14.それでは第一ダンジョンへ
「ん〜…しっかし、ほんとうに空気がおいしいなぁ…」
深呼吸しながら、俺は再び歩き出していた。
十八さんと別れを惜しみつつ、理事長室を辞した後。
いただいた地図を見ながら、理事長棟(なんとこちらの学校、生徒と教職員の校舎が単独で存在しており、先生方はまた別棟、理事長さまは理事長さまだけ、と建物が異なるらしい…!)から、生徒寮への道のりをひたすらに歩いている。
この道のりも、来た時と同じように楽しくって仕方がない。
春っていい季節ですねえ。
こうして自然豊かな山の中、きれいに整えられた緑や花たちが、あちらこちらで生き生きしている校内を歩いていると、つくづく実感する。
どこを見ても、絵になるってやつだ。
目にやさしい、たくさんの若葉や花々の鮮やかな色。
こんないい所で生活できるなんて、ほんとうにうれしい。
早く学校に慣れて、あちらこちらを散策しなければね!
友だちも、たくさんできたらいいなぁ…
きっと、どこでお昼ごはんを食べても、気持ちいいに違いない。
食事は、ひとりよりも、誰かと一緒に食べたらずっと楽しくなる。
気の合う友だちと、学校内を探検してお散歩して、ごはんやお茶を一緒に…考えただけで、なんだかワクワクする…!
たまに十八さんとも一緒にお昼の時間を過ごせたら…忙しい御方だから、なかなか難しいかも知れないけれど。
恐らくそう遠くはないであろう、楽しい未来のピクニック計画を立てていたら、目的地まですぐだった。
「『外国のデザイナーズホテル風・ちょっと無駄…?やたらに大きくて広いキラキラの生徒寮』、こちらのことだよねぇ…?」
地図に書いてある、十八さんの流麗な文字。
そのまま読み上げて、目の前の建物を見上げて。
うんうん、ここに間違いありません。
しかし、なんとまあ…!
目の前にどかーんと広がる、外国のアパルトマンみたいな、レンガ造りの外観。
小窓や出窓が付いていて、まさに外国風のお造りだ。
建物の周りにも、ちょっとした庭園や緑、街路樹と言ってもいいだろう木々が整備されており、日本からいきなり異国へ迷いこんだ気分になる。
二・四…六階建て…?
俺の想像できる「生徒寮」という言葉が当てはまらない、お洒落で巨大な建物だ。
すごい…すごすぎます、十八さん。
しばらく、ぽかんと口を開けたまま。
建物を見上げて、突っ立っていた。
今日から俺も、こちらの住人となるんだ。
く〜〜〜…ワクワクする…!!
建物の中、部屋の中はどうなっているんだろう?
早く入って、早く見てみたい。
必要な家具はあらかじめ備え付けてあるって聞いている。
どんな家具なんだろう?
俺の持って来た荷物との相性は?
早くお部屋づくりしたい!!
逸る鼓動を持て余すと同時に緊張しつつ、ぎくしゃくと建物の中へ、ゆっくり一歩。
足を踏み入れた。
年季のある味わい深い外観と違い、中はモダンな雰囲気だ。
入ってすぐ、広々としたエントランスホール。
黒とコンクリートと濃いブラウンが基調の、どこか大人っぽいインテリア。
前衛的なアートや、観葉植物が、大きく飾られている。
出入りする生徒さんが談笑するために設置されているのだろうか、黒い革張りのソファーとガラスのテーブルセットが、いくつも並んでいた。
こちらだけで、見応えある…!
十八さんの学校は、寮までも、なんて探検しがいのある所なんでしょう!
きょろきょろと、辺りを見渡していたら。
「―――こんにちは。初めまして、私、当寮の総合管理人を務めさせていただいて居ります、二上謙介(ふたがみ・けんすけ)と申します。失礼ですが、今日から入寮予定の前陽大様でしょうか?」
ふと、品の良い声が聞こえてきて、視線を向けたら、スマートで格好いい初老の男性が、微笑を浮かべて俺を見つめていた。
2010-04-05 23:56筆[ 28/761 ][*prev] [next#]
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