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 初めて入る保健室。
 校舎にある「第1保健室」にも入ったことがないのに、「第2保健室」へお邪魔する事態になるなんて。
 しかも生徒会長さまと2人で、と想ったら、清潔なオフホワイトで統一された室内には、既に先客さんがいらっしゃった。
 って、え?!

 「ごごご、業田先生…?!」

 「お〜。前!遅かったなぁ〜」
 まるでこの部屋の主が如く、丸椅子の上で足を組んでヒラヒラと手を振っておられる業田先生の姿に、ものすごくびっくりした。
 業田先生以外に、お会いしたことがない先生?方のお姿を見つけて、更に戸惑った。
 坊主頭で強面の、色のついた眼鏡をかけた白衣の先生?は、業田先生の近くに座って、こちらを鋭い視線で見つめておられた。
 デスクに向かってにこにこしながら頬杖をついているのは、ウエーブがかかった長い髪を高い一で結び、同じく白衣を来た女性の先生…?
 男子校だから、女性はいないものだと想っていた…

 なんだかよくわからないけれど、先生方がいらっしゃる所へ、俺などが来ていいわけがない。
 「申し訳ありません…!事態がよくわからないまま、お昼時に1生徒の俺が突然お邪魔してしまいまして!今すぐ退室致しますっ、どうぞよしなに!!」
 勢いよく頭を下げたら、クスクスっと艶めいた笑い声が響いた。
 「やぁだあ〜ホンット噂以上にカワイイのねぇ!前陽大クン、ね…剛志が可愛がるのも無理ないわぁ〜アタシも早速気に入っちゃった!」
 あわわわ…女性の先生にウィンクされて、昔、母さんのお店に遊びに行ったことを想い出してヒヤヒヤした。
 業田先生は何故か、うひゃうひゃ笑っておられる。

 「静(しずか)ちゃんが睨んでんのが悪ぃんじゃねえの?陽大、んな恐縮すんな。この人らに遠慮する必要無えし、事情は全部通じてる」
 「「「……可愛くねー後輩」」」
 「可愛くなくて結構です〜それよりノビちゃん、先にこいつ見てやって。転んで足捻ったぽい。他にも怪我してるかも」
 お弁当をデスクに運んだ柾先輩が、飄々と話を進めた。
 先生方相手に、とても馴れていらっしゃるご様子だ。
 十八さんといい、柾先輩は目上の方々と親しくなれる御方なのだろうか。

 「まぁっ!陽大クン、大丈夫っ?!ソコ、座って座って!…剛志、退けよ。…やぁん、折角のカワイイお顔が何か赤くなってるぅ〜ちゃっちゃと手当しちゃいましょうねっ」
 業田先生を顎で退かせ、俺の腕を引いた女性の先生は、母さんのお店のナンバー1さん…麗華さんというお名前だった…を彷彿とさせた。
 肌が白くて、スタイルがものすごくいい。
 レースクィーンやグラビアモデルさんのようだ。
 こんな御方が職員棟の保健室担当でいいのだろうか?
 母さんが会ったら…まだお店があったらすぐにスカウトしそうな、とてもキラキラした美しくも妖艶な女性だ。
 何故か、俺が手当てされている後ろで、業田先生と柾先輩がうひゃうひゃ笑っているのが聞こえる。
 まさかの同類なんですか、先生と先輩は…
 呆れている内に、的確な手当が終わった。

 「鼻と額と腕と手の平の擦りむけた所はすぐ治るわ。清潔にしてね?陽大クン、オロナイン持ち歩いているのでしょ?ちゃんと塗っていれば大丈夫よ」
 「は、はい…なぜ、そんな情報を…」
 「うふふ。ソコの昴から色々聞いてるからね〜」
 柾先輩め…!!
 「足首は軽く捻っただけみたいね。新歓までには治るでしょ。朝晩湿布を張り替えて、体育も見学して安静にしていなさい。少しでも痛むなら、新歓は欠席する事!良いわね?」
 「はい、わかりました」
 「よろしい!イイお返事!」
 「あの…既に不本意な形で知られている様で恐縮ですが…1年A組の前陽大と申します。こちらは職員棟ですのに、手当てしてくださってありがとうございました」
 ぺこりとお辞儀すると、よしよしと頭を撫でられた。
 
 「不本意な形って、陽大クンったらカワイイだけじゃなくて面白いのねぇ!ますます気に入っちゃった!そうそう、自己紹介が遅れたわね。アタシは職員棟の職員専用保険医、真賀部伸太(まかべ・のびた)。よろしくね」
 「はい、まかべ先生。ありがとうございました…?」
 もう1度ぺこりと頭を下げお礼を言った俺を、まかべ先生は唐突に「カワイー!」と叫んで抱きしめた。
 抱きしめられながら、俺はなにか違和感を感じていた。
 なんだ…?
 ?マークが飛び交っている俺の視界に、柾先輩が「ぐぐぐっ…」とかなんとか呻きながら、お腹を抑えて悶絶している様子が映った。

 なんなんですか。
 そんなに笑い上戸で、よく生徒会長さまが務まりますねえ?
 むっとしていたら、こちらも笑いが止まらないといった様子ながら、業田先生が教えてくださった。
 「前、そいつに騙されんなよー?」
 え?
 騙されるなって、何が?
 首を傾げた俺に、重なった3つの声。


 「「「そいつ、男だから」」」
 

 は……えっ?!



 2011--04-21 23:34筆


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