえな…後で俺から声掛けとく。優月、満月、そんな顔すんな。大丈夫だ」
 おっきな手に頭を撫でられると、いつも安心する筈なのに。
 3人しか居ない生徒会室は、広すぎて、僕達は言い知れない不安に駆られていた。



 2011-05-23 23:59筆


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