25.ね、いいでしょ?
俄に注目を受けてしまって、しぱしぱと目を瞬かせた。
「えぇと…俺は、転校生さんが来られてからも、たぶん、こんな調子で暮らして行くと想うのですが…目下の悩みは勉強で、後は日々の献立に脳内支配されておりますので、他人さまの細やかなことよりも先ず我が身の精進が第一で…未熟者で申し訳ありません。
あ、でも、皆さまが学校の平和の為に粉骨砕身なさっておられることは、大変よくわかりました!俺など皆さまのお力添えできる能力が皆無ですので、せめてスタミナがつく料理、疲労回復できる料理をお弁当シフトに取り入れて、ひっそりと応援させて頂きたいと想います!俺でよかったら、いつでもお話を伺うことぐらいはできますし!」
うん!
俺にできることは、やっぱり料理です。
明日からより一層、心をこめて、料理に励もう。
だって、食べることは、生きるエネルギーになる。
すこしでも、皆さんの力になれるように、おいしいごはんをいっぱい作るぞー!
「「「「「「……お母さん……」」」」」」
意気ごんで両の拳を握りしめている俺に、左右から手が伸びてきて、「「ハハハ…」」乾いた笑みと共に頭を撫でられた。
「なにー?」
仁と一成を交互に見たら、なんとも複雑な顔をしている。
「ま、はるとは俺と一成と武士道が守るけどさ…」
「はるるのそーゆー何事にも揺らがないほんわかさが好きなんだけど〜」
「えー?なになに?俺も一成や仁は勿論、武士道の皆が大好きだよー」
「「…アリガトウゴザイマス…」」
あらまぁ、2人共ぽっと頬を赤らめて、下向いちゃった!
いつもは格好いいメンズって感じの2人なのに、時折こんなふうに照れ屋さんな、可愛らしい一面もある。
よしよしと、交互に頭を撫でていたら、他の皆さんが絶句しておられるのが見えた。
「「「「仁と一成が大人しくされるがまま…!良い子…気持ち悪い…!」」」」
「「うるっせぇな!放っとけ、タコ共が!!」」
「こら!蛸を愚弄するような発言は止めなさい!そもそも、武士道の『お弁当に入ってたらうれしいおかずランキング』3位がたこさんウィンナーでしょうが!」
「「はぁい…」」
「変な怒り方だな、前君…しかし、確かにアレは良い」
「そうですね、日和佐先輩。あの食品は風紀の人気も高いです」
「風紀と同意見なのは複雑だが…同類のカニも良かったな…」
こくこく頷いて、しばしたこさんウィンナーに想いを馳せる皆さんに、いつの間にか復活しておられた柾先輩が切り捨てた。
「たこウィンナーにどんだけ想い入れあんの?お前ら全員ガキか」
「「「「「お前にだけは言われたくない…!」」」」」
おお?たこさんウィンナー戦争、勃発?!
「昴にはあの価値が一生わからねぇんだろうな…お気の毒な人生…」
「かわいそうにね〜情緒のカケラもないっつか〜」
「幼等部からひねくれていたしな、無理はないか…皆、済まない」
「莉人が謝る事じゃないから。日和佐先輩、昴に言ってやって下さい」
「ああ。昴、お前にはわからないのか…?ウィンナーが、何の変哲もないウィンナーが、蛸の形をしているんだぞ…!!」
いや、あの…皆さん…?
真剣な形相の皆さんなどどこ吹く風、柾先輩は欠伸をひとつ。
「あー…はいはい、タコだかカニだかのウィンナーについてはまた今度話そうね〜?それより、そろそろ解散の時間だ」
言われて、すっかり夕暮れ色に染まった室内にようやく気づいた。
時間が経つのが早い!
皆さん、すっかり冷静さを取り戻し、しゃきっと姿勢を正された。
ほんとうに切り替えが早い、ケジメがあるというのか、不思議な空気感だ。
「とにかく前君、君のそういうおっとりした所に俺もすごく癒されるけれど…『天使バルサン』と同じクラスになる事は、君の大きな負担になると想う。前君に俺達と同じGPS設定は出来ないけれど、何かあったらこのメンバーの誰でも良いから、すぐに連絡して。連絡取り合える様に、前君のメールアドレスと電話番号を教えて貰っても良い?」
真摯な瞳の渡久山先輩に言われて、なんと、皆さんと連絡先の交換をしてしまった。
ばかりか、生徒会室の柾先輩直通の回線、風紀委員室の日和佐先輩直通の回線、こちらの秘密基地の回線まで教えて頂いた。
急に増えたアドレス帳の登録数、なんだか嬉しいような、心強いけれども同時に不安なような…毛玉が固まったような気持ち。
「前陽大、よく覚えておけ。『天使バルサン』は目立つ生徒に寄生する傾向がある。お前本人がどう想っていても、お前は既に学園でこの上なく目立っている。それは悪い目立ち方ではない、だから俺達がこうして動いた。お前の呑気さは長所かも知れんが、学園の事は俺達に一日の長がある。安易な判断で動かない様に気をつけろ」
携帯を見つめていたら、日景館先輩のシビアな言葉が聞こえて、とても真剣だったからきちんと目を合わせて頷いた。
「あんまり張り詰め過ぎるのも良くないけどな!まぁ、今まで通りはるとの事は俺ら武士道が守るから。はるとはどーんと構えてな!」
「いつもちゃんと見てるからね〜こーしてはるるが真相知ったからには、これまで以上にちゃんと守ってみせるから〜」
俺も、仁と一成、武士道の皆がいてくれることに、ほんとうに安心してる。
安心して頼ってばかりじゃなくて、俺にできることでお返ししていくからね。
「陽大にはウチのガキ共…悠筆頭に、宗佑も優月も満月も世話になってるからな〜アイツらが誰かに懐くなんざ滅多に無え事だ。莉人も俺も子守りから解放されて肩の力抜けるっつか。陽大、面白いしな。お前はこれからもお前らしく在れば良い」
また面白いとか言ってますけど、この御方。
おざなりに頷いた視界で、柾先輩が俺の自信作のメモを見ているのがわかった。
「前君、いずれにせよ、『天使バルサン』の事だけではない、何事も1人で抱え込まない様にしてくれ。我々の鉄則は報告、連絡、相談だ。これから何が起こるかわからない。僅かでもどんな事でも、異変を感じたらすぐに教えて欲しい。君のユニークな観点が、学園を平和へ導くと我々は信じている。今後は表でも裏でも宜敷く」
日和佐先輩の言葉が、解散の合図になった。
2011-03-24 23:50筆[ 280/761 ][*prev] [next#]
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