20.僕たちと共に、


 皆さん仰る通り、ここはさながら温室のような造りだった。
 片面がガラス張りになっており、広大な森が見渡せるようになっている。
 室内にもたくさんの植物たちが置かれており、今は日が暮れかけてる為、薄暗くって間接照明がほんのり点いているけれど、お昼間に訪れたらそれは気持ちがいいだろう。
 中央にはゆったりと大きめサイズの、飴色の皮のソファーセット。
 部屋の片隅には、年季の入った書棚と執務机が置かれており、簡易キッチンの存在も窺えた。
 奥に見える扉の向こうは、お手洗いだろうか。
 このちいさな白いお家に2階はなく、外観からして、温室リビングがこの家のすべてのようだった。

 外にも、内にも、たくさんの緑があふれている。
 
 十八学園のテーマ、と言えるのかも知れない。
 自然に囲まれた環境で、学校生活を送るということ。
 恵まれた環境だ。
 今まで見て来たどの場所よりも、ここの緑っぷりは半端ないけれども。
 皆さんのリラックスした様子にも頷ける。
 柾先輩も日景館先輩も日和佐先輩も渡久山先輩も、皆さんブレザーを脱いでネクタイも取っていて、公共の場で見せる硬さが抜け落ちていらっしゃる。
 日和佐先輩と渡久山先輩に至っては、眼鏡をかけていらっしゃらない。
 
 仁と一成も、早速そこらにブレザーとネクタイを脱ぎ散らかして、あーあー言いながらソファーにだらしなくもたれている。
 「こら!自分の制服はちゃんと大事にしなさい!散らかしなさんな!」
 つい、いつものクセで叱ったら、「「はぁい」」とすぐに反応してくれた2人。
 とは別に、他の御方まで「「「「はい!」」」」と、あわあわしながらブレザーとネクタイ…よくよく見ればそこらに荷物だの何だの散らばっているではありませんか…を救出し、揃ってハンガーラックに掛け始めた。
 なんとまぁ…先輩方、重責なお立場だけに、私生活は気を抜いちゃうパターンなのでしょうか。
 仁と一成にだけ言ったつもりだったのに、折角のリラックスタイム、なんだか水を差してしまった…?

 「す、すみません…そんなつもりじゃなかったのですが…急に乱入して来てご挨拶も述べない内に、出過ぎた真似をして申し訳ありませんでした。改めまして、こんにちは…お邪魔しております」
 しゅんと一礼したら。
 「ぶはっ」と盛大に吹き出した、かと想ったら延々と笑い始める声が聞こえて、わなわな手が震えこめかみがピクついてしまったけれど、なんとか堪えました。
 わかっておりますよ。
 わかりますとも。
 こんなバカ笑いするような御方は、たった1人きり。
 柾先輩め…!
 どれだけ俺を面白がれば気が済まれるものか…!!

 「「「「「昴、笑い過ぎ」」」」」
 わなわなしていたら、冷静な皆さんのお声が聞こえて、幾分落ち着くことができました。
 柾先輩はいつまでもひーひー笑っていらっしゃいます。
 放っておくに限りますね。
 「前君、そんなにかしこまらなくて良いし、昴なんか気にしないで良いからね」
 渡久山先輩、やっぱり優しい!
 「此所へ来ると、我々はつい気を抜き過ぎてしまうから、君の指摘は有り難い。昴は放置に限る」
 日和佐先輩も気を遣ってくださった。

 「「「お前、いつまで笑ってんの?」」」
 仁と一成と日景館先輩は、ものすごく嫌そうな横目で、未だ笑い続けている柾先輩を見ている。
 「昴の笑いのツボは昔からおかしい。前、気にするな」
 日景館先輩はどなたさまよりもクールだった。
 「昴がここまでハマってんのも珍しいけどね〜変態は放置〜」
 一成はなんと柾先輩に蹴りを入れて、1人掛けのソファーへ押しこんだ。
 「変態警報発令中につき、付近の住民の皆さんは避難して下さい」
 仁の真面目な口調に、他の皆さんはさっと柾先輩から離れて、俺の方向へ逃げて来られた。

 「……あー、笑った笑った。『こんにちは…お邪魔しております』って…!だから俺ぁ反対なんだっつの。こいつ入れたら、お母さん節炸裂しまくって俺の笑い筋崩壊するじゃん」
 涙まで拭いながら、そんなことを言う柾先輩に、皆さんは冷ややかな一瞥を向けている。
 「「「「「反対だの賛成だの、どっちなんだハッキリしろ」」」」」
 「ま、もう動き出してるし、此所へ来たからには黙って帰す訳には行かねえな」
 にやりと悪どく笑う柾先輩に、一切動じず、深々と頷く皆さん。
 「「「「「当然」」」」」 
 一連のやりとりを見つめながら。
 俺が感じたことは、ひとつだった。


 「皆さん、やっぱり仲がよろしかったのですね」


 ひそやかな呟きのつもりが、全員からきょとんとした視線を受けたことで、皆さんに聞こえていたことがわかった。
 だってだって、気安いやりとりはつまり、それだけ仲がよくないとできないものじゃないですか。
 それに、なんだか柾先輩のことをよく知っておられるような、皆さんの口ぶり。
 柾先輩だけに限らず、恐らく、皆さんはお互いのことを深く理解しておられるのではないか。
 それは、こういう秘密の場所を共有していることからも窺い知れる。
 俺は、こんな部外者なのに、ほんとうにここに来てよか「ぶはっ」………。

 また、笑い始めたんですけれど、あの御方。
 もういっそ無言でいましょうか?
 お互いの平和の為に。



 2011-03-19 23:59筆


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