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 ふたがみさんの笑顔って、癒されると言うか和むと言うか…胸の辺りがほっこりする。
 正直な所、楽しみな反面、すこし不安もあった寮生活だった。
 忙しくて不規則な夜の仕事を抱えながら、俺を育ててくれた母さんと、四六時中一緒に過ごしてきたわけではないけれど。
 一日の中で接する時間、そんなになかったけれど、それでもやっぱり、初めて親元を離れるのって心細くて。

 たとえそれが、この数年でよく知り合うことができた、もう家族同然の十八さんが経営する学校だとわかっていても。
 俺は、十五才の子供だ。
 いろいろなことを楽しみだと探すことで、不安を忘れようとしているだけ。
 我ながら甘いな、子供だなって、男のくせにって思うけれど。
 素直に寂しいって、口に出してくれた十八さんは、やっぱり大人だなあと思う。
 俺はまだまだ素直になれないことが多い。

 だけど、これから、だから。
 きっとこの三年間の高校生活は、俺にとって、かけがえのないものになるだろうし、かけがえのないものにするんだ。
 楽しみも不安も、全部、ほんとうの気持ち。
 それを忘れないで、あるがまま、これから起こることを感じていけばいい。

 ………そうだよね、父さん………

 そういう複雑な気持ち、十八さんと別れてからひしひしと迫ってきた緊張感と、見るものすべてが新しく、新たなことが始まる高揚感とでいっぱいで、いつより上がったテンション。
 それを、ふたがみさんの笑顔はやんわりと軌道修正してくれるようで、落ち着くことができた。
 こんなに穏やかで頼りになりそうな御方が、寮の管理をなさっておられるなら、とても安心だ。
 よかった、ふたがみさんに出会えて。

 ほんわか落ち着いたところで、ふたがみさんがはっとなって、「いつまでも立ち話で申し訳ありません。前様、どうぞこちらへ」って、フロントと繋がっている、すぐ横のテーブルセットへ案内してくださった。
 ほんとうにホテルみたい。
 勧められるままに座った、黒い革張りのスチールの椅子は、とても座り心地がよかった。
 これまた立派なマホガニーのカウンターを隔てて、ふたがみさんも向かい合った椅子へ腰かけた。

 「では…入寮の手続き及び、当寮の説明をさせていただきますね」
 「はい。お願いいたします」
 「こちらこそ宜敷くお願い致します。先ず前様、カードキーはお持ちですね?」
 「はい。つい先程いただきました」
 手荷物の中へ忍ばせていたカードを、ごそごそと取り出した。
 「前様の事は理事長から簡単に御伺いして居ります。特別な繋がりがある為、プラチナカードを御使用になられるそうですね」

 「あ、はい…プラチナ…?」
 「通常の一般生徒と同じシルバーカードに見せかけて、特権を有する為に細工が施されたカードの事を、プラチナカードと呼んで居ります。前様の場合は、理事長室への出入りが可能、との事で…くれぐれも紛失為さいません様に、他の生徒様へお話されたりお見せしない様に、重ねてお願い申し上げます」
 「はい…特別だから、ですか…?」 

 なにげなく首を傾げたら。
 「此所が十八学園だから、です」
 ふたがみさんは、苦笑のように微笑った。
 「え、と…?」
 「こちらの学園の『裏事情』は御存知でしょう?」
 「あ…、はい…」

 「理事長も大変に生徒人気が高い御方ですから…勿論一般常識的に、学園の経営者の部屋へ、第三者が容易く侵入する事は有り得てならない事態です。また、この貴重品を理由に、前様自身も何かしらのトラブルに巻き込まれる可能性が御座います。
 学園内の高いセキュリティーは、カードの個人管理が行き届く事で成り立ちます。ですから、くれぐれも紛失為さらないで下さい」
 「わ、わかりました…」
 十八さんは、なくしたら手続きが大変だって言っておられたけど。
 ふたがみさんのお話で、骨身に沁みてわかりました。



 2010-04-09 23:15筆


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