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 神妙に頷いた俺に、ふたがみさんは一瞬視線を和らげられた。

 「一般カードも特別カードも、学園内、寮内、その他施設内において身分証明になり、購買や食堂ではクレジットカードとしてお使いいただけます。カードが折れ曲がったり、磁気を帯びた物品の近くへ置くと使えなくなりますので、取り扱いにはお気を付け下さい。
 スペアカードは有りません。紛失、破損に因るカードの再発行にはとても時間がかかります。また、再発行期間中、寮への入室は不可能になりますので、くれぐれも御用心下さい。では、裏面に御署名をお願い致します」

 渡された黒とシルバーのシンプルなデザインのボールペンで、カードに署名した。
 「前様、綺麗な筆記ですね」
 「ありがとうございます。子供の頃、習字塾に通っていましたので、そう言っていただけるとうれしいです」
 「成る程、書道を…それを差し引いても、綺麗な筆記ですね。筆記には人柄が出るものですが、前様の誠実な御人柄を文字の端々から感じます。…おっと、失礼致しました、訳知り顔で語ってしまいました。私、少しばかり書道の世界を齧った事があるものですから…」

 「そうなんですか!書道をご存知の方からそう言っていただけるなんて、ますます嬉しいです。ありがとうございます!」
 ふたがみさんに、誉められてしまった。
 なんだか、うれしいなぁ。
 お礼を言ったら、ふたがみさんはにこにこ、また笑い皺を刻んで微笑ってくださった。

 「さて、前様のカードはもう使用可能で御座います。カードの使い方や困った時の対処法、当寮の決まり事等、こちらの冊子に記述してありますので一読願います。既に御存知かも知れませんが、簡単に当寮の決まり事を説明させていただきますね」
 「はい、お願いいたします」
 十八さんからも聞いていたけれど、再確認のために、耳を傾けた。


 基本的に、寮は三百六十五日無休で解放されていること。
 二十四時間態勢の交代制で、管理人さんが常駐していること。
 一年生と二年生は、同じ建物。
 三年生は受験などの兼ね合いで忙しくなるため、渡り廊下を挟んだ別棟の建物。
 特権のある生徒さんはまた別棟と、立場に因って分かれている。

 朝七時から食堂やその他施設、設備の利用、登校が可能。
 夜は九時が門限。
 学園内が広大なため、余りに早過ぎる登校、遅過ぎる帰宅は認められていないこと、時間厳守が鉄則。
 ただし、部活動や生徒活動等に従事している生徒は、事前に担当教員を通して届け出を提出すれば、多少の融通が利く。

 外出は長期休暇以外、認められていない。
 ただし、特別な理由がある場合は、あらかじめ外出許可を申請しておくこと。
 生徒同士の部屋の行き交いは、朝七時から夜九時までに限る。
 自室以外の部屋での就眠は認められていない。
 ただし、例外有り。

 学校の敷地内にある施設や設備は、各自でマナー厳守の上、公共の場であることを念頭に利用すること。
 食堂、ジム、屋内プール、小体育館、簡易スーパーマーケット、営業日限定のレストラン、その他クリーニングやハウスキーピングのサービス等、外出できない分、充実している。
 とにかく、学園内外共に、健全な高校生らしい振る舞いを心がけること。


 「―――と、こんな所でしょうか。何か御質問等御座いますか?」
 「うーん…そうですね…とりあえず、このパンフレットを熟読しながら生活させていただきます」
 「はい。前様、何か御困りの事が御座いましたら、遠慮なく私や他の管理人に御声掛け下さいませ」
 「はい、ありがとうございます!」
 「どういたしまして。では、こちらの入寮書類に…」

 ふたがみさんが、一枚の紙を書類ケースから取り出した。
 
 「前様の御部屋は四階の四五九号室、一年生は二人部屋になりますので…同室の方は美山樹(みやま・みき)様です。美山様は勿論、他の生徒様も殆ど帰省為さって居られますので、まだ戻って来られて居りません。美山様は幼等部から在籍されて居られますので、何かと頼りになるかと存じます。以上、御了承いただけましたら、御署名願います」
 
 署名と同時に、二上さんがにっこり。
 「これにて入寮手続きが完了です。本日からどうぞ宜敷くお願い致します」
 「はい!こちらこそお世話になります。よろしくお願いいたします」
 「こちらこそ…では、御案内致します」
 「はい!」
 わぁ!!
 いよいよ、寮の自分の部屋へ、突入だ!!



 2010-04-10 22:59筆


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