7.アレなんですけれども
お花たちに気を取られて、ちょっと遅くなっちゃった。
男の俺に「母の日」の行事で大量のお花が贈られて来たこと、驚かせてしまっただろうか…
申し訳ない想いでいっぱいになりつつ、なんだか様子のおかしい美山さんと教室へ向かった。
いや、美山さんだけじゃない。
登校中の生徒さん方も、ぎこちないご様子だった。
ちらり、ちらりと、あちこちから送られてくる視線へ、目を向けたらすぐに気まずそうに逸らされてしまう。
いつも気さくにお声をかけてくださる方々とも距離感を感じる。
まるで、入学してから数週間の頃へタイムスリップしたみたい。
新聞報道部さんにすっぱ抜かれてしまった時より、ずっと穏やかな空気だけれども、何かがおかしいことには変わりない。
どうしたことでしょう。
どうしたらいいのでしょう…?
試験前の最後の平日、週明けから試験開始という、張りつめた緊張感漂う時(作者注:ここまで想い詰めているのは陽大だけかと想われます)なのに、朝からお騒がせしてしまってお詫びのしようもございません。
俺ったら、十八学園をお騒がせしてばっかりだなぁ…
こんな自然豊かな素敵な学校さん、素敵な先生方、素敵な生徒さん方と、非常に素晴らしい環境にやはり俺は相応しくないのかも知れません。
あ、落ちこみそう。
どんどん思考が沈んで行く。
けれども、なんとか教室へたどり着いた途端、落ちこんだ気持ちは消え失せた。
「おは、…???」
教室へ1歩足を踏み入れて、ぽかーん。
状況が呑みこめなくて、教室中を見渡して、ぽかーん。
教室内には、全員が揃っているばかりか、業田先生までいらっしゃった。
いつの間に本鈴がなったのだろう!と、一瞬めちゃくちゃ焦ったけれど、時計に目をやればまだまだ時間があるどころか、予鈴すら鳴る時間になっていない。
尚かつ、皆さんそれぞれ各所で作業なさっておられた。
それよりも何よりも、目を見張ったのは、教室にも大量の花たちが存在していること。
「……一体、何ごと…?」
想わず呟いたら、静まり返っていた教室内に想ったよりも大きく響いたようで、美山さんと俺に気づいた皆さんのお顔が、はっと強張ったのがわかった。
黒板消しを手にしていた業田先生が苦笑なさった。
「あー……っと、おはよう、前、美山」
「おはようございます、業田先生。あのぅ…これは一体何ごとでしょうか?」
恐る恐る問いかけたら、消されかけの黒板を指された。
すこし、消えかかっているけれど。
十分に読めた。
色とりどりのチョークで描かれた文字と絵。
『前陽大お母さんへ!
母の日おめでとう!!
お母さん、いつもおいしいごはん、ありがとう。
大好き!!
テスト頑張ろうね!
テスト終わったら、たこウィンナーのお弁当作ってね。
お母さんのお手伝い、いっぱい頑張るから、いろいろ教えてね。
また一緒にごはん食べようね。
いつまでも元気なお母さんでいて下さい。
お母さんが十八学園に来てくれて、本当に嬉しいです。
いつもありがとう。
これからも末永くよろしく!!
代表/1年A組一同
協賛/生徒会+親衛隊
風紀委員会+風犬隊
武士道+野良猫
放送委員会
喧嘩道
ザ・食堂ファン
学園お散歩倶楽部』
えええーっ…!?
2011-03-02 23:07筆[ 262/761 ][*prev] [next#]
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