43.所古辰の淫らでゴメンネ(2)


 3限終わりに、十左近に呼び出された。
 「くあ〜あ〜…眠ィねェ…何だァ、十左近!部長の権限を使って堂々放送部ジャックかァ?お前と逢い引きよりは、断然カワイ子ちゃんのが良いなァ…」
 春うらら…
 毎日毎日、眠たくてしょうがないねェ。
 「ふざけてる場合じゃない、たっつぁん。放送部ジャックつか、今日の昼放送は俺の担当だ。…お前な…聞いたぞ、セフレ共と関係清算する所か、以前にも増して夜な夜な遊び歩いてるらしいじゃねーか!眠いが聞いて呆れる…」
 おやおや〜?
 いつにも増してシリアスだな、十左近。
 と言うか〜…

 「急に老けたな、十左近」

 昨日もチラッと会ったが、まだ普通だった筈。
 コイツは元々、幼等部の頃から妙に老成してやがったが、長く付き合う内、ソレがコイツの個性なんだと別段気にならなくなった。
 此所は、大人並の精神力を求められ続けて来たガキ共の集まりだ、十左近が特別ではない。
 ところがどうだ、今目の前に居るコイツは、サービス残業続きで仕事に疲れ切った中年リーマンの如き老け込み具合い、何だこのザマァ。
 昼メシ前という事もあってか、どんより重く濁った灰色のオーラが室内に満ちている。
 どうしたどうした。
 眉間にクッキリ刻まれた皺に指を伸ばしたら、さもダルそうに振り払われた。
 続いた深いため息。

 「そりゃ当然だ…朝っぱらからこの数時間で寿命が縮まる想いだった。セフレと耽ってたお前にはわからんだろうが…?」
 「ん〜?おーやおや、我が身の潔白を晴らさせて貰うとだなァ、俺は俺の輝かしい未来の為、カワイ子ちゃん達と楽しー関係をマジ清算するべく毎日非生産活動に励んで居るワケであってだなァ…責められる道理は何処にもないのだよ?俺様卒業=お別れ記念エッチにどうしても盛り上がっちゃうのは致し方あるまいて!十左近もエロが足りないから老け込むのだ、俺達は若い、高校生など只の発情期の雄に過ぎん、つまり性春しないでどーする?!アノ仕事熱心な柾とて、此所では抑えているものの、外では相当、」
 「…俺は性春エロ談義する為にわざわざ設立99年を誇る神聖な我が放送部へお前を招いた訳では断じてない」

 みしぃっと、俺の顔の真横、神聖なる放送部とやらの壁が不吉な音を立てて凹んだ。
 十左近の拳も額も青筋を浮かべている。
 おーコワ!
 真剣じゃないか、我が知己、十左近文智君よ。
 「…余裕ねぇなァ、十左近…?確かに昼メシ前だが、お前がそこまで浮つくたァ嫌な予感がするねェ…」
 「お別れ記念パーティーやってる場合じゃなくなったぞ、たっつぁん」
 すぐ傍らの机の上に、ばさりと写真が散った。
 「柾から聞いてた転校生…宇宙人がコレだ」
 「ふむ…?はっは、こりゃ何の真似だァ?!隠し芸か?仮装か?何だこの黒いちんちくりんは…我が学園に存在するだけで萎えるなァ!」

 黒もじゃのべたっと重い頭は明らか鬘だろう。
 時代錯誤でファッション性の欠片もない、渦を巻いた分厚い眼鏡といい、ウケ狙いにせよもう少しヤり様があるだろうに。
 しかしよく撮れてる写真だ、十左近め、まさか遭遇したのか。
 「それは良かった。何ならその1枚はお前にくれてやる。発情した時に眺めれば良い」
 「冗談は止せやィ!俺様ジュニアが休火山にならァ。若しくは妙な趣向へ転向しちまったらどうしてくれる?」
 「俺には関係ないからな。とにかく!話に聞いていた以上、想像以上の転校生の様だ。そしてヤツはクラス入り前に美山と接近遭遇、美山の奴、何を血迷ったか奴に懐いた様だ」
 なんだと?

 次の写真には、口元だけ笑っているちんちくりんと、心なしか口元が綻んでいる美山の横顔が写っていた。
 「冗談でも現実でもキツいねェ…ミキちゃんはお母さんラブだったんじゃねーのかィ?しかし…ヤツもまだまだ子供なんだなァ」
 「前は今や学園中から注目されているからな。武士道も絶えず引っ付いてる、美山が付け入る隙はなく、其処へ宇宙人が上手く仕掛けて来やがったんだろ。美山を手懐けた後、クラス入りした宇宙人だが、業田先生からもA組の連中からも反感を受けた様だ。その場は前が鎮めたが…あろう事か、美山と前が対立する事態になった」

 放送部に訪れる、束の間の静寂。
 乾いた唇を舐めながら、不吉な予感に耳を澄ませる。
 「厄介だねェ…ま、子供の喧嘩なら解決するだろーが…ちぃとこのイヤな予感は見過ごせないねェ…」
 「あぁ。3限から美山は姿を眩ましてる」
 「ミキちゃん親衛隊は?」
 「まだ静かだ。事の全容を知る者は今の時点で限られているのでな」
 だが、それも時間の問題だろう。
 まったくもって、厄介だ。
 
 「これだけじゃない」
 「聞きたくないなァ、十左近センパイっ!僕っ、まだ老けたくないし、まだおっ勃てまくりたいっ」
 「現実逃避すんな。教室を出てった美山を追って、宇宙人もいきなり3限からサボりやがった。そして、無門と接近遭遇、無門をも手懐けた」
 「えぇー…?ワンワンとも仲良くなっちゃった系?」
 「悪い事に、無門のテリトリーで、だ。無門の親衛隊、平隊員だが1人に目撃されている」
 3枚目の写真に写る、ワンワンとちんちくりんの寄り添い合って語り合う姿が、正直、鬱陶しい。
 あー…頭痛くなってきた。
 寒気もする。
 マジでか。
 マジでっか?
 俺の幸福なエロい日々は、ついさっきので終わったワケね。
 
 「更に」
 「……十左近君、僕、急に熱が出て来たみたいなんだけど?」
 「知るか。俺の心労をちゃんと受け止めやがれ。コレだ、コレ。コレが今日1番の問題だ」
 ばさばさーっと落ちた数枚の写真に、今度こそ、目眩を覚えた。
 無理っしょ。
 いくら何でも、コレはヒド過ぎるっしょ。
 「え〜ー…とぉ…十左近君?賢明なる現・生徒会長、柾昴君筆頭に、日和佐や仁に連絡は…?」
 「とっくに。だが、あの宇宙人、どういう巡り合わせの元に生まれてんだか…今日に限って立て続けに3大勢力それぞれちょっとしたトラブルに巻き込まれて、手が離せないんだとよ。誰が仕組んでやがんのか…どうにも止められそうにない。何よりも最後の『コレ』、持って来やがったのは一舎で、宇宙人は無関係だからな」

 どうしたものやら。
 巻き起こった嵐は、俺達の手に余る様だ。
 前陽大と宮成が楽しそうに笑って食事している、恐らく宮成のテリトリーでだろう光景を撮った写真は、数枚とも日付けがバラバラで、余計に親密さをアピールしていた。 
 どういう巡り合わせの元に生まれた宇宙人なのか?

 「お天道様が望んでいるのかねェ…」



 2011-04-18 23:59筆


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