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 柾先輩の深遠な瞳が、俺をまっすぐに見つめた。
 十八さんの仰る通り、ほんとう、嫌になる程美形で男前さんだ。
 なんとなく負けん気が起こって、逸らしたくなくて受け止めた。
 まったく意に介さない、先輩の表情は淡々としている。
 「はい!!見つめ合わないー!!僕をひとりぼっちにしないー!!ちょっと昴君、離れてくれる…?理事長命令です!!」
 十八さんの手が視界を妨げた、と想ったら、べりっと音が出そうな勢いで距離を空けられて、正直ほっとした。
 先輩の瞳は正視に耐えかねます。

 「ははっ、理事長がマジになってるー」
 「僕はいつだってマジです!!」
 「え〜そぉですかぁー?」
 「昴君のイジワルっ!男前っ!高身長っ!カッコいいわカワイイわ…ギャップ萌えっ!それから、それから…」
 「はいはい、誉めて下さってありがとうございますー」
 「ううっ…昴君、長所ばっかりなんだもの…」
 「……あのぅ…お話の途中で申し訳ありませんが」
 大変恐縮ですが、仲良しさん?のお2人のじゃれ合い?を中断させて頂いた。

 「俺がアイドル会長さまと並んで目立っているとは、到底想えません。転校生さんが来られても、俺が地道に学校生活を送って行くことには変わりませんし…どういった御方なのか、十八さんのお話だけではまだわかりませんが、同じクラスなら多少なりとも交流を持ちたいと想いますし、友だちが多いのは素敵なことだと想います」

 そう言ったら、「「甘い!」」と同時に指摘されてしまった。
 「甘いよ、はるくん…!白馬学園だってウチより歴史は浅いけど、相当の名門校なんだよ?生徒達もいろんな意味で賢い子ばかりだ。そんな白馬が匙を投げる程、九穂君は嵐と言う事!僕も何度か顔を合わせたけど…あの子は手強い!何せ、日本語が通じないんだからね!」
 「白馬には知り合いが居る。各学園の生徒会関連で、向こうと多少の付き合いもある。最近連絡取れねえと想ってたら、んな事になってたのか…成る程ね…つかお前、どんだけ注目浴びてるか自覚ねえのな〜そりゃ危険だわ」
 うーん?
 「当人に会ってもいない内から、物事が何も起こっていない内から、陰で動く理由が俺にはありません」

 十八さんが眉を下げ、柾先輩は面白そうに笑った。

 「何かが起こるかも知れない、だから可能な限り予防線を張る、あらゆる事態を想定する…対策を練っておくのは大切な事だ。ただ、不必要に過敏になって本質を見失うのは良くねえ。今回は心ある人間関係の事だし?
 けど、相手がこっちの平和論に賛同してくれるかどうかは別だろ。他人はてめえの想い通りにならねえ。60億も居たら60億だけの考え、想いが在る。誰かにとっての正義は、誰かにとっては悪だ。
 理事長の言う通り、白馬はそんじゃそこらの坊っちゃん学校じゃ無え。奴らは奴らで社会に出る為に強い、それを崩壊させてやって来る転校生に警戒するのは当然だ。…くっそ、しかし正(ただし)のヤツ、今頃高笑いしてやがんだろーな…逆に笑ってやっけど…ま、それは良い。
 陽大の言いてえ事もわかるけど、『俺達』はここまで来た『十八学園』を守る」

 十八さんがパチパチとちいさく拍手なさっている。
 この方は一体、何を抱えていらっしゃるのだろうか?
 生徒会長としての責務は、ここまでの発言を導く程に、重いものなのだろうか。

 「それは当然として…確かに陽大は学園で目立ってる、3大勢力の件は明かすべきだと想う。理事長直々にこうやって引き合わされて推されるのは、俺の想定外でしたが…?まさか、『はるくん』『十八さん』状態とはね…?」
 少なからず労りの気持ちを催していたら、次の瞬間には何と極悪な笑顔!!
 この御方には何の労りも必要ないですね!
 よくわかりました。
 理事長をからかわないでくださいと、毅然と言おうと想ったら。


 「はるくんは、僕の大事な家族なんだ」
 

 十八さん…?!

 「って言っても、正式にはまだだけど…大事な家族なんだ。理事長が個人の感情で動くべきではない事はわかっている。だけど、あまりにも彼は此所で目立ち始めている。今まで過ごして来た平穏な日常を壊してしまうのではないか、何か大きな問題に巻き込まれるのではないか、1生徒としても非常に心配だ。僕は昴君の事を、生徒会長としても友人としても信頼している。勿論、はるくん個人が他の生徒より優先されて良い訳はない。特別扱いははるくん自身も望まないだろうから、ほんの少しだけ気に掛けて貰えたらと想う」
 先輩に頭を下げる十八さんを、すぐに止めたかったのだけれど。
 俺は動けなかった。
 視界の隅に映る先輩の横顔からは、すっかり揶揄の色が抜け落ちていた。

 「俺と理事長の仲でしょう。頭を上げて下さい。つか理事長、あの片想い上手く行ってたんだ?どうなってんのか気になってたけど、そっとしとこうと想ってたーへぇ、良かったじゃん。今更ですがおめでとうございます」
 「昴君のイジワルっ!そうだよ、昴君がツッコミ入れてくれないから、言うタイミング逃しちゃったんだからねっ!」
 あれ?
 シリアスな空気があっと言う間に消えちゃった?
 また元通りのノリ?

 と言うか、十八さんと柾先輩は、プライベートな話をするぐらい仲がよろしいのですか。
 祝福の言葉を大仰に言い続ける先輩に、十八さんは照れてわーわー言いながらも満更じゃなさそう。
 なんだか微笑ましい。
 「ん、遊んでる場合じゃねえか…そろそろお暇する時間の様です」
 腕時計を見て、先輩が息を吐いた。
 「転校生の件、了解しました。放課後至急、陽大も連れて『3大勢力』召集します。後、理事長の俺への信頼の件も、ね。理事長のお気持ちは痛い程お察ししますよ、俺にも大事な家族がわんさか居るので」
 「わんさか」を強調しておかしそうに微笑った先輩は、やっぱり男前で、お任せくださいと言い切った姿に、十八さんはぽ〜っとなっておられた。



 2011-03-16 10:07筆


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