31.孤独な狼ちゃんの心の中(7)


 クソだりぃ朝がまたやって来た。
 いつまで続くんだ、このくだらねー毎日は…
 何度目かの欠伸を噛み殺した俺を、不思議そうな顔で覗き込むヤツらに、ため息を吐いた。
 「悪ぃ…寝起きでぼーっとしてんだ。まだあるからもっと食え」
 手の平を近付けると、ハル、ナツ、アキ、フユは嬉しそうに鳴いて群がって来た。
 その様に、昨夜からずっとむしゃくしゃしていた気分が和らいだ。
 
 セフレというか…性欲処理マシン、と言った方が俺には相応だろう、とにかく名前も顔も一致しない誰だかの部屋で一夜を明かし、目が覚めたのがついさっき。
 我ながら笑えた。
 最近、早く起きる習慣がすっかり根付いてる。
 この俺、が。
 何てザマだ。
 薄気味悪ぃ事に、寝起きの俺の頭を支配していたのは、さっさと顔を洗って特に念入りに手を洗って料理に備えなくてはという義務感だった。
 もうそんな必要はないのに。
 自嘲しながら誰だかの部屋を抜け出し、此所へやって来た。
 
 誰も知らない…前にも言ってない、俺のトップシークレット。

 高等部入寮前、下界付近の山裾で見つけた、チビ猫4兄弟。
 誰かに捨てられたんだろう、せめて山に捨てりゃ何とかなるとばかりに、段ボールの中でか細く鳴いて震えていた。
 見捨てるには寒い季節、いつから居るんだか、明らか衰弱した様子に根負けし、何となく面倒を見る様になって2ヵ月経った。
 バカみてーにどデカい学園で良かったと、この時初めて想った。
 人目を忍ぶ場所は幾らでもある。

 あんなにチビで死にかけていた猫共は、今や確実に成長し、元気に育っている。
 ガラでもないのは俺が1番わかってる。
 だがコイツらの成長が、学園で唯一の楽しみだ。 
 薄汚い灰色だった毛並みは、まっ白でツヤのある色へ変わった。
 パッと見は大差ないが、1匹1匹、実は微妙な違いがある。
 ハルは耳の先に薄い茶色のブチ、ナツは前足に、アキは後ろ足、フユは尻尾の先といった具合だ。
 「「「「にぃあぁお」」」」
 気づけば、手の平に置いた煮干しは跡形もなく、満足そうな4匹の鳴き声に口元が緩んだ。

 「よしよし……お前ら、今日もちゃんと隠れて過ごせよ…?うるっせーのに見つかったら、どうなるかわかんねーからな?」
 「「「「にゃあ」」」」
 ゴロゴロとすり寄って来る4匹を、順番に撫でながら、いつもの疑問が浮かぶ。
 俺に出来る限りの面倒を見てる。
 前が来て、この俺が部屋へ居着く様になってからも、こいつらの存在を忘れた事はない、時間を作って会いに来ている。
 下界へ下りる事が多い俺は、エサの入手に困らない。
 ネットで猫の育て方を調べて、間違いない様に気をつけてる。
 自然に囲まれた環境だけに、俺がやってるエサ以上に、こいつらが勝手に何か食ってるのかも知れない。

 それにしても、だ。
 こいつらの毛並み、肉付きっぷり、成長の仕方、良過ぎやしないか…?
 会う度、想う。
 猫にとって、十八学園の環境は最適なのか?
 それともまさか、俺には猫の育成に関する才能があるのか?
 四六時中べったりとは行かないのに、こいつらはいつでも俺を歓迎してくれる、妙に人馴れしていると言うか…たまたまそういう性格だったのか? 
 元気に越した事はないが…

 この学園のヤツらが、動物好きとはとても想えない。
 どいつもこいつもてめーの手は汚さないのが信条、取り澄ましたお坊ちゃん共だ、教師連中も大差ない。
 それが3大勢力ともなれば、半野良猫でも虐待し兼ねない。
 こいつらが誰にも見つからず、伸び伸び育って行く事を、俺はただ願ってる。
 ……前に、いつか打ち明けられたらと、勝手に想っていた。
 けど、アイツには3大勢力が居る、何より武士道が、仁サンと一成サンが付いている。
 あの人らには、絶対知られたくない。

 前だって、動物好きとは限らない、動物好きそうな顔してでも猫は嫌いだとか言うかも知れねー。
 「お母さん」キャラだけに、「野良猫?!いけません…!元居た所に戻してらっしゃい!」ぐらい言うかもな…
 誰も知らなくて良い。
 誰にも知られたくない。
 俺はこのままで…「あ―――!!!!!猫っ!!」……あ¨?



 2011-04-03 23:59筆


[ 286/761 ]

[*prev] [next#]
[目次]
[しおりを挟む]

- 戻る -
- 表紙へ戻る -




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -