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 そーやって静観してる内に、黒いもじゃもじゃが何やら嬉々とした雰囲気で、こっちへすっ飛んで来た。
 おいおい…マジで空気読めねぇのね…
 俺らのどこに歓迎してる空気があるっつーんだ。
 それとも、そのひと昔前の冗談みてーな眼鏡の所為で、周り見えてないだけかね。
 もっと笑えるのは、美山だ。
 こっちを威嚇しながら近寄って来る、その腑抜けたツラが面白過ぎる。
 つい昨日まではるとの側にじっとり居たクセに、てめーはナニ簡単に鞍替えしちゃってんのって話。

 つか、いつからてめーは必ず誰かに付き従う忠犬になったんだ。
 ただの一匹狼だった頃のが、余程マシだったぜ。 
 「なーなー!!お前らっ、もしかして『武士道』かっ?!タク達から聞いてたんだっ、十八には『武士道』のメンバーがほとんど居るって!!」
 うお〜…
 耳がキンキンする〜…
 空腹に響く騒音公害だ。

 「オレはあの『阿修羅』に居たんだっ!!今日、白馬から十八へ転校して来たばっかなんだぜっ!!九穂っていうんだ、よろしくなっ!!へへっ、オレも今はこんなカッコしてるけどっ、ちょっとは名の知れた立場だったんだぜっ!!ケンカには自信があるっ!!けど、折角十八に来たんだから、お前ら『武士道』とも仲良くしたいって思ってるんだっ!!もう暴れるのは止めたしっ、流石に『武士道』ツブすのはちょっとなぁ〜?!だからさっ、お互い過去の事は水に流して楽しくやろうぜっ!!しっかし、もしかしてお前ら、『武士道』のトップ2と幹部ばっか?!すっげえな、マジで十八に揃ってんだー!!」

 騒音公害は、1人で機関銃の弾丸をこれでもかとぶっ放して来やがった。
 唖然とするしかない。
 莉人から送られて来た、『無理無理無理…』の文字が延々と並べられたメールの意味がよく理解出来る。
 なんじゃこりゃあっ!ってカンジ。
 誰も何も言わない、奇妙な硬い空気にもまるで頓着しない騒音公害は、更にペラペラ喋りながら俺と一成の周囲をグルグル回り始めた。

 「武士道のトップは『金と銀の対(つい)』だって聞いてたっ!!もしかしてお前とお前がそうなのかっ?!すっげえなっ!!街ではなかなか会えなかったのに、ガッコでこんな簡単に会えるなんてさっ!!オレが名乗ったんだからさっ!!お前らも黙ってないで何とか言えよっ!!そりゃチーム同士でいろいろあったけどさっ、今はもう水に流そうぜっ!!しっかし、すっげえキレイな色に染まってるのな〜!!お前ら2人共、地毛みてーに馴染んでるっ!!良いなっ、この色…」

 あろう事かこの騒音公害、一成の髪に手を伸ばしやがった。
 あ〜あ、自爆しやがった。

 「阿修羅」、終わりだな。

 あっちゃ〜と額を抱えるフリをしつつ、俺は、笑えて仕方がなかった。
 一瞬塞いだ視界、鈍く重い衝撃音と美山が怒鳴る声が、よく聞こえた。

 カワイソウに…
 後ろに控えてるトンチンカン共も、あまりの気の毒さに失笑してら。
 「金と銀の対」を知ってて、何で「銀」の一成の事をよく知らないんだって話。
 俺より悪名が轟いてる一成だぜ?
 頭も拳も巧妙に使って、冷酷無惨に相手をとことんぶっ潰す。 
 敵と見なしたら最後、息絶えても噛み付いたまま離さねぇ。
 力勝負の俺と違って、くるっくる頭が働く一成の方が、余程恐れられてる。
 街に居るヤツなら、誰でも知ってるっつーの。

 一成を見たら、実に酷薄な表情で前方を見下ろしていた。
 視線の先には、地面に尻餅ついてポカンとしてる、眼鏡下がって間抜けヅラ晒してる騒音公害の姿。
 傍らには従順な赤狼が寄り添って、睨みも唸りも利かせてる。
 だぁから、笑わすなっつーの!
 誰も口を開かない内に、一成が微笑った。
 獲物を見つけた野性を隠す事なく、それは愉しそうに微笑った。
 「ごめんね〜?てめぇら、あんまり気持ち悪ぃから、うっかり手が滑っちゃった〜!」
 ひらひらと、恐らく突き飛ばしたのだろう手を、さも汚いモノを触ったかの様に振っている。

 「な、なんだよっ!!い、いきなり何す、」
 騒音公害が顔を赤くして怒りを表明しようとするのを、一成は淡々とスルーした。
 「そうこなくっちゃな、美山…?」
 そうか、一成は始めから、美山しか見てねぇ。
 一成の愉悦の対象は美山に絞られてんのか。
 「……どういう意味っスか、一成サン」
 「てめぇがソコまで性根腐ったガキだったなんて、笑いの種にもなんねぇっつってんだよ。もっと面白いヤツかと勝手に期待してたわ〜何かガッカリ〜!面白ぇならまだ野放しにしといてやるかと想ってたけど〜もう遠慮しねぇ」

 それは冷たい殺気。


 「ぶっ潰してやんよ、美山樹。
 てめぇの存在が気持ち悪ぃ。
 2度と陽大に近付けねぇ様に、てめぇの幼稚な心ごと折ってやるから。…あぁ、もう陽大とはとっくに反目してたっけ?てめぇはソノ宇宙人のがイイんだよな?もう代わり見つけてんならソコはどーでもいーよね〜余計な事言ってゴメンネ〜あ、ついでに宇宙人放任してる『阿修羅』も許さねぇから〜」


 俺は遂に吹き出した。
 言うだけ言って踵を返す一成に続きながら、まだ地べたに這いずってる美山と騒音公害を振り返る。
 「覚悟しとけよ〜美山!ソッチの宇宙人さんとやらも、多少は知ってんじゃねーの?ウチの副長の標的になったら、最期まで逃げらんねぇのよ?泣いて謝ったって情状酌量の余地ナッシング!んでもって、ウチの優秀な副長の敵なら、俺ら『武士道』はソレに倣うから。この先夜道には精々気を付けるこった。じゃあな〜」
 各自でふざけて威嚇するフリをしているトンチンカンを促して、さっさと先を行く一成を追った。

 さぁてさて…はるとが来て、平和な学園生活を謳歌できると想ってたけど。
 やっぱ俺らには、多少の波乱が必要なのかもねぇ。
 日和佐先輩と昴に、天使退治はお任せをって後でメールしておくか。



 2011-05-08 23:44筆


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