65.あとは身も心も休めましょう


 お腹がいっぱいになったら。
 眠た〜くなってきた…瞼がじんわり熱くて、重い。
 仁と一成の顔を見て安心しちゃった、っていうのもあるかも知れない。
 あったかい背中の上、ゆっくり歩いてくれているお陰で、ちょうどいい振動がまた眠りを増長させる。
 がくっと首が落ちる度、はっと我に返って顔を上げる、さっきからそのくり返し。
 おんぶって、揺りかごみたいだ〜…しかしまさか、この年になっておんぶされることがあるなんてねぇ〜…
 う〜むむむ………

 「――…はるる〜眠てぇの〜?素直に寝ちゃいな〜どーせ仁の背中だし、遠慮する事ないよ〜それとも俺の背中のが良い?」
 気づいたらまた頭を垂れていて、一成の声が聞こえてはっとなった。
 慌てて顔を起こす。
 「いえいえ、とんでもございません…俺も男ですから他人様の背中に甘えるなんてそうは行きませんとも。どうぞお構いなく、今後共何卒よろしくお願い致しまふ……すぅ……」
 「ははっ、はると大丈夫か〜?俺ら相手に敬語になってるし意味わかんねーよ。いーから寝てな。疲れてんだろ〜」
 「初期はるるみてぇで可愛いーけどねえ〜チョット切ないし〜おやすみ、ちゃんと連れてってあげるからさ〜」

 仁が「よっ」とおんぶし直してくれて。
 一成の手が、ぽんぽんっとあやすように背中に触れた気配。
 ますます睡魔が………
 「………う〜…そのクロワッサンは俺のお楽し………みっ!っいえいえ、だから寝ませんってば!」
 「「もう良いから素直に寝て」」
 ううう!
 そうだ、黙っているから眠たくなるんだ、会話していたら大丈夫!
 「仁も一成も、ごめんね…騒ぎばかり起こして……授業、サボタージュさせちゃって、迎えに来てもらって、ほんとう申し訳ない…ごめんね。仁、重いでしょ?おぶってくれてありがとう。一成も、荷物を持ってくれてありがとう。2人がいてくれて、ほんと、よかった…」
 って、話題はひとつしかないのだけれど。

 幾度目かの謝罪をくり返したら、2人が苦笑してこちらを見た。
 「はるる、だいじょーぶだって〜そんなシュンとしないで〜はるるは俺らの自慢のお母さんなんだからね〜」
 「重くねぇし。俺らは寧ろ役得だしな〜授業サボれてはるとと一緒に居られてラッキーってな」
 お昼を頂いた後(柾先輩は何を言おうとも決して応じて下さらず、結局、お昼は奢って頂いた形になってしまった…この雪辱は次のお弁当シフトで!)、先生方にご挨拶してから職員棟の保健室を後にした。
 業田先生は5限の担当クラスがあったらしく、既にお姿がなかった。
 職員棟の校舎と反対側、人気がない出入り口まで柾先輩が送って下さって、そこにはもう仁と一成が待機してくれていた。

 いつの間に連絡を取り合っていたのやら、顔を合わせるなり、ケガはどうかと心配してくれる2人に、ようやく俺の緊張は解けたのだった。
 正直、どうしようもなくその場に崩れ落ちそうな気分になったぐらい、ほっとした。
 教室に置いていた勉強道具なども取って来てくれていて、捻挫を気にかけてくれた仁が背負ってくれた。
 後は、ほんとうに帰るだけ。
 授業に出ないのは後ろめたいけれど、今は、どこか落ち着ける場所にいたいと、心から想った。
 俺ったら、なんて弱いのだろう…
 
 しかも、寮の自室へ帰ったら、美山さんにお会いするかも知れないと。
 会ったらまた、美山さんを怒らせてしまうかも知れない…
 不安が全部、顔に出てしまっていたのだろう、一成がまた背中に触れてくれた。
 「だいじょーぶ、だいじょーぶ。取り敢えず〜『ホーム』はこっから遠いし、1年寮より俺らの部屋のが静かで落ち着くから、当分一緒に居ようね〜」
 「一成たちの部屋…?」
 「そっ。その方が守りやすいしな〜気ぃ遣わなくて良いからな?俺らは俺らの大事なはるとの側に居たいだけだから」
 「一成…仁…」
 「「だからおやすみ〜ちゃんと連れてくから寝てな」」

 重なった低い声が耳に届いて、すごく、心がやわらかくほどけて。
  「ありがとう」
 頼りない寝惚けた一声だけで、もう限界で、俺は目を閉じた。



 2011-05-16 23:55筆


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