32.天使バルサンが奏でる狂想曲(2)


 も〜…信じらんね〜!!
 「どこだよぉ〜…ここぉ〜…!!」
 白馬もバカっ広いガッコだったけど、十八は白馬の比じゃないっ!!
 パパやママがよく行く欧米の街並みに似た石畳、果てしなく広がってる森、森、森…
 う〜…いーかげん足痛くなって来たしっ!!
 りひとに渡された地図を見ても、意味わかんなくて、とっくにその辺へ捨てた。
 オレ、転校したばっかでなんにもわかんないのに、りひと、ヒド過ぎるっ!!
 
 あ!!
 もしかして、十八さんと血の繋がりあるって言っちゃったから、勘違いしちゃったのかな?!
 血の繋がりがあっても、十八さんのガッコに来るのは初めてなんだけど。
 それにしても、折角友達になったんだから、案内してくれたっていーじゃん!!
 2番目に会ったイケメンもさ、ヒドいっ!!
 オレが自己紹介してるのに、困ってるって言ってるのに、一言も喋んないまま急に走り出してった。
 人見知りにも程があるだろ?!
 2人共、今度会ったらちゃんと怒って、ちゃんと話してやんなくちゃ!!

 困ってる人を助けるのは、人として当たり前のことじゃん。
 このガッコのヤツらは、そんな当然のこともできねーぐらい、人見知りヒドくて大人しいヤツらばっかなのっ?!
 オレがちゃんと、教えてやんなくちゃ。
 白馬だって同じお坊ちゃん学校だったけど、もっと親切だった。
 声をかけたらちゃんと返事してくれたし、オレが困ってたら「どうしたの?」って皆、優しくしてくれた。
 「穂は笑っていなくちゃダメだよ」って…最初の頃は、皆……
 それが、どうして…?

 って、もう白馬のことはどーでもいーし!!

 白馬よりもずっと手のかかりそうな十八学園、オレが来たからにはちゃんとまともなガッコに変えてみせるから!!
 今度こそ、皆が仲良く過ごせる、楽しい想い出いっぱいの学園にしてみせるんだっ!!
 とにかく、理事長室に行かないと!!
 頼みの綱の携帯は、ずっと圏外のままだ〜…
 十八さんに連絡したくても連絡できない。
 それに、さっきから同じ所ばっか、ぐるぐる歩いてる気がする。
 りひとやイケメンが走ってった方向なのに、森から全然抜け出せない。
 どうしよう〜!!

 森の奥からは不気味な物音…なんかがホーホー鳴いてる声とか、なんかがガサガサ動く音がずっと消えない。
 どうしよう〜!!
 オレ、ケンカには自信あるけど、こんな得体の知れない場所でサバイバルなんて、ちょっと無理〜!!
 とにかく歩き回っていたら、少し離れた場所の茂みががさっと音を立てて、飛び上がりそうに驚いた。
 なんだよ!!
 驚かすなよな!!
 オレ、転校生だぞ?!
 むっとしてそっちを覗いたら、びっくりした。

 赤い髪の男、オレとお揃いの制服を着た男が屈んで…子猫と遊んでる?!

 想わず声を上げたら、猫はぴゅーっとどっかへ飛んで行って、男がゆっくり振り返った。
 「びっくりしたぁ〜!!!!!お前、誰っ?!ここの生徒だよなっ、その制服!!良かったぁ〜!!!!!もう誰とも会えないかと思っ…っておいっ!!いきなりナニすんだよっ!!!!!」
 人が話してる最中なのに、急に殴りかかってくるなんて、礼儀を知らないヤローだ!!
 ムカついたオレは、お返しとばかりにソイツの頬に拳を突き出した。
 初対面でいきなり本気なのは良くないかな…多少加減してやったら、ソイツは避けたものの若干擦ったらしい、頬が少し切れたみたい。
 ふん…自業自得だ!!

 「……避けた…しかも、俺に1発入れやがった……」
 どこか呆然としているソイツに、オレはにししっと笑ってやった。 
 「当然だっつの!!しかも、手加減したからなっ!!お前、まさか自分より強いヤツはいねーとか思ってるクチ?!残念ながら世界は広いんだぜー!!思い知ったか、にししっ!!まーいきなり声かけたオレも悪かった!!おあいこっつーことで、拳も交わしたことだし、もうオレたち友達だよなっ!!オレ、今日からこのガッコに転校して来た、九穂っての!!遠慮せず穂って呼んでくれよなっ!!お前はっ?!名前なんてゆーの?!」
 「…お前、俺が怖くねーのか?」

 眉間にシワ寄せんのがソイツのクセなのか。
 大真面目に不思議そうな顔してるソイツに、オレは安心させる為に笑いかけてやった。
 確かに赤い髪してるし、目付き悪いし、あんまり人馴れしてないっぽいし、急に殴りかかってきて暴力的だし、こんな所で猫とジャレてるぐらい暗いヤツなのかも知れないけど。
 顔は整ってて、コイツもりひとやさっきの男とは違うタイプのイケメンだ。
 それに、りひと達と違って、言葉は少ないけどオレと話そうとしてくれてる。
 ちゃんと見てくれてるのが、わかったから。
 「はぁ?!お前が怖い?!どこが?!んなワケねーじゃんっ!!オレのが強いみたいだしなっ?!こんな所でノラ猫の世話してて、すっげー優しいんだなーって思ったぜ!!なぁなぁ、それよか名前教えてっ!!拳を交わし合った者同士、仲良くしようぜっ!!」

 「……美山、樹だ」
 「みやまみき?!よし、ミキなっ!!ミキ、今日からよろしくなっ!!このガッコのこと、いろいろ教えてくれよ!!やー助かった〜!!ミキに会えて超良かった〜!!オレさぁ、さっきからすっげー迷ってて〜!!このガッコ、おかしくない?!何でこんなに広いの〜?!これだからムダな金持ちはイヤんなるよな!!ミキもそう思わねー?!」
 「……っふ…」
 「あ―――!!!!!ミキ、笑った―――!!!!!」
 「……何だよ」
 「お前、絶っっ対笑ったほうがいーよー!!!!!ミキにもさ、いろんな事情あるかも知れないけどさ…オレ、最近までいたガッコもここと似てて、なんとなくわかるんだけどさ…笑ったほうがいいよ!!よし!!オレが来たからには、ミキが眉間にシワ寄せてる間もないぐらい、ずーっと側で笑わせてやるからなっ!!安心しろよ!!ミキの笑顔は俺が守ってやるっ!!」

 「…変なヤツだな、お前…穂、か…」
 「そうそう!!なんか、ミキに名前呼ばれるとすっげーうれしー!!」
 「…変なヤツ…」
 やった―――!!
 友達、早くも3人目ゲットー!!
 しかもミキ、親友になれそうな気がするっ!!
 やっぱり男は拳で語り合う、だな!!
 ふって、もう1回苦笑みたいに微笑ったミキ、微笑ったほうがイケメンらしさも前面に出てくる。
 オレに任せとけ、ミキ!!
 もうひとりぼっちになんかさせない、辛い思いなんかさせないからな。
 猫よりも人間、オレと仲良くしたほうが良いに決まってる。

 オレも思わず笑顔になりながら、ミキと森から出るために歩き始めた。



 2011-04-04 22:50筆


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