54.天使バルサンが奏でる狂想曲(4)


 ダイスケって、ミキと違ってすっげぇ爽やかでニコニコしてて、すっげぇ話し易いイイカンジ!
 これこれ!!
 これぞオレの求める高校生ってカンジ!!
 転校して来たばっかのオレを気にしてくれてるみたいだし、ダイスケって良いヤツ!!
 すっかり仲良くなったダイスケとミキと一緒に、食堂へ向かった。
 朝から歩きっぱなしで、もぉ〜超腹へったあ〜!!
 オムライス、大盛りにしてくんねーかなあ〜…
 白馬に居た食堂のウエーター…なんだっけ、もー名前忘れちったけど…には、いっつも「穂だけだぜ…?」ってどのメニューも特別に大盛りにしてもらってたんだよなっ。

 十八でもしてくれっかなぁ?!
 オレは育ち盛りだし、毎日元気で過ごさなきゃいけないから、いっぱい食べなきゃ保たないんだ。
 食堂着いたら、ここのウエーターにも言ってみようっと!! 
 それにしても、コイツら、マジでメシ食う気あんのかな?!
 今ひとつ行く気ないっつか、のんびり歩いてるミキとダイスケ。
 急がないと席なくなるんじゃねーの?!
 白馬では、席の争奪戦すごかったんだぞっ!!
 ま、オレは最終的にはどうしてもって皆に言われて、生徒会の特別席でメシ食ってたから大丈夫だったけどさ。
 まだそういうワケにいかないから、一般席に座るしかないのに、2人はノロノロ歩いてる。
 しょうがねぇなあ!!

 「なあ、急ごうってば!!オレは腹ぺこなのっ!!」
 2人の手をぐいぐい引っ張りながら、オレは小走りになった。
 「あはは、九、すっげ(バカ)力〜!」
 「……穂、そんなに急がなくても大丈夫だ」
 「へっへん、オレはこう見えてすっげえんだぜ?!強いんだ!!オレを知ってるヤツらに怖がられるぐらい…な、なーんてなっ!!アハハっ、とにかく早く行こ〜!!」
 おーっと、危なっ!!
 ついうっかり、街でチーム潰ししてた話…「阿修羅」絡みの話、出すところだったぜ!!

 ダイスケは爽やかイケメンだけどフツーの高校生だし、ミキはそれなりにいろいろわかってそうだけど、街で会った事ないし…
 黙ってたほうがいいよなっ!!
 善良な一般市民の2人を怖がらせちゃダメだ。
 十八には十八で、なんか有名などっかのチームがいるらしーし。
 そんなの別に怖くないんだけどさっ、できればオレだって穏やかに過ごしたいし!!
 
 「ちょっと…何、あの黒モジャ…」
 「えー?!音成様と美山様…?」
 「あんな変なのと御2人がどうして…」
 「1Aの転校生らしい…」
 「ヤダー…」
 食堂に向かう最中、ずっとヒソヒソ、あっちこっちから聞こえてくる声。
 最初は気にしなかったけど、段々、流石に温和なオレもムカムカしてきたっ!!
 言いたいことがあるなら、堂々と言えよっ!!
 そもそも、来たばっかで慣れてないオレに、超失礼じゃん!!
 でも、ぐるっと視線を向けたら誰もが目を背けて、白馬といい、十八といい、どこも金持ちの坊っちゃん連中は変わらない!!

 男のクセに、面と向かって何も言えない弱虫ばっかだ!!

 とにかくオレは早くメシが食いたかったから、そういうちっちゃい事は気にしてらんなくて、2人が後ろから案内してくるままに、食堂へ急いだ。
 食堂へ着いて、扉を開けて驚いた。
 「なに、なに、なにここぉっ?!!!ホテルっ?!大ホールっ?!迎賓館っ?!食堂っつか、なんつーか…!!信じらんねえええっ、超!超!超!金のムダ遣いっ!!白馬よりゴーカでムダだらけじゃんっ!!うっわあ…なんだこりゃ、キラキラし過ぎで気持ち悪いっ!!!こんなの、ガッコの食堂なんかじゃねーよっ!!ここまで来るとなんか…嫌味なカンジだなあっ!!従業員もやたら多くね?!生徒、そんなに利用してねーじゃん…あっちゃ〜人件費のムダ〜…なんか十八学園って終わってんなっ!!白馬のがもっとマシだったぜっ!!なあ、ミキっ、大介っ」

 オレはこう見えてもちゃんと男だし、思った事は隠さず言う!!
 だから、ありのままを打ち明けて、2人を振り返った。
 ミキはうんうんって頷いてくれたけど、ダイスケはなんか苦笑してた。
 ダイスケ、すっかり染まっちゃってんのかな…
 かわいそうに、オレが真っ当な人間になれるように、目を覚まさせてやるからなっ!!
 とりあえず中に入ろうと、1歩足を進めたら。
 「キャ―――!!!音成様〜!!」
 「美山様が食堂に…?!やんっ素敵っ!!」
 っげ、コイツら、やっぱり親衛隊持ちとかなのか?!

 きゃあきゃあ黄色い歓声が上がって、白馬よりよっぽど騒がしくって、オレはうんざりした。
 ここはメシ食う所だろ?!
 ミキは声援を無視してるけど、ダイスケはへらりと笑って手を振ったりなんかしてる。
 ダイスケ〜〜〜!!!
 メシ食ったら、お前は説教確定だからなっ!!
 オレが絶っっっ対、更正させてやるっ!!
 
 「何なの、あの黒もじゃ…不潔っ…気持ち悪いっ!!」
 「音成様から離れてっ!!」
 「美山様に近寄るなっ!!」
 「気味が悪い…アレ、生き物なの…?」
 「食事が不味くなる〜…」
 「同じ空間に存在する事すら信じ難いな」
 正義に燃えてたオレは、ミキやダイスケに対するよりもっとデカい、罵声の嵐が聞こえてキレた。
 ここへ来る途中の不愉快な思いもあって、オレの怒りはハンパなかった。


 「なんだよっ、お前らっ!!人を見かけで判断するなんて、幼稚でサイテーだっ!!お前ら、高校生だろっ?!高校生にもなって、転校して来たばっかの人間に悪口言うなんて…ヒドいっ!!!!!これだから金持ちの坊っちゃんは嫌われるんだっ!!
 お前らがそんなんだから、ミキもダイスケもフツーの高校生らしい生活できなくなるんじゃねーかっ!!それに同じ男に対して、男のクセにきゃーきゃー言うなんて間違ってるっ!!そっちのほうが不潔でキモイしっ!!
 今時、幼稚園児でももっと賢いぞっ?!それにここはメシを食う場所だっ!!大勢の人間が利用する公共の場だっ!!きゃーきゃー騒ぐなんてマナーがなってないにも程があるぞっ!!
 オレのこと知りたいなら教えてやるからっ!!気になるからって、話してみたいからってそんな卑屈な態度取るなよなっ!!1人1人かかって来いよっ!!人間素直が1番なんだぞっ!!!!!」


 言ってやった…!!
 どうだ?!
 ほら、誰も何も言えねーじゃんっ!!
 オレは正しい、間違ってないんだっ!!
 いつだってオレは正しい事しかしない、言わないんだからっ!!
 九家の誇り、誉れなんだから……

 「―――お客様、大演説中の所、大変申し訳ありません。これ以上大きな声を出される様でしたら、他のお客様のご迷惑となりますのでお引き取り願えませんか。どうしてもお食事を御利用でしたら、空席まで速やかにご案内致しますので、もう少しお静かに願います」

 え…?

 肩で息をしていたら、いつの間に近寄って来ていたのか、キレーな顔のウエイターが側に居た。
 にこにこしているけど、目が、笑っていない。
 気づけば、他のウエイター連中もこっちを見ていた。
 なんだ、この空気…
 ただの雇われ従業員のクセに、心なしか、客のオレを睨んでるみたいに見える。
 食堂全体に漂ってる、オレが悪いみたいな雰囲気。
 オレは転校生で、客なのに…!!
 「…九、逆らうな。食堂出入り禁止になんぞ。この先、十八でメシ食えなくなる」
 何か言ってやろうと思った、それなのにダイスケに静かに止められた。

 なんでオレがこんな目に遭わなきゃなんねーの…?!



 2011-04-26 22:05筆


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