53.音成大介の走れ!毎日!(3)


 あー、厄介だなー!
 っとにどこに行っちゃったんだかねー、あの一匹狼ちゃんと黒マリモちゃんは。
 ホントはうっちゃらかして、さっさとメシ食って、昼練に参加してーんだけど。
 しゃあねー、初日っから奴等を野放しにするワケには行かねー。
 何たって今朝の騒動を報告した途端、「指令」がビミョーに変化したばっかだし。
 お家事情ってのは、っとにせちがらいね。
 何か俺、急に老けそうだわーやれやれ。
 僕ちゃん達は世話が焼けるぜ。

 しっかし、こんなバカっ広い学園内を、昼休み時間内で、端から端まで探しまくる余裕なんかあるワケない。
 昼休みっつーことで、1年から3年の殆どがそこら中にいるし。
 3大勢力に義務付けられてるらしー、学園内限定GPS機能、黒マリモちゃんにも付けてくんねーかな…
 俺の「雇用主様」情報に因ると、理事長と遠戚関係らしーじゃん、何とかしてくんないかな。
 うっかり妄想飛ばすぐらい、途方に暮れる。
 うーん、こういう時はやっぱり、一か八かの勘に頼るしかないってね。
 3ポイント狙う時みたいに、一瞬だけ目を閉じて、一匹狼ちゃんと黒マリモちゃんがお手々繋いでうろちょろしてるイメージを描いて。

 多分、こっち!
 
 当てずっぽでデタラメに歩いてたら、イメージ通り(手は繋いでないけど)、うろちょろしてる2人を発見。
 流石、俺!
 ナイッシュー!!
 「美山!と九だっけ…、こんな所で何してんのー」
 偶然を装って、わざと気安く声を掛けた。
 朝方、鬼の様な形相で前に喰ってかかってたのが嘘みてーに、落ち着いた表情の美山が、瞬間で眉を顰めて舌打ちしたのが先ず目に入った。
 どーでもいーし、俺には関係ないけど、コイツその内しかめっ面が固定されんじゃねーの?
 一応男前なのに勿体ない事で…ご愁傷様。
 ま、将来後悔するのは本人だけだし、知ったこっちゃないけど?

 九は瓶底眼鏡と黒もじゃヘアーの所為で、表情がよくわかんねーけど、きっとポカンとしてる。
 美山の反応には全然気付いていないみたいだ、このチビ黒マリモちゃん。
 コイツのこの視界の狭さ、所謂空気が読めないってヤツか、何事においても致命的だと想うな。
 ま、俺には関係ないんだけどね。
 「えっと…?お前、誰だ?!何でミキとオレ、知ってんの?!」
 しかもこの物の言い方、ガチかよ?
 白馬っつー名門に1ヵ月ちょいしか居れなかったのも納得だ。
 幼稚園児以下レベルのコミュニケーション能力だな。

 「あ、自己紹介してなかったよなー。俺はお前等と同じ1年A組の音成大介っつーの。よろしくな」
 にこにこ笑いかけたら、九の口角が見る間に上がり、逆に美山の口角が下がりに下がった。
 わかりやすっ!
 おいおい、一匹狼ちゃんよ…
 前となかなか親密になれないからって、あっさりと鞍替えかよ。
 お前が何を抱えてんだか知らないけど、マジ笑えねーわ。
 「そっか…!!同じクラスなんだ!!そう言えば見た様な気がする!!なあ、ダイスケって呼んで良いか?!」
 ……こんなギャーピーうるっせーヤツのどこを、前よりお気に召したっていうんですか、美山サン……?
 
 「おー、好きに呼んでくれていーぜー。九って、元気一杯で何か面白いのな!」
 直訳すれば、「うるせー宇宙人」なんだけど。
 「おうっ!!俺は元気なのが好きなんだっ!!俺の元気を皆にも分けてやるんだ!!このガッコ、いろいろ問題あるみたいで何か暗いしなっ!!見てろよ、大介!!お前の事も元気いっぱいにしてやるからなっ!!もっと笑える様に俺が変えて見せるから!!」
 あーイタタタタタタ…突っ込みどころ多過ぎて間に合わない。
 どこの誰がアナタ様にそんな事をお願いしたのでしょうか?
 こりゃ手強いわ…
 笑って誤摩化すのに、こんなにジリジリとどす黒い感情を抑えるのに必死になるとか、そうそうないんですけど。

 「あはは、そりゃ楽しみだー!…マジで面白い…もっと話したいなー!そういやお前ら、どっか消えてたみたいだけど、もう昼メシ食った?」
 「まだだぜっ!!これから食うんだ、食堂でオムライスっ!!大介も一緒に食おうぜ!!オムライス!!メシは大勢で食うのが楽しいもんなっ?!一緒に行こうっ!!早く行こうぜっ!!」
 おーい、チビ黒マリモちゃーん。
 美山も俺も、イエスって同意してねーぞー。
 そして、まさかの俺達もオムライス限定なワケ?
 勝手に暴走して、勝手にいつの間にか随分前に行っちゃって、「遅い!!遅い!!俺は腹ぺこなんだよ!!早く早くー!!」とギャーピー騒いで両手を振り回してる。

 ちょっと俺、コイツに関わんのガチでイヤだなー。
 苦笑してたら、美山に袖を引かれた。
 「……てめー、どういう魂胆だ…?」
 おーい、一匹狼ちゃーん。
 君もいきなりトリップし過ぎでしょーがー。
 昨日まで君は前の番犬だったでしょーがー。
 今にもグルルル唸ってきそうなヤツの、ど深い眉間の皺を見つめながら、俺は笑みを絶やさない。

 「その言葉そっくりそのまま返すぜ。意味わかんねーのはお前だろ、美山。言ったろ、頭冷やせって。お前さー、今学園がどんな状態になってっかわかってんの?お前の『セフレ』っつー通り名の親衛隊が動き出そうとしてんだぜ?目立つ行動取んなって、何回忠告してやったらわかんの?いい加減学習しろよな」
 「……俺が認可した親衛隊なんか居ねー」
 「お前が1人で呑気に構えてるだけだろ。誰もそうは想っちゃいねーっつの。俺に関係ない範囲なら口出ししねーのよ、俺だって面倒なんでね。お前の放置主義に巻き込まれて迷惑被んのが許せねーんだよ」 
 何かを言い掛けた美山を、離れた前方から届いた騒音が遮った。

 「お―――い!!ミキ!!大介!!早く来いよ―――!!2人で内緒話なんて俺に失礼なんだぞっ!!」
 マジで美山の心境の変化がわかんねーわ、多分、一生わかんねー難題だな。
 十八学園後世の笑い話になるんじゃね?
 笑って九に手を振り返しながら、「取り敢えず行こーぜー」と美山を誘った。
 「てめーは付いて来んな」
 「イヤだねー!九、ちょっとマジで面白そーだし?俺も仲良くなりたーい!」
 「……っち…腹黒が…」
 そうそ、その辺の勘は流石に鈍ってないよね。
 単なる監視だよ、監視。

 「雇用主様」に方針変更して頂ける様に、嫌々ながらご一緒させて貰いますーやれやれ!



 2011-04-24 23:17筆


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