1.お母さんの黄金週間


 パタパタと、加減よく送られてくる風を活かしながら、せっせとしゃもじを動かした。
 米粒をつぶさないように、まんべんなく寿司酢が行き渡るように、早く冷めるように…
 手早く、てきぱき混ぜ続ける。
 飯台に炊きたてのごはんがのって、寿司酢が混ざっていくと、なんともいい香りが鼻をくすぐる。
 ちらっと後方を窺ったら、皆の作業も順調そうだった。
 うんうん、さすがのチームワーク!
 それぞれお手伝い歴3年を誇るだけあって、とても頼もしい!

 お手伝いしてくれる内に、料理に興味を持って、今も自己流で腕を磨いている子たちもいる。
 嬉しいねぇ…皆の世界がすこしでも広がるきっかけになれたのならば、こんなしあわせなことってない。
 わいわいと楽しそうな皆の姿に、更に俺のやる気も火がついて、ますます張り切って飯台へ向かった。
 パタパタ、ちょうどいい風を送り続けてくれている、最優秀お手伝い助手部門3年連続トップの座をキープしている秀平が、ふと、手を休めないまま口を開いた。


 「ゴールデンウィーク、もう終わりだな…明日には『異世界』つか十八へ帰るんだろ?」


 頷くと、どこか寂しそうな苦笑が返って来て、ちょっとキュンとなった。
 いかんいかん!
 集中集中!
 また無言で、2人で酢飯作り。
 だいぶんいい塩梅になったところで、うちわを扇ぐ手を弱めた秀平が息を吐いた。
 「けど、会えて良かった、陽大」
 「うん…俺も。皆に会えて楽しかったよ。わざわざ時間取って集まってくれて、ありがとう、秀平」

 十八学園に入学して、あっと言う間に時間が経った。
 気づいたら、初めての大型連休、ゴールデンウィークへ突入してしまった。
 そのまま寮に残ってもよかったんだけれど…
 全寮制ということで、十八学園のゴールデンウィークは、丸々1週間も休みになってしまう。
 次は夏休みまで外出できないから、大半の生徒さんが寮からいなくなる。
 3大勢力さんを始め、クラスメイトの皆さん、美山さんも寮から出ると仰った。
 どうしようかなと想っていたら、「当然帰って来るよね?!」と十八さんから押し切られ、俺も帰省することにした。

 振り返れば、いいお休みだったなぁ。

 祝日の間はこんなふうに、昔馴染みの友だちと会って、平日の間は実家でのんびり過ごして。
 母さんも、家で会う十八さんも、友だちも、皆元気でよかった。
 皆、それぞれの居場所でしっかりと立っている。
 大切な人たちが頑張っている姿、元気にしていること、すごくすごく励まされる。
 俺も、もっと頑張らなくちゃね。
 皆から元気なパワーをもらえた。
 正直、こんなに早く帰省しちゃったら、寮へ戻った時、寂しくなってしまうかも知れないと不安だったんだけれど。
 不安になっている場合じゃない。

 皆を見習って、俺も夢の為にしっかりと、今過ごせる時間を大切にしなくては!



 2011-02-23 23:19筆


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