15.お母さん、賢者と遭遇!
「あ、はい…!こんにちは、はじめまして。前陽大と申します。すみません、遅くなってしまって…え、と…ふたがみさん…?」
あたふたとお辞儀をして、教えてもらったお名前を口にしたら。
なぜか、ふたがみさんはちょっと目を見張った後、またすぐににっこりと微笑った。
きりっと凛々しいお顔立ちのふたがみさん、見事なグレイヘアをびしっと整え、濃紺のスーツをきちんと着こなしておられて、背筋がぴん!と伸びている。
格式あるホテルの、総支配人。
そんな印象を受けた。
焦げ茶色の瞳の奥は、窺い知れない程に深い。
微笑までも、きりりっとしていて。
隙のない御方。
副会長さまと、すこぅし似通っている、冷静な空気。
こちらの洒落た建物の管理人、というよりは、まさしく総支配人って感じがする。
俺が推察するのもおこがましいけれど、きっと、隙なく管理なさっておられるんだろうなぁ。
うん、こんな大きな学校の寮に、びしっとされた大人の御方がいてくださったら、とっても心強い。
保護者さま方は、そりゃあご安心ですねえ。
「御丁寧な御挨拶を有り難う御座います。当寮には管理担当の者が二十四時間態勢で常駐して居ります。時間の事は気に為さらないで下さい。
前様、改めまして、十八学園に御入学おめでとうございます。これからより良い学園生活を送られます様、『十八寮』にて快適に過ごしていただくべく尽力致します。何か御不便等御座いましたら、いつでも遠慮なくお申し付け下さいませ」
わー…心強いなぁ。
「ありがとうございます、ふたがみさん。恐縮ですが、十八学園には高等部からの入学でして、まだ知らないことばかりで…親元を離れて生活することも初めてなんです。これから三年間、何かとご迷惑をおかけしてしまうかも知れませんが、早く慣れるように精一杯努力いたします。ふつつか者ですが、どうかご指導ご鞭撻の程、よろしくお願い申し上げます」
深々とお辞儀をして、顔を上げたら。
ふたがみさんは、また、目を見張っていて。
「あの…?」
首を傾げたら、すぐに、笑顔になった。
「重ね重ね御丁寧な御挨拶を有り難う御座います。外部からいらっしゃる生徒様は大変少ないものですから、心配して居りましたが…前様ならすぐに慣れる事かと存じます。何か御座いましたらいつでもフロント迄お声をお掛け下さい。他の管理人にも話を通しておきますから、気兼ね為さらないで下さいね」
「はい!こちらこそお気遣いありがとうございます。あの…寮の管理体制って…恥ずかしながらよくわかっていないのですが…管理人さまはふたがみ上さんの他にもいらっしゃるのでしょうか」
「ええ。二十四時間態勢という事もあり、交代制で管理させていただいて居ります。私は勝手ながら他にも仕事を持って居りまして、殆ど外部に居ります」
「そうなんですね、わかりました」
なるほどですねえ。
全寮制ということは、全生徒が寮と学校をひたすら往復するということ。
血気盛んで思春期真っ盛り、そんな高校生男子の集まり。
しかも、親元から離れているオマケ付き。
「やんちゃな友だち」のお顔が頭をよぎり、ほわっとしつつ、いろいろと大変そうだなぁと思った。
しかも、ふたがみさんは他にもお仕事を抱えていらっしゃるなんて。
なんだか、まだ未成年で学生の俺には想像もつかないぐらい、大変そうだなぁ。
それなのに、こんなにもにこやかに丁重に出迎えていただけて、ありがたいねえ。
ふたがみさんって、すごいなぁ。
なるべくご迷惑おかけしないように、気を引き締めて過ごさねば!
2010-04-06 22:38筆[ 29/761 ][*prev] [next#]
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