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いつの間にかいなくなってた、十八会長。
理事長室を出るまで、気づかなかった。
理事長室を出る直前に、やっと気づいた。
いつだって、おじい様は神出鬼没だ。
ようやく震えが治まって来た手で、もらったばっかのカードを握り締めた。
コレが寮の鍵になって、この学園での財布や身分証明代わりにもなるって…
十八さんからいろんなことを言われたけど、正直、カードとオレの入るクラスが1年A組だってことしか、覚えてない。
昔からオレにだけ…オレばっかり特別に厳しい、十八さんとおじい様。
それだけ目にかけてもらってる、期待されてるんだよって、パパとママは言うけど。
それにしても、ヒドい。
すっげぇ久しぶりに会ったのに、オレが転校して来たのに、文句ばっか延々と言って、悪い所ばっか指摘して、そっちこそ大人のクセに常識も何もないんじゃないの…?
オレは、ちゃんと頑張ってるのに。
ちゃんとオレなりに考えて、一生懸命なだけなのに。
どうしてわかってくれないの?
どうして認めてくれないの?
身内じゃんか…血の繋がりがあるのに、どうして?
白馬で辛い目に遭ったオレを、どうして笑顔で優しく迎えてくれないの?
じっとカードを見つめた。
『穂は何も悪くないよ』
『もっと自信を持って』
『穂は誰よりも可愛くてカッコ良い、勇敢な男の子なんだから』
『穂は………の、ヒーローだよ』
『大好きだ』
頭の中に次々と、優しい声がこだました。
大切な、大切な、オレの記憶。
ちいさな頃の想い出。
『穂、笑って。穂はやっぱり元気で笑顔で居るのが1番良い』
そう、だよな…
おじい様はここでどんな活躍を見せてくれるかって、期待に応えろって言ってた。
十八さんだって、くどくど言ってたけど大人だし、厳しいおじい様の前だったし、オレをゆっくり歓迎してる余裕なんてなかったのかも。
うん!!
そうに決まってる!!
間違いない!!
だってオレは、ちゃんと頑張ってるもん。
早速友達作ったりして、白馬でのことは過去に、ここでちゃんと楽しくやって行こうって、このガッコをもっと良いガッコに変えたいって思ってるし!!
大人の都合や事情なんかに、振り回されてる場合じゃない。
オレはオレらしく、十八で頑張るんだ!!
「お待たせー!!ミキ!!」
「遅かったな…」
「そっかー?!悪い悪い!!なーんかややこしいこと、いろいろ言われてさー!!ま、もう終わったし行こうぜー!!あのさっ、次は職員室に案内して!!」
「あぁ、勿論」
「マジ助かる―――!!ミキ居てくれてマジで良かった―――!!」
「おいっ…いきなり抱き着くな…いや、別に良いけど、前フリねーとビビんだろうが…」
ミキに抱き着いたら、友達的コミュニケーションに慣れてないのか、ミキの頬が赤くなった。
「えへー!!なんかさぁ、なんかさぁ、オレ、1年A組って言われたー!!ミキ、知ってるっ?!」
「!!…知ってるも何も、俺と同じクラスだ…」
え―――!!
思わず2人揃って目ん玉まん丸になったぜ!!
「マジで―――?!うっわ、なんか運命ってカンジ?!オレとミキは出会うべくして出会ったんだなっ!!すっげぇー!!これからよろしくなっ!!」
「あぁ…って穂、人の腕掴んでぶんぶん振り回すな…お前、見かけに因らず結構力あるんだな…」
「見かけによらずとか、超失礼だぞっ!!人を見てくれで判断するなよなっ!!ふっふん…オレ、強いんだからなっ!!本気出したらミキなんてぶっ潰しちゃうんだから!!」
「…お前な…確かに腕は立ちそうだが、チョーシ乗んな」
ぐしゃぐしゃっと頭を撫でられて、ちょっと焦りつつ、楽しくて笑った。
「へへへっ!!ま、親友に手ぇ出したりしないから安心してくれよっ!!」
じゃれ合いながら、ミキの案内でオレ達は職員室へ向かった。
「……あれは…美山君…?どうして彼と……うう、イヤな悪寒…じゃなくて予感がする…」
父さんが絡んでる事も含めて、昴君に連絡しておかないと…
理事長室内の窓辺にて、ちいさな呟きと深いため息が零された。
2011-04-06 23:26筆[ 289/761 ][*prev] [next#]
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