40,あいどる…?

 
 お、終わった…!
 2限終了のチャイムに、我に返った。
 なんとか終わった。 
 俺の今の実力でできる限り、誠心誠意こめて解答欄を埋めさせて頂きました。
 細井先生はとっても厳しい先生だけれど、努力を認めてくださる先生だ。
 だから、たぶん、大丈夫!
 …だと、いいな…
 どうか俺にも平穏な夏休みが訪れますように。
 そう願いながら、業田先生にプリントを託した。

 「ふわ〜あぁ……んーヨシヨシ!全員ちゃんと出来たみてーじゃん?エラいエラい!んじゃ、結果はまた次回の数学、細井先生から聞いてくれ〜諸君の健闘を祈る!
 あー…っと、合原!九!音成!前!美山!休み時間内に収められない程、クラスでピーピーわーわー騒がない様に!!他の奴等も同調して騒ぐんじゃねぇ!次、また授業に響かせてみろ、全員風紀に引き渡すからな…?」

 欠伸をしている業田先生に気迫を削がれていたら。
 先生、もしかして最初から見ておられたのでしょうか…?
 順に名前を呼ばれ、風紀さんに引き渡されると言われ、合原さんと音成さんと俺は揃って「はい…」と返事をしたのでありました。
 美山さんは明後日の方向を向いていらっしゃる。
 いちじくさんはオロオロとしていらっしゃる。
 先生は特に気に為さらず、言葉を続けた。


 「九は特に!前に迷惑掛けるなよ!前はな、お前が勝手に決めつけて良い一般生徒じゃねーんだよ。
 学園のマスコット…?いや、最早アイドルか?何せガキ共のお母さんなんだからな。
 忙しいから1人だけに構ってるヒマなんざねーんだ。クラスメイトとして仲良くする分には良いだろうが、特別扱いを望もうものなら、他のガキ共からやっかまれんぞー?よく肝に命じてろ〜じゃ、アディオス!」


 俺は、あったことのない金縛りにあったかのように、指1本動かせない状態に陥ってしまいました。
 
 業田先生…
 今、なんて?
 どなたさまについてのお話ですか?
 幻聴?
 幻聴ですか。
 きっとそうですね。
 難問だらけの自習課題プリントに、集中して取り組み過ぎたからかな。
 神経が疲れ果てて、それで幻聴が聞こえたのかも知れません。
 「あはは!ゴーちゃん、上手いこと言うなー!」
 「流石、業田先生…わかっていらっしゃる」
 音成さんが笑っているのも、合原さんが感心しているのも、クラスの皆さんが深々と頷いているのも、全部全部…

 「はるとっ!オレ、オレっ…あんなふうに、ちゃんと話してもらったの、初めてでっ…オレっ、はるとと仲良くなりたい!
 でもお前、十八学園のアイドルだったんだな…!
 オレ、知らなくてっ…そっか、そうだよな…!なんかお前、側にいるだけですっげぇ癒されるし!ちゃんとオレのこと見てくれようとして、ホント『お母さん』みたいに優しいしっ!オレっ、はるとが言ったように、ゆっくり仲良くなりたいっ!はるとともっと話したい、ゆっくりでいいから、はるとのこと知りたいっ!ダメ、かな?!」

 あっちゃー…
 「……いちじくさん、俺は、アイドルではありません…とんでもないことでございます。この学園のアイドルさま枠はちゃんと定員一杯ですし、俺などしがない一般人ですので、そんなふうに仰らないでくださいね。業田先生は冗談がお好きなんですよ」
 「なんで?!そんな、謙遜なんかするなよっ!はると、もっと自信持てよっ!オレ、お母さんはもっと胸張って堂々としてるべきだと思うっ!」
 あわわわ…!
 何故、こんなことに!
 どうしてどなたさまもツッコミ入れてくださらないのですか!

 「……え、ええと……業田先生がお戯れで仰ってた件はとにかく、いちじくさん、これからよろしくお願いします。先程は転校初日ですのに、いきなり様々なことを長々と申し上げてすみませんでした。また話しかけてくださってありがとうございます、嬉しいです」
 「はるとっ…!」
 駆け寄って来られたいちじくさんに気を取られ、そう言えばいちじくさんも俺と同じぐらいの身長だなあとのんびり構えていたその時、ガタリと椅子が動く音が聞こえた。
 なにげなく視線を向けると、美山さんがどこか無機質な瞳でこちらを一瞥しながら、教室を出ようとしておられた。

 「……くだらねー……」

 ちいさな呟きが、確かに聞こえた。
 ひやりと、冷たい空気。 
 俺の視線を追い、こちらに近寄って来られていたいちじくさんが、そんな美山さんの様子に気づいた。
 「ミキ?!何処行くんだよっ!?」
 返事ひとつせず、そのまま教室を出て行かれる美山さん。
 いちじくさんは一瞬ポカンとしてから、慌てて後を追って行った。
 「オレを無視すんなよっ!ちょっと、ミキ?!」
 
 風が、去って行く。
 バタバタと、足音が遠ざかって行くのを、ぼんやりと聞いた。
 「お母さん、お母さん、さっきのプリント出来たー?」
 「あんな奴も美山様のことも気にしないでね!」
 「お母さんはなんにも悪くないもん!」
 たちまち机の周りをクラスの皆さんに囲まれて、曖昧に笑った俺の耳に、一舎さんの吐息混じりのひとりごとが聞こえた。

 「王道転校生キタ―――――ッ!!遂にキタァ!!ナニコレ、ナニコレ、王道コレクション、超萌えぇ超萌えぇ超萌えぇ!!!!!ヤツのお陰で何CP成立するコトやら?!いっそ総受けか?!ハーレムか?!最初総受けハーレム→嫌われ追放…?!たぎるたぎるたぎるゥ〜!!しかも不良1匹狼×王道フラグ、勃ちまくりの回収しまくり?!と見せかけてぇ、不良はアイドルお母サンに片想い中か?!え、まさか不良×爽やか?!それとも爽やか×不良なの?!どっちよ、どっちなのよ〜!!いや寧ろ、王道×アイドルお母サンじゃね?!横恋慕されまくりの昼ドラ並みドロドロ経過のハピエンじゃね?!まさかのリバもアリ得る〜!!親衛隊×アイドルお母サン、爽やか×アイドルお母サンもおっ勃ってね?!後に王道が乗っ取るか?!ヤバスヤバスヤバギガマックス萌えぇっス―――!!!!!」

 なんだか難解な単語、特に横文字がいっぱいで、残念ながらよくわからなかったのだけれど…。



 2011-04-13 22:16筆


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