21.踊って頂けませんか


 笑い続ける柾先輩を無視して、一成がうーんと首を傾げた。
 「仲良いのかね〜?そういうんじゃないかな〜長い付き合いだからね〜つか取り敢えずお茶にしない〜?はるるのお茶が飲みたいのだ〜」
 「「「「同感」」」」
 わぁ、恐縮ながら、確かにそこにキッチンがある限り、俺の好奇心は尽きません。
 が。
 ちらっと、まだお腹を抑えて笑ってる柾先輩を見た。
 お茶と、言えば。

 「……非常に不本意ではありますが…お互い不本意でしょうが…柾先輩のお手並みを拝見しながらお手伝いしたく想います」
 「…あ?」
 うひゃうひゃ笑っていた柾先輩に、全員の視線が集中した。
 「「「「「何で昴?」」」」」
 え…?!
 皆さん、不思議そうな怪訝そうな表情を浮かべていらっしゃる。
 まさか?!
 そんな…!
 長いお付き合いではないのですか!?

 「柾先輩はプロのバリスタさんみたいに、」
 「あー、陽大!バラすなよ…」
 何ぃっ?!

 心底面倒そうな声を上げた柾先輩に、更に集中する、険しさを増した5人分の視線。
 「…っとに、謎だらけなのな、昴…」
 「はるると秘密ごと〜?勝手に作らないでよね〜」
 「どこまで器用なんだか…」
 「理解に苦しむ」
 「昴……てめぇ、今の今まで散っ々『俺は箱庭育ちだから何も出来ねえ』とほざいて、生徒会のお茶当番回避して来やがったクセに…!バリスタとはどういう了簡だ、あぁ"?」
 口々の感想は、日景館先輩の不穏な気配と「表へ出ろ」の声で方向性が変わった。
 「「りっちゃん、落ち着いて〜」」
 「「莉人、平常心!前君が居る!」」

 皆さんが一生懸命、乱闘必至な日景館先輩を止めていらっしゃる中。
 「いやーん、りっちゃん怖ぁぁぁい!」
 襟首掴まれながら、しなっと裏声を作る柾先輩に、日景館先輩も俺のこめかみもピクリとうずいた。
 この御方ときたら!!
 「「「莉人、取り敢えずヤって来い」」」
 「あぁ、任せとけ」
 「前君は俺と一緒にこっちに居ようね。前君のお茶のほうが、昴が入れるより絶対に美味しいと想う」
 やんちゃモード全開の皆さんを背に、渡久山先輩がにこやかに話しかけてくださった。

 同意を示そうとしたところで、「あーはいはい、わかったわかった」と気怠そうな声が聞こえた。
 「理事長室限定のご奉仕だったのに…っち、バレちまったもんはしゃあねえな。その代わり此所限定だからな。表では絶対しねえ。あーあ、ここのマシン、デロンギじゃないから嫌なのになー…」
 ため息吐きながら、立ち上がった柾先輩。
 皆さんの瞳がキラリと輝き、日和佐先輩が俺をきりっと見た。
 「前陽大、先程の言葉の続きを。『柾先輩はプロのバリスタさんみたいに』、その後は?」
 「は、はい!えぇと、プロのバリスタさんみたいに、素晴らしく美味しいコーヒーを入れてくださったじゃないですか、です…あの、まるでスタバにいるみたいでした」
 「「「「「スタバ…!」」」」」

 キラッキラに輝く皆さんの瞳と対照的に、柾先輩は「あーあ…そこまで言うかー…?」とげんなりしていらっしゃる。
 「つか、此所は理事長室みてえに茶関係、充実してねえし」
 ぶつぶつと足掻く柾先輩に、皆さん、それはいい笑顔。
 「「「「「至急手配しよう!昴の為に」」」」」
 「……お前らな…」
 あらまぁ、どうしましょう。
 ちょっと面白い、けれども。
 「えぇと…俺が差し出がましい一言を洩らしたばかりに、ご迷惑おかけしてすみません…?」
 「だから何で半疑問なんだっつの…良いけど、別に…では皆さん、日が暮れる前に解散したいんでー、ご注文をどうぞー」

 「カフェラテ」
 「ホワイトモカ」
 「ハニーミルクラテ」
 「カフェモカ」
 「ソイラテ、+ホイップ」
 「仁、そりゃタリゾウだっつの…陽大は?」
 「俺は、抹茶フラペチーノ?」
 「「「「「おぉ…!勇者!」」」」」
 「かしこまりました。少々お待ち下さいませ」
 なんと、まったく動じていらっしゃらない、柾先輩!!
 てんでバラバラのオーダーなのに、紙にメモすることもせず、飄々としていらっしゃる。
 ほんとうに何者なんでしょうか。

 はっ!
 平気なふりして、適当なものを出すつもりじゃないでしょうか…
 そうは問屋が卸しません、飲食に関して食い意地と好奇心は人一倍の俺がいる限り!
 ソファーに深く腰かけて、まったり寛ぐ姿勢の皆さんの為にも、俺の為にも、これは監視が必要ですね!
 ひとつ、お手並み拝見と行こうではありませんか。
 かくして、簡易キッチンへ向かう柾先輩の後を追った俺は、そのあまりに見事な手際の良さ、洗練された動作にかなりの衝撃を受けるのでありました。
 手出し無用、まさにその一言に尽きる…
 ぽかーんとしている間に、ドリンクは次々と完成し、柾先輩はあろうことか、かわいらしい動物絵のラテアートまで施してみせた。

 ほんとうに何者?!
 俺はひたすら圧倒したまんま、出来上がったドリンクを片端から運ぶ役目に終始したのでありました。



 2011-03-20 23:52筆


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