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長い指が、小気味良い音を立てて扉をノックしている。
…ふん…さも器用そうな、大人の男みたいな指しちゃって、なんなんでしょうか、別に羨ましくなんかこれっぽっちもありませんけれども。
俺だって、俺だって、来年の今頃には成長してますから!
年若い、特に高校生男子の1、2年の差って、ほんとう大きくって嫌になりますねぇ。
この背の高さとか、この肩幅とか、俺に対する当てつけ?
今に見てらっしゃい、顔の作りは変えられなくても、身体は鍛え方次第でどうとでもなるんですからね!
俺には成長期という、最大の味方が付いているのですから!
「何、陽大。さっきから百面相して…顔が面白い事になり過ぎてんぞ」
「な…!失礼な…!俺は成長期に守られているんですよ?!」
「ははっ、何だそりゃ!何の話だよ?」
「柾先輩には関係のないことです、どうぞお気に為さらず。ご安心下さい、成長期という名の守護霊はとっくに先輩から愛想つかして離れております」
「ぶはっ!お前、何が見えてんだよ!意味わかんねえし!つか俺、まだ背ぇ伸びてるし」
「なんですって…!何て不公平な世の中なのか…!っく…柾先輩についている成長期さん、どうぞ先輩なんかにいつまでもひっついていないで俺の元へいらっしゃってください…いつでも大歓迎、3食デザート付きでお待ちしております…」
「だから何だよ、『成長期さん』って…ブツブツ怖ぇ」
想わずここがどこだかを忘れ、成長期さんをどうにか招待できないものか躍起になっていたら。
キィっと、遠慮がちに内側から開いた扉。
隙間から見えた室内サイドには、不安そうにこちらを窺う十八さんのお顔。
物言いたげな切ない雰囲気をかもし出し、じいっとこちらを見つめる十八さんに、はっと我に返った。
ほぼ同時に、先輩も本来の務めを想い出したようだ。
「「おはようございます、理事長」」
実に不本意ながら、笑顔と朝のご挨拶が被ってしまいました。
「…被せないでください、生徒会長さま」
「はぁ?陽大が勝手に被って来たんだろ」
ちいさく言い争っていたら、扉がそうっと閉まった。
「「え?!ちょ…理事長?!」」
慌てて揃ってノックしたら、再び、扉がキィと開いた。
しかし、今度は先程よりもすこししか開いていない。
その隙間から、哀しそうに微笑う十八さんの瞳が見えた。
「……2人共…僕の知らない間に随分仲良しさんになったんだね…ふふ…おかしいなぁ、呼び出したのは僕なのに…まさか仲良く一緒に来るとは想ってもみなかったし…?
今日、どうしたらこの3人で話題が盛り上がるかなって…昨夜ほとんど寝ないで一生懸命考えて、イメトレもバッチリだったんだけど…取り越し苦労だったみたいだね…?
ふふ…寧ろ僕、居ない方が良い、みたいな…?」
わー!!
十八さんがすっかり「ひとりぼっちモード」になっている!
このモードに突入すると、立ち直って頂くまでとっても大変!!
「「いやいやいやいや!十八さん、必要だし!!絶対必要だし!!」」
慌てて必死に声を張り上げたら、これまた先輩と被ってしまい、憤慨しそうになったけれど、また扉が閉まりそうでそれどころじゃない!
「……本当に、仲良しなんだね……」
そんな寂しそうな声を出さないでくださーい!
「それは大きな勘違いですよ、十八さん!柾先輩とはたまたま玄関で遭遇しただけですから!!高校2年生にもなって未だに背が伸び続けてるとか、けしからん宣戦布告して来られる御方と俺が、どうして仲良くなれるものでしょうか?!」
「うっわ陽大、ひでえなー。つか、全世界の16才から上を敵に回してんじゃん。20代になっても成長し続けてる奴とかどうなんのー?」
「俺は柾先輩に限定してお話しておりますっ!俺筆頭にその他の皆さまはガンガン逞しく成長して良し!先輩はもう十分でしょう!」
「尚更ひでえな〜ま、スポーツ選手になる予定も無えし、いーんだけどさ」
やいやい言っていたら、すこしだけ扉の開きが大きくなって。
「えー。昴君、スポーツ選手は端から頭にないの?スポーツ万能のクセに〜運動部顧問の先生皆、悔しがってるよー?僕も残念だなー」
「いやいや、無理無理。理事長ならわかるでしょう?俺ぁ飽き性なんでね」
「まぁねぇー…しかし、本当いろいろ勿体ない子だよね。昴君なら芸能界でも天下取れそうだけどさー」
「益々有り得ない話は止めて下さい」
「「そうかなぁ?」」
十八さんに倣って首を傾げたら、心底イヤそうなお顔をされてしまった。
「幼等部から今に至るまで散々見世物になって来たんだ、もういい加減、俺は裏に引っ込みたいですよ」
「「あぁー……」」
なるほど。
先輩の幼少時を存じ上げていないけれども、きっと、現在と同じく目立つお子さんで、その頃からアイドルさんだったのだろうな。
十八さんも感慨深そうに頷いていらっしゃる、間違いない。
周りに注目され続ける人生なんて、俺には想像もつかない、ものすごく大変そうだぁ。
この人なら何でも面白がっていそうだけれど。
「……つか、理事長?」
にっこり、そんなアイドルさまからキラキラの笑顔。
笑顔と同時に、素早く繰り出された長い足が、扉を捕らえた。
「ご機嫌修復完了でしたら、室内へ入れて頂けません?雑談する為に呼び寄せた訳じゃないですよね?時間喰ってたら一般生徒の登校が始まる。急がねえと、今日の昼には『大スクープ!柾昴×前陽大、早朝の理事長棟で秘密の逢い引き!』って号外が学園飛び交いまくっちゃいますよ?」
「俺は構いませんが」と不敵に笑う柾先輩に、十八さんは慌てて扉を開け放った。
俺は構うし、こういう質の悪い冗談は止めてほしいです…。
2011-03-09 23:53筆[ 268/761 ][*prev] [next#]
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