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 にこにこ笑顔が絶えないまかべ先生。
 どう見たって女性に見える。
 「チチ、すかすかだったろー?」
 業田先生がニヒルに笑ってそんなことを言った。
 確かに、抱きしめられた感触に、女性特有のやわらかさがなかったけれども…麗華さんや母さんを想い出してしまった…あの人たちもよくハグしてくるから。
 と言うか、女性か男性か、そんな些末なことよりも。
 「……のびた、さん……?」
 俺のちいさな呟きに、柾先輩が崩れ落ちた。
 「ぶはっ、ソコかよ…!」

 だって、だって!!
 だって、業田剛志先生と、まかべのびた先生ですってよ?!
 ん?!
 待てよ…確か、もう1人の先生のことを、柾先輩が……
 「前、こっちも紹介してやるわなーこっちは生徒用の『第1保健室』担当の、宇加津静(うかつ・しずか)。ヤーさんっぽいけど全然そんなんじゃねーし、お風呂が趣味なの、ヨロシクね!」
 「風呂は別に趣味じゃない。よろしく。前陽大、明日も足が痛む様なら、第1保健室に顔出せ」
 「よ、よろしくお願いします…!」
 なんとー!!
 なんと、なんとー!!
 しずかさんまでキター!!

 「因に前、数学の細田先生の下の名前、知ってるか?」
 ニヤリと唇を歪める業田先生に、ふるふるとかぶりを振りながら、期待の眼差しを向けた。
 まさか?!
 「細田英才(ほそだ・ひでとし)。残念ながら、スネ夫が居ないんだよなー」
 なんとー出来杉くんまでキター!!
 肝心の猫型ロボットもいないけれど…
 オールスター、勢揃い!!
 なんだか素晴らしい物語が始まる予感!!

 「ほわ〜……なんと素晴らしい…!」
 「ほわ〜って…!!何が素晴らしいんだか…!」
 更に崩れ落ちる柾先輩を、まかべ先生とうかつ先生はしらーっと冷たく見つめている。
 業田先生はぽんぽんっと俺の肩を叩いてくれた。
 「ま、残念ながら、コイツら漫画に興味ないもんでな…これだけの奇跡を全く理解してやがらねぇ…俺ら細田先生も含めて、此所の同期OBなんだけどよ、俺は何年この感動を分かち合えるヤツを待ち望んでいた事か…!柾が唯一の理解者だったんだよなーあん時は夜通し語り合ったもんだぜ…なー柾!これからは前が居る…仲間が増えた事は有り難い…」
 くっと、わざとらしく涙を拭うフリをなさる業田先生のお言葉に、俺はぽかんとなった。
 言われてみれば、俺の書いた天使バルサンのラクガキをじいっと見たり、いっそ子供っぽい程何でも面白がる変な人だけに、柾先輩が知っていても何ら違和感はないのだけれど。

 「……柾先輩、1番好きな話は何ですか?」
 「あ?1番なんか選べるか。『大氷原の小さな家』が入ってる巻は特に読み返したけど。ペット系はそもそもヤバい。キー坊とかフーコとかソージーとか…タンポポの親子もヤバかった。1回ドラが帰る所は言わずもがな名作だしな。『木こりの泉』は腹筋崩壊したし」
 なんですって?!
 この人、相当読みこんでいる…!
 「……おばあちゃん関連も、いいお話ですよね…?」
 「ばあちゃんは反則だよな。未来から行ってんのにすんなり受け入れてくれるしな。じいちゃんも良いだろ、あの家は」
 「そうなんですよ…!一見偏屈で気難しそうなおじいさまなんですけど、おじいさまも実はすごく優しくて可愛がってくださるんですよね…!」

 なんとー!!
 こんなにあの名作漫画を理解しておられる御方、初めて会ったー!!




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