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先生方が…10年前の3大勢力さんが、成し得なかった悲願…?
それを、柾先輩たちが、達成しようとしている…?
一体、どれほどのことを、皆さんで抱えていらっしゃるのだろう…
『折角ここまで来たのにね〜』
ふと、昨日お邪魔した、隠れ家さんでの一成の呟きを想い出した。
「折角」「ここまで」「来たのに」
なにかを成そうとしている、だからこその呟きだったんだ。
緊迫した空気に、鼓動が早くなった。
うかつ先生の真摯な眼差しが、俺に、そのとても重大で大事なことを伝えようとしているのがわかった。
俺が聞いてしまっていいものなのだろうか。
人を、容易く怒らせ、容易く傷つけ、暴力へ向かう衝動を誘ってしまう…
自分勝手で、鈍感で弱い俺が、皆さんの大切な任務の一端を聞いていいのだろうか。
辞退できる内に、辞退したほうがいい。
不完全で未熟な俺に、どなたさまの手助けもできるわけがない。
うかつ先生が口を開く前にと、身を乗り出した、その時。
――ぐぅうっ〜〜きゅるるるるる〜――
……なんでしょうか、この、見事なまでに重なった2重低音は……
音のした方向は、明らかに、明らかに!限られていますよね。
俺じゃありません。
まかべ先生でもありません。
うかつ先生でもありません。
消去法で、犯人「たち」は簡単に見つかります。
「……なんなの、あんた達…ヤる気あんの…?」
「お前等な……どうして生徒会長職に就く者は、代々俺様何様バカ殿様揃いなんだ…!」
「ひっでー言い草ぁ〜しょーがねえじゃん。俺、4限体育だったし」
しらーっとしながら、胃の辺りをさする柾先輩。
「お、勝ったー!俺なんかバスケ部の朝練に強制連行よ?朝っぱらから腹減りまくってたーいへん!」
何の勝負なのか、嬉々としながら胃の辺りをさする業田先生。
「「つーワケで、取り敢えずメシにしよー」」
それでも腐ってもOB生徒会長さま、現生徒会長さまの威光があるのか、単純に呆れて物も言えないというパターンなのか。
話は打ち切られ、お昼ごはんタイムへ突入してしまった。
うかつ先生もまかべ先生も慣れていらっしゃるのだろう、淡々としていらっしゃる。
御苦労お察し致します。
お昼ごはんは、ほんとうは武士道のものになるはずだったお弁当を、かなり当てにされていたようで、一悶着起こしてしまった。
何回も落としてしまったから、皆さまはどうか俺などにお気遣いなくお構いなく、外で食事なさって来てくださいと、何度もお願いしたのだけれど。
どなたさまにも聞き入れて頂けず、「「「「まーまー!どーどー!」」」」と、なし崩しにお弁当を開かれてしまった。
想っていた以上に、どろっと悲惨な状態のお弁当に、俺は言葉を失った。
かろうじて原型はとどめているものの、それぞれのおかずにいろんな味が混ざってしまって、彩りも何もあったものじゃない。
武士道のだいすきな、バクダンおにぎりも、ほんとうのバクダンになってしまっている…
ショックで微動だにできない。
けれど皆さまは、一向に気にした様子なく、「「「「いただきまーす!」」」」と、お弁当へ手を伸ばしてくださった。
「コレが噂のお母さん弁当ね〜んー、確かに美味いわー弁当っつったらタコウィンナーなんだよなーやっぱり」と、ほんとうにお腹ペコペコなんだろう、手も口も止まらない業田先生。
「この厚焼き卵、すっごく凝ってるぅ〜!アタシ好みの甘い味だわ〜陽大クン、良いお嫁さんになるわよー!」と、目を細めながらおいしそうに食べてくださるまかべ先生。
「豆の煮付け……箸が止まらんな、こりゃ…」と、お名前の通り静かに、着々と召し上がってくださるうかつ先生。
ひたすら無言で食べまくっている柾先輩に、「陽大も食えよ、コレ美味い」と、まるでご自分が作ったかの如きどや顔で渡された、バクダンおにぎり。
じわじわと、鼻の奥がツーンとなって。
目が、熱い。
唇が、頬が、ひくひくと震える。
食べなきゃと、皆さんが召し上がってくださっているんだから食べなきゃと、おにぎりをなんとか一口かじって、でも、その塩気と他のおかずが混ざった味が、余計に切なくて。
ダメだ………
ごまかす為、意味もなく天井を見上げるしかなかった。
食べなきゃと想うのに、うまく、自分の身体がコントロールできそうにない。
こんな時は、どうすればいいんだっけ…?
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