6.アレに決まってますね
ロビーを埋め尽くす、花、花、花…
ここは花屋さんか、花畑かと見紛う程、たくさんの花!
どれもに付けられた宛先カードをよくよく見れば、「前陽大様へ」。
間違いようもなく俺宛てだ。
赤やピンクのグラデーションで統一された、花の海。
巨大な花輪、多種多様な鉢植え、大量のブーケ…いろんなアレンジメントで構成されている。
いつもロビーを素通りなさって登校する生徒さんたち、皆さんぽかんと花たちを見つめたまま、あちらこちらに佇んでおられた。
美山さんも、呆然となさっておられる。
二上さんだけは、この異常事態にも笑みを絶やさないまま、カウンターの上にずらずらと並ぶ電報と、積み上げられたメッセージカードを指し示された。
「これだけは必ず御本人様の目の前で読んで欲しいと、御依頼主様方からのメッセージが届いて居ります。読ませて頂いても宜しいでしょうか」
「は、はい……」
なんとなく。
なんとなーく、うっすらと犯人の察しがついている。
いろいろな花たちの中、主役の花は1つに絞られていたから。
「では、読み上げさせて頂きます。
『俺達の大切なお母さん・陽大へ
今年は直接祝えなくて残念だ。お互いテスト期間だし、お前は山だし、仕方ないが遠方から感謝の気持ちを伝える。いつもありがとう。陽大がいつでも健康で、穏やかな笑顔の絶えない日々を過ごせます様に。愛を込めて。
K中&K小卒業生・あなたの子供達一同より
代表・美郷秀平』
……良い御友人をお持ちの様ですね、前様」
やっぱりかぁ…!
カーネーションばっかりだったから、そんなことだろうと想ったぁ〜!
秀平ったら…!!
皆も!!
ゴールデンウィークの時は何も言わなかったくせに〜!
そんな素振りひとつ見せなかったくせに〜!!
ブログのコメント欄だってずっと静かだったし!
嬉しいけど、嬉しいけど……嬉しいなぁ…
テスト前で荒んでいた心が、急浮上して、じわ〜んと嬉しさがこみ上げてくる。
電報もメッセージカードも、大好きな「くまのプウ太」で統一されているし。
すっごく、すっごく、嬉しいなぁ。
しかしながら秀平さん、いささか派手過ぎますよ?
しかも朝からフライング母の日なんて、他の生徒さんがびっくりするじゃありませんか。
相変わらず笑顔の二上さんに、ちょっと恥ずかしくって顔が赤くなりつつ、丁重に頭を下げた。
「朝からご迷惑お掛けして申し訳ありません…小学校から付き合いのある友人たちが、毎年母の日に何故かお祝いしてくれる習慣がありまして…まさかここまで追ってくるとは想いも因らず、予告なく急にこの様な事態を招いてすみません」
「いえいえ、とんでも御座いません。進路を別にしても交流がある御友人の存在は、とても尊いものですよ。こちらこそ、素晴らしい友情に感動させて頂き、貴重な経験を得られて光栄で御座います」
二上さんは、お優しいなぁ…
「お気遣いありがとうございます。……皆さんも、すみません。驚かせてしまったばかりか、ご通行の妨げになってしまって大変申し訳ありません」
未だ立ち止まっておられる生徒さん方にも頭を下げ、さてどうしたものかと、花たちを見つめた。
部屋に運ぶのはいいとして…全部入るかなぁ?
特にこの花輪ですよ、この巨大でゴージャスな花輪!
「笑って●●とも!」に出演した記念じゃあるまいし、「祝・母の日おめでとう/前陽大君へ/美郷秀平より」って秀平さん、調子に乗り過ぎてません…?
嬉しいけれども、この花輪は部屋に搬入できるものやら…
できたとしても縦には置けない、横に置いたとしても部屋からはみ出るよねぇ…
うーんと腕組みしていたら、二上さんが提案してくださった。
「前様、差し出がましい様ですが、お部屋に全て運ぶ事は不可能でしょうし、今からでは遅刻為さってしまいます。前様さえ宜しければ、大半はこのままロビーへ飾らせて頂いて、前様の帰宅後、手頃なサイズのものだけ検討してお部屋へ運ぶという事で如何でしょう?」
「わ、それはとっても助かりますー!けれども、皆さまのご迷惑になりませんか…?」
「とんでも御座いません。この様な美しい花々を飾らせて頂けましたら、私共も生徒様方にとっても目の保養になりますから。管理人一同責任持ってお世話させて頂きますから、どうか安心してお任せ下さいませ」
なんたる有り難くも心強きお言葉!
お言葉に甘えさせて頂くことにして、丁重にお礼を述べ、一先ず登校することにした。
秀平たちにはお昼休みか放課後、みっちり感謝メール攻撃しようっと!
テストが終わったら、お礼のお手紙と、なにか日保ちするお菓子を作って送ろう。
2011-03-01 23:43筆[ 261/761 ][*prev] [next#]
[目次]
[しおりを挟む]
- 戻る -
- 表紙へ戻る -