61.金いろ狼ちゃんの武士道(2)


 「「「「っち、クソが…」」」」
 「くぉら〜そんな言葉遣いしてたらはるるに怒られますよ〜」
 「「「「居ないから良いんだもん!ぷいっ!」」」」
 「お前ら拗ねても可愛くねーな〜まぁ気持ちはわかるけどね〜」
 すっかり腐ってるトンチンカン+ヨシコと、呆れてため息吐いてる一成を見て、俺は苦笑い。
 「取り敢えず一通り洗ったし、メシにすっか」
 そう提案すると、連中の表情は明るくなるどころかより一層荒んだものになった。

 無理はねぇ、はるとの弁当お預けなんて、今日は厄日だ。

 腹いせとばかりに全員で地に伏す反乱因子共を最後にひと蹴り、呻いたっきり動かなくなったままのカワイソウな連中を放置してその場を後にした。
 トンチンカン共に気づかれない様に、ポケットの携帯を操作し、日和佐先輩に「任務完了」の一言メールを送信した。
 や〜れやれ…とんだ1日だ。
 「阿修羅」の「エンジェル」(最早失笑もんだ)め、ヤってくれんじゃん?
 お陰でこっちは週1ポッキリのお楽しみ、弁当抜きの災厄に遭った。
 どうしてくれようか。

 今頃、はるとの愛情たっぷりの美味い美味い弁当は、昴の胃袋内だと想うと、まさしく腹の虫が治まらねぇ。
 正直まだまだ暴れ足りねぇ。
 けど、あまり騒ぎ過ぎて目立つのは良くない。
 後ではるとからデコピンどころか、当面弁当抜きの極刑まで頂戴してしまうかも知れん。
 何でも程々が1番だ。 
 ま、アイツら、気ぃ失ってるみてーだけど?
 後方を横目で見ていたら、トンチンカン共が大ゲサにため息吐いた。

 「しっかしダリィ話っスね〜既に学園中の噂になってる転校生が、『阿修羅』のエンジェルって!」
 「十八に『阿修羅』関係は居ねーと想ってましたよ〜」
 「親衛隊は騒ぎ出すわ、『阿修羅』の下っ端共は騒ぎ出すわ…面倒くせーっスね〜」
 「しかも1年A組に転入とは…」
 「「「「お母さん、大丈夫かなぁ…」」」」
 遠い目で彼方を見つめる4人に、一成も同調している。
 名目上は、十八に居る「阿修羅」関連の生徒の粛正を掲げて、俺ら武士道はずっと朝から動いている。

 下らねー有り得ないセンスの通り名「エンジェル」だが、「阿修羅」の総長から幹部に猫可愛がりされてる要注意人物。
 十八には俺らが居る、まして今ははるとが居るから、ヤツらに好き勝手させるワケには行かない。
 「エンジェル」が来た事で、「阿修羅」の連中が調子づいてデカい顔をしない為にと、あらかじめ調べてあった関係者を手当たり次第ブチのめした。
 喧嘩の種は、何だって良い。
 暴れる理由があれば、何だって飛び付く。
 弁当はお預けになったけど、はるとを守る為なら尚更だ。
 ………と、トンチンカン共は認識しているだろう。
 
 実際は全てがでっちあげじゃねーものの、「エンジェル」が来て美山を手懐けた事、はるとが宮成とひそかに会っていた事から、一部不穏な動向を見せている親衛隊、奴らお抱えの用心棒共を牽制したに過ぎない。
 中には「阿修羅」に関連しているヤツも居た、という事だ。
 まったく厄介だ。
 嘘に嘘を重ねないと、守りたいものすら想う様に守れない。
 っとに面倒くせー。
 この道を選んだのは「俺ら」だから、悔いはねぇけど。
 はるとと同じ学園生活を過ごす事も良い、これから先が楽しみだ。

 諸悪の根源はシンプルだ。
 見上げた空は、ぶっ飛ばしたくなる程に青かった。


 「あ―――!!!!!」


 …あ?

 食堂付近へのらりくらりやって来た所で、不快としか形容出来ない騒音に耳をヤラれた。
 何だよと前方を見て、ぎょっとなってうんざりして、すぐにやべぇと戦慄が走った。
 そろりと見た右横、一成は、案の定酷く冷めた瞳で微笑っていた。
 「エンジェル」が転校して来た事、予想に容易く早くも騒動を巻き起こし、その対応に振り回されている事、はるとの弁当が食えなかった事…
 それ以上に、美山が噂通りチビ黒もじゃ「エンジェル」の隣に居て、こちらを威嚇せんと睨んでいる事。
 ただでさえ劣悪な機嫌の一成が、急激に冷めギレんのも当然な状況。

 冗談じゃないっつの…
 神さんが居るなら、この采配はねぇだろうよ。
 燃え盛る火に更にどぼりと油を流し込む様な真似、いくらなんでもドS過ぎんだろうが。
 昼休みもそろそろ終わりか、食堂から出て来る生徒多数が、この修羅場に顔色を無くしてる。
 や〜れやれ…
 何かいっそ笑える。
 「こうなった」一成は俺には止めらんねぇし。
 トンチンカン共まで殺気立ってる。

 なら、俺はこの緊迫した凍える空気を愉しんでやろうと。
 自然と唇の両端を上げていた。



 2011--05-04 23:51筆


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