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 「此所が理事長棟だ」
 「ふええ〜…!!すっげーな〜…!!白馬よりムダガネかかってる〜!!理事長棟って!!まさか…この一軒家丸々、理事長室ってこと?!」
 「そうだ」
 「マジで?!マジで、ミキ!!うっそ…有り得な〜いっ!!!!!」
 ミキに案内してもらって、やっとたどり着いた理事長室ならぬ理事長棟の前で、オレはひたすらぽかーんっとするしかなかった。
 信じらんないっ!!
 十八さん、超ゼイタク生活じゃん!!
 白馬で慣れてたつもりだけど…なんなの、このガッコ!!

 つか、どんだけ歩かされたか…足痛いし、既にすっげえ疲れてるし!!
 なんなのっ!?
 有り得ない、有り得ないと呟くオレに、ミキはうんうん頷いてくれてる。
 幼等部からずっと此所にいるらしいミキ、ずっといるけど変なガッコだって馴染めなくて、周りから浮いちゃってたっぽい。
 かわいそうに!!
 自分に同意してもらえない、受け入れてもらえない辛さ、オレはよくわかる。
 もう大丈夫だからなっ、オレが来たからには絶対、もうミキをひとりぼっちになんかさせないから!!

 「俺は呼ばれてないから、一緒に入れない。穂、取り敢えずさっさと挨拶して来い」
 「おう!!わかった!!ちょっと挨拶がてら、十八さんに文句の1つでも言って来るっ!!ミキ、待っててくれる…?」
 「あぁ。待ってる」
 「うん!!絶対の絶対、オレが出て来るまで待っててくれよなっ!!」
 念入りに約束したら、ミキがまた、苦笑みたいに微笑った。 
 「…ふ…何だお前、ガキみてーに」
 微笑ってくれんのは嬉しいけど、バカにされんのはイヤなんだからなっ!!
 頬をふくらませながら、ぶーぶー言ってやった。

 「だってだって!!オレ、ここの地理、全っ然わっかんねぇしっ…ミキがいなかったら超困るし、門から1人だったからもう1人はイヤだしっ!!」
 ミキははっと息を呑んで、それからため息吐いて、なんでか頭を撫でてくれた。
 「お前な……なんつーストレートな…良いけど。わかった。ちゃんと待ってるから、早く行って来い。俺は偽善ぶった副会長や他の奴等とは違う」
 「おう!!サンキューな、ミキ!!オレ、十八でミキに会えて、友達になれてすっげぇ嬉しい〜!!じゃ、マジで待っててくれなっ!!絶対だぞっ!!」
 「……あぁ…わかったわかった」
 ぶんぶん手を振ってから、一軒家な理事長棟に入って行った。


 はー…中も豪勢な造りだな〜!!
 理事長っつったら、そりゃガッコで1番エラいんだろうけど?
 それにしても大げさ過ぎない?!
 白馬だって、職員室や生徒委員会室も含めて、全部同じ建物にあったのに!!
 もしかして、十八は全部一軒家なのかなっ?!
 有り得ないっ!!
 行き来すんのが面倒じゃんっ!!
 そんなだから、皆仲良くできないんじゃねーの?!
 りひとも人見知りのままなんじゃねーの?!

 改革しなきゃいけないこと、いっぱいあり過ぎじゃん!!
 なんか、段々燃えて来たな…!! 
 「理事長室」とプレートがかかった内扉を発見して、オレは燃える気持ちのまま、勢い良く扉を開いた。
 「十八さんっ!!久しぶりだけど、オレ、なんかもうすっげぇ腹立っ、……え……?」
 「これはこれは…相変わらずの様だな、九家の末男、野良猫めが…はっは、しかも何だそのボロ雑巾の様な醜い格好は…何の余興のつもりか?」
 扉を開いて。

 先ず、見えた、バカっ広い部屋の中央のデスクに座る人を目にした途端、オレは血の気が引いた。


 「お、じい様……?」


 何で。
 何で、十八の最高権力者であるおじい様が、こんな所に…?
 学園の運営は十八さんに任せてるハズだって、パパもママも言ってたのに…!!
 「黙れ、小童が…お前如き卑しい下賎の者にまで、おじい様呼ばわりされる筋合いなぞ無いわ」
 ヒドく冷たい眼差し、無機質な言葉に、身体の奥から震えが走った。
 傍らに控えていた、おじい様の直系…十八嘉之さんが軽く息を吐いたことにまで、びくりと肩が震えた。

 「九穂君、久し振りだね。本当に変わりない様だ…元気な事は良いが、君は相変わらず一般常識とマナーに欠けている様だ。約束した時間通りに来る、おかしな格好等言語道断、身だしなみを清潔に整える、扉を開ける前にノックして応答を待つ、目上の者にはきちんと敬語を使って挨拶する…どれもごく初歩的な事ばかりだ」
 「オ、オレ…でも、オレ…!!迷っちゃって、携帯も圏外だしっ…この格好は、しょうがなくって…!!」
 「言い訳は通用しない」
 十八さんの厳しい視線に、オレの喉は張りついたみたくカラカラに乾いて、一言も発せなくなった。

 「私の話を聞いていたかな?どこまで教えてあげれば君は理解するのだろう?君が今為すべき事は言い訳じゃない。素直に『はい』と頷き、遅れたばかりかノックもせずに扉を開いて申し訳ありませんでしたと、自分の非を認めて謝罪するべきじゃないか。
 まして身内とは言え、私はこの学園の責任者であり、父は十八の血脈全体を統べる人物だ。目上の人物を待たせるとは、どれだけ無礼なんだろう。
 君ももう高校生なのだから少しは大人になりなさい。良く言えば天真爛漫、でも真実はただの幼い子供のまま、それでは人間として、十八家に名を連ねる以前の問題だ」

 ふと、おじい様…十八会長が笑った。
 「白馬での『お前の活躍』は『よく』聞いている」
 息が、止まりそうになった。
 「儂は知っての通り、学園の運営からは遠ざかっておる。しかし、お前が此所でどんな活躍を見せてくれるか…何時でも見ておるでな…?楽しみじゃ、儂の期待に応えられる様、精々野良猫らしく暴れて見せぃ…はっはっは」
 乾いた笑いが、室内に響いて。

 オレは、がくがくと震える身体が崩れ落ちないように、なんとか立っているのでやっとだった。



 2011-04-05 21:50筆


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