14.嵐のお茶会
久しぶりの理事長室。
ただし、今日は十八さんと2人っきりではない。
気を抜かないようにしなくては。
室内に招いて頂いて、パタリと内扉が閉まった途端、急に静かになってしまった。
これから一体、どんなお話が始まるのだろう?
とりあえず、俺が今できること。
「お茶でも入れて来ましょうか」
そう提案したら、十八さんがどこか困ったように苦笑いなさった。
「えっと、昴君が此所の設備に馴れているから、いつもの様に昴君にお願いしようかな?」
なんですって…!
「了解でーす。理事長、今朝は何をご所望ですか」
「えーと…今日はバニラミルクラテのホット、トールサイズのホイップ多めで!」
なんですって…?!
「かしこまりました。陽大、お前は?」
大好きなコーヒーショップの如き素敵オーダーを繰り出した十八さん、何ら動揺なくあっさり頷いた柾先輩を、交互に見つめた。
なんですか、一体どういうことですか?!
「はるくん、昴君に作れないものはないよ!好きな様にオーダーしてごらん。カスタマイズもお手のものだよ!」
こそっと、得意気に耳打ちしてくださった十八さんに、俺は事態がよく掴めないながら頷き、暫し目を閉じて熟考。
あれもこれも捨て難いけれども、やはりここはコレを頼んでおくべきでしょう…!
くわっと目を開き、キッと先輩を見据えた。
「キャラメルマキアートのホット、トールで!ミルクとホイップ多めでお願いします!」
「かしこまりました。少々お待ち下さい」
言った!
俺は言いました!!
満足です、一切の悔いはありません。
先輩はほんとうに馴れていらっしゃるのだろう、飄々と簡易キッチンへと姿を消された。
しかし先輩は何者さんなのでしょうか。
抹茶フラペチーノって言ったら、もしかしてちゃんと出て来たのでしょうか。
もうちょっと暖かくなったら、フラペチーノが飲みたいです。
座ろうかって十八さんに促されて、ソファーセットに向き合う形で腰掛けた。
程なくして、エスプレッソマシンが稼動する音と、なんとも芳しいコーヒーの香りが部屋中に漂い始めた。
いい香り〜…コーヒーの香りはしあわせを運んでくれますなぁ。
鼻をひくひく、目を細めて堪能していたら、同じように堪能なさっていた十八さんがそうそう!と声を潜めた。
「はるくんと企画した、母の日サプライズ!陽子さん、本当に喜んでくれてたよー」
「そうですかー!よかったですー」
ほんとうの母の日には、あらかじめ試験前に仕込んでおいた、母さんの大好きなスノーボールクッキーと木の実たっぷりの焼き菓子、十八さんとうんうん悩みながら決めたカーネーションの鉢植えを贈った。
「カーネーションも元気に咲いてるよ!陽子さん、来年もその先もずっと咲かせてみせるって、今から張り切ってるよー」
「ふふ、母さんの執念はすごいですからねぇ」
「はは、本当にね!母の日と言えば、はるくんも各方面からお祝いして貰ったんだよね?」
「はいーそうなんですよー」
「中学時代のお友達は何かやってくれるだろうなと想ってたけど、ウチの学園内でもお祝いされるとはねー。はるくんのお母さんっぷりがすっかり浸透しちゃったね」
しみじみ呟く十八さんは、なんだか感慨深そうだ。
「学校内をお騒がせして申し訳ありません」
「いえいえ、とんでもない事でございます。はるくんのお陰で学園に、新しい明るい空気が生まれてるし、逆に感謝して居りますよ?」
「いえいえ、恐縮です」
「いえいえ」
「いえいえ」
十八さんと戯れながら、ふと想いついた。
「十八さん、来年の母の日について提案なんですけれども」
「んー?気が早いですなぁ、はると屋さん」
「十八お代官さまこそ!いえ、ほんとうに気が早いんですけれども、十八さん、ムーンダストっていう品種をご存知ですか?」
「ムーンダスト…?何それー?」
「はいー、カーネーションの1種で、それはきれいな青い花なんですよー。花言葉は『永遠の幸福を願う』」
「何と!ロマンティックだね…青いカーネーションなんかあるんだ」
「ねー、珍しいですよね。来年の母の日は、母さんにその花を贈りたいなって想いまして。ほんとうにきれいなんですよー」
母さんも青色好きだし、なんたって花言葉がいい。
永遠って、簡単なものではないだろうけれども、それだけ想いがこめられるというか…母さんにはずっと笑っていて欲しいから。
「良いね、良いね!陽子さんも喜びそう!じゃ、来年はそうしようー!オー!」
「オー!ありがとうございます。後でHPのアドレス送るので、十八さんもご覧ください」
「OK!忘れない様にメモっとくね!……って言うか、はるくん?」
グッと親指を突き出した十八さんに合わせて、親指を突き出したら、俄に十八さんが引きつり表情が曇った。
「はるくんがそんなにキラキラした瞳で語ると言う事は、実際にその花を目の当たりにした…と言うか、今回の母の日で誰かに貰って今現在部屋に飾ってる、そういう事ですよね?間違いありませんね?」
う…!
そこは触れないでほしかったのですが!
「……そして、十八学園を経営して来た僕の勘が正しければ…そういうあまり世間に知られていない花を知っていて、尚且つはるくんにサラッと贈る『高校生男子』は、1人しか想い当たらない…中学時代でも今でも、はるくんの周囲に花関連の家業に携わっている御子息は居ない事からも、犯人は容易に導き出される…」
は、犯人?!
強張った十八さんの追求の手は、揺るぎなく背後を指し示した。
「犯人は、昴く、」
「お待たせしました。ホットバニラミルクラテのトールサイズ、ホイップ多めと、ホットキャラメルマキアートのトールサイズ、ミルクとホイップ多めでございます。熱いのでお気を付け下さい。…つか理事長、犯人が俺って何の事?」
「「わー!!びっくりしたー!!」」
シルバーのトレイを掲げた柾先輩の急な登場に、緊迫していた十八さんと俺は飛び上がって驚きました。
無駄に驚かさないでほしい!
2011-03-10 23:34筆[ 269/761 ][*prev] [next#]
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