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 十八さんは子供みたいに瞳をキラキラさせた後、「ところで…」って言い難そうに口を開いた。
 ふふ、また表情が変わってる。
 家にいる時と同じように学校内でもくるくる表情が変わる十八さん、側で見ているととっても微笑ましい。
 それに、それだけ俺に気を許してくれているのかなぁって、ちょっとほっとする。
 「なんでしょうか」
 ところで、って言いかけたまま、止まってる十八さんに首を傾げたら。

 やさしく微笑いかけてくださった。
 「はるくん、陽子さんと本当に似てる…特に、表情や雰囲気がそっくりだ。にこにこ笑って、穏やかで温かい空気で…何て言うのかな〜、大きな存在感と言うか」
 「えー?そうですかね〜???」
 「うん。静かに見守ってくれる感じとか、すごくよく似てる。男の子のはるくんに対して、この表現は違うだろうけど、やっぱり、父性じゃなくて母性っていう感じ?」
 母性!

 「あはは!やっぱり俺はお母さん気質なんですかね〜?」
 「う〜ん…そうだな、時に厳しく時に優しく…こう、下町人情的な気っ風(きっぷ)の良さも勿論あるんだけど、はるくんはおっとりしてる所もあるから…とにかく、ものすごく和むんだよ〜」
 十八さんがにこにこ笑うから、俺もつられてにこにこ。
 二人で、にこにこ。
 「つまり、はるくんと話してると安心するし、すごーく癒されるって事〜家で寛いでる時みたい…」

 お昼寝前みたいにホンワカし始めた十八さんに、笑いながら一応注意させていただいた。
 「十八さ〜ん、いけませんよ〜お仕事中ですよ〜。ここは学校ですし、俺だって入学を控えた入寮前ですし…そうそう、さっき、何を言いかけておられたんですか?教えてくださいな」
 「はっ、そうそう…そうだよね…はるくんは今日から入寮して、明日は入学式なんだよね…もう今晩から、僕が家に帰っても居ないんだよね…」
 あらあら、今度はショボショボと目を瞬かせていらっしゃる。

 「十八さん?もうずっと前からお話していたことでしょう?寂しく思ってくださるのはとってもうれしいですし、俺も寂しいですが…ね?ちゃんとメールも電話も欠かしませんし、長期休暇には必ず帰りますから。約束は守ります、絶対に」
 ん?
 このお話、さっきもしなかったっけ?
 デジャブを感じながら、寂しそうに目を伏せている十八さんを、懸命に励ました。
 なんとか持ち直してくださった十八さんは、本題に入ってくれた。

 「…ええと、そう、それでね…ついさっき、はるくんは裏門からここまでやって来たんだよね。どうだった…?まだ入寮前だから、学園の中心部には行ってないだろうけど…印象悪くないかな?何とかやっていけそう?ごめんね、ごめんね、無駄に広くて大変だよね…?だけど、慣れたら大丈夫だと思うんだけど…どうかな…?」
 オロオロと心配そうな十八さんの、最後の言葉を聞き終わる前から、つい、身を乗り出してしまっていた。

 「そうなんですよ、十八さんっ!!」
 「はいっ、何でしょうか…!!」
 「俺、すっ……………ごぉく、感動しました!!!!!」
 目が点になっている十八さんを、気遣える余裕はなかった。

 「こんな、街からちょっと離れただけで、今時珍しいぐらい豊かな自然の中に学校があって、すっごく空気がおいしくて、俺、久しぶりに何度も深呼吸しました…!!想像を遥かに超えて、びっくりするぐらい広いし…!!
 学校の中なのに、探検し甲斐のありそうな、お散歩したらすっごく気持ちよさそうな森とかお庭とか…俺、ずっと街で暮らしてきましたから、もうもうほんとうに感動しちゃって…こんなすごーく素晴らしい環境で、高校生活を始められるなんて、すっごくすっごく楽しみです!!はっ、もしや…成績も上がっちゃう…?十八さん!!!」
 
 「はい!」
 「こんな素晴らしい学校の存在を教えてくださったばかりか、受験を許可してくださってほんとうにありがとうございますっ!!俺、三年間大いにたのしませていただきます!!」 
 俺のあまりの勢いに、十八さんはぽかんとなさってから。
 照れたように、すこし苦笑みたいに微笑って。
 「こちらこそ、そう言っていただけて光栄です。ありがとう、はるくん。改めて、十八学園へようこそ!入寮並びに入学、本当におめでとう!!」

 「はい!ありがとうございます!ふつつか者ですが、三年間よろしくお願いいたします、十八理事長さま」
 そう返礼したら、また、表情を崩されてしまった。
 「………二人っきりの時は、そんな他人行儀なのはイヤだな〜…理事長様って、理事長様って…確かにそうなんだけど、理事長様って敬称がヤ!フツーが良いんだけどな〜…」
 むずかる十八さんの頭を、恐れながらナデナデしてあげたい気持ちになりつつ、俺は「はいはい」と何度も頷いたのでした。

 
 
 2010-04-03 22:40筆


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