16


 転校生さん…?!
 
 きょとんと首を傾げたら、隣の柾先輩も首を傾げておられた。
 合わせるように、十八さんまで首を傾げられた。
 3人揃ってその体勢のまま、室内に満ち満ちる、それは厳かな静寂。
 静けさを破ったのは、相変わらす強く吹いているらしい、風が窓を打ちつける音。
 十八さんがはっと姿勢を整え、拍子抜けしたように呆然と一言。


 「え…何で2人共、驚かないの…?」

 ぴゅうううっ、ガタガタガタ!


 窓を揺らし続ける風のほうに、びくっとなった。
 やおら、柾先輩が口を開いた。
 「学園では外部生より希有な存在の転校生、しかも随分な時期外れと来た…つまり何らかの問題を抱えての転校と言う事ですか。本人ないしは本人を取り巻く状況に問題でも?」
 頭の中で整理されておられたのだろうか、すらすらと澱みない言葉に、十八さんは深い深いため息を吐かれた。
 「「ため息吐くと幸せ逃げますよ」」
 想わず呟いたら、ものの見事に発言が被ってしまった。
 ちえっ!

 「……ねぇ、マジで君達、変に仲良くない…?僕の預かり知らない所で弁当シフトは一体どうなってるって言うんだい…」
 「どうもなってませんよー仲がいいだなんて、まさか!十八さんが勘違いなさらないでください。学園のアイドルさまと一般生徒の俺にどんな接点や共通項も有り得ませんったら」
 「ひっでぇなー陽大。何気に差別ってんのな、俺らの事…」
 「さべ…?!そういう問題じゃなくてですね、俺はですね!」
 「はいはい。皆に公明正大なお母さんだしなぁ…?ま、それはとにかく、理事長。話を進めて下さい。マジでリミット迫ってるし。理事長がため息吐く程の嵐を呼ぶ転校生なんでしょ?『俺に』話すのがこんな瀬戸際になったっつーのも、大問題だ」
 はらはらと柾先輩と俺を交互に見やっていた十八さんのお顔が、更に深刻になった。

 「その通りだよ、昴君…『私も』決定を通達されたのはつい昨晩の事なんだ。慌てて昴君とはるくんにメール送って、今朝こうして会えた事は少なからずとも良かったと想う…想いたいな…」
 あらあら、十八さん、すっかり弱気だ。
 どうしたことでしょう。
 母さんの特製手作りプリンの最後の1つを取り合って、俺が勝ってしまった時ぐらいに、ものすごく弱気だ。
 転校生さんが、5月も半ばを過ぎた今この時期、明朝にやって来られる。
 それは一体、どういうことなのか。

 「転校生の名前は九穂(いちじく・みのる)。はるくんと同じ1年生で、実は既にA組へ入る事が決まっている」

 まあ!
 「九穂……確か九家は」
 慎重な柾先輩の語尾を、十八さんはこっくりと頷いて引き継いだ。
 「そう。私の生家、十八家の数ある分家の1つ。彼は私の義兄の弟のそのまた義妹の姉の…」
 「つまり、理事長にとっては遠い他人と変わらない訳ですね」
 ずばっと言い放った先輩に、十八さんもずばっと同調した。
 「うん、そうだね。遠い遠い血縁関係と言いますか…どんなに薄くても血の繋がりは無きにしも非ず、だからこそ十八学園に転校して来る訳なんだけど…それは良くないにしても良いとして、とりあえず置いておきましょう。問題は、彼自身が嵐なのだ、という1点に絞られます」
 人指し指を立て、げんなりとなさった表情を、緊張感保って見つめた。
 
 「九穂君がこの春入学したのは、私立白馬(はくば)学園高等部」
 「へぇ…名門じゃん。白馬、か…」
 「九君は中等部から白馬に通っている。ところが、5月になった時点で学園側から退学を要請された…『頼むから出て行ってくれ』と言われた様なものらしい」
 「どんな問題起こしやがったんですか?」
 んん?!
 柾先輩の眼光が、鋭さを増し、口元には何故か黒き微笑みが浮かんでいる…!
 とても不気味です、距離を空けておきましょう、コーヒー共々ね。
 十八さんは難しいお顔で、コーヒーを一口飲んでから、躊躇うように話を続けた。


 「九穂君の白馬学園でのあだ名は、『美形バルサン』。白馬学園も我が校と同じく男子校で全寮制で、美形の生徒や学校関係者が多い、と言ったら理解して貰えるかな…?

 そのあだ名の通り、何処へ隠れようとも必ず美形をおびき出し、生徒も学校関係者も自分の支配下へ屈させる…美形に限らず、何かしら目立っている生徒がターゲットの様だ。当人は『友達は多ければ多い程良い!』と悪気なく無邪気なだけ。良く言えば善意の固まり…?悪く言えばまったく大人になれない子供…?だから余計に始末が悪い…尚且つ彼には、街で大きな不良チームに属しているとか、悪い噂もある。

 『九君が頑張った』結果、現在、白馬学園の生徒会と風紀委員会は壊滅、親衛隊は解散、生徒の生気は失われて学園は荒み、あらゆる暴力が横行する様になってしまった。まさに嵐。確証されていないが恐らく間違いない、一部の生徒が九君に直接にしろ間接にしろ、心身共に傷付けられたそうだ。
 白馬学園の理事長とは友人でね…九君と微弱な血縁関係があるという事もあり、急遽決まったこの転校に私は抗えなかったんだ…」


 美形バルサン…?!
 凄まじいニックネームに、ぽかんとするしかなかった。
 続けて向けられた、十八さんの傷みを含んだ眼差しと言葉に、更にぽかんとなるしかなかった。

 「今、我が十八学園で最も目立っているのは、昴君とはるくん、君達2人。
 昴君は言わずもがな、美形で男前のやり手生徒会長だし、はるくんは入学したばかりながら、3大勢力筆頭に大多数の生徒に『お母さん』と慕われている。九君の興味は先ず必ず、君達2人に集中する筈だ。その後は君達の周りに居る、3大勢力や親衛隊持ちの生徒達へと、言い方は悪いけど寄生して行くだろう…だから事前に話しておきたかったんだ。
 昴君、もう時間がない。はるくんにはゆっくり知って貰うつもりだったけど…新歓も控えている事だし今日の放課後にでも、『例の件』頼むよ」
 
 例の件?!



 2011-02-15 22:33筆


[ 271/761 ]

[*prev] [next#]
[目次]
[しおりを挟む]

- 戻る -
- 表紙へ戻る -




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -