90.親衛隊員日記/心春日和vol.4
自慢じゃないけど、僕の勘は外れない。
第6感ってやつ?
この天性の勘を活かして、波瀾の絶えない十八学園を上手く渡り歩いて来た。
中等部の頃には遂に親衛隊総隊長にまで昇り詰めたし?
『こはる、つよくなれ。こはるのぶきをみがけ』
胸の真ん中にはいつも、幼いながらに凛々しかった柾様の言葉があった。
だから、僕は僕の勘を信じてる。
「心春、御苦労様。此所までで良い。後は各自でいつもの定期連絡しておいて」
心春は雑用係に格下げされたのでしょうか?
そう世の中に問い質したい昨今だけど、まあ、この化粧オバケ共の天下も後半年程度。
執念深くプライド高いコイツらの事だから、夏休みが終わっても暫く居座るんだろうなー…ウゼェなおい。
とにかく、この雑用係扱いも半年の辛抱、秋が来れば僕の天下だ。
それまでは僕の忍耐力を総動員して、懸命に追従してりゃあ良い。
(化粧オバケ共に媚びへつらっとけば、親衛対象の方々にも評判良いしね!柾様とか、柾様とか、柾様とかにね!)
前陽大の弁当シフトがスタートした今週、現在、金曜日の放課後。
好調な滑り出し、週末を迎えられた事に、学園全体が安堵している。
その筆頭は間違いなく、僕ら親衛隊員だろう。
前陽大がもし皆様と「必要以上に」接触し、親しくなり、恋愛感情が芽生えでもしたら、相手が誰であれ大変な騒動になってしまう。
僕がこれまでヤツと接した時間中、注意深く観察した結果、どうやら本気で料理が好きなだけみたいだ。
加えて、元々の性格がおっとりのんびりしていて、非常に面倒見が良い。
単純にお母さんキャラなだけ。
月曜にクラスで食べた弁当も、マジで美味しかったし。
前陽大に問題はない。
ヤツは白だ。
気になるのは、化粧オバケ共がまた、前陽大をご所望してきやがったこと。
人が素直に従って連れて来た途端、さっさと2階の別名「お化け屋敷」フロアに連行しやがった。
お化け屋敷で何する気だ。
人畜無害のお母さんをどうするつもり?
お母さんはねぇ、心春専属の恋のキューピッドなんだからね!
大体お母さんもお母さんだよ!
「合原さん、わざわざ付き添ってくださってありがとうございました」とか言って、いそいそ付いて行くなよ!
助けて!とか、行きたくない!とか言えよ!
化粧オバケが恐くて言えないのかも知れないけどさぁ、なら態度と表情で示せよ!
イヤならイヤって、ちゃんと表現してよね!
そしたらクラスメイトのよしみで助けてやらんでもないのにっ。
心春はねぇ、腕っぷしこそ弱いけど、弁舌と演技は負け知らずなんだからねっ!
「…と…白バラ様…」
仕方ないから、引き留めちゃったじゃん。
一瞬、「富田先輩」って言いそうになっちゃったじゃん!
前陽大を囲んで、さっさと2階へ上がろうとしていた化粧オバケが、ぐるっとこっちを振り向いた。
でも、足を止めたのは化粧オバケ1匹、富田先輩だけ。
もう1匹…織部先輩は、ちらっと冷ややかにこっちを見たけど、前陽大を促して2階へ行ってしまった。
引き留めた意味ねぇだろぉがっ!!
空気読めよ、腐れオバケ共がっ!!
「何?心春」
何?じゃねぇし!
気取ってんじゃねぇよ!!
きゅるるん天使顔を作りながら、オバケを相手にするのがイヤでイヤで、鳥肌立ちまくったけど、ちゃんと言葉を続けた心春は本当に偉くて可愛いと想う。
「白バラ様…差し出がましい様ですが…前陽大をどう為さるおつもりですか…?」
先輩の威光に震えながらも、友達を想って一生懸命な後輩を演出しつつ、上目遣いで問い掛ける。
てめー、弁当シフトが柾様の采配で施行されている今、この期に及んで前陽大に何かしやがったら許さねー!!
「心春には関係ないよ」
って、簡単に会話終了させんなよ!!
それだけ言って、上へ向かおうとするオバケの背に、御慈悲を訴える。
「白バラ様…!彼は…前陽大は、お料理が好きなだけの一般生徒です…!僕の大事な友人なんです…どうか手荒な事は、」
言いかけた名演技の名セリフは、もう振り返りもしないオバケに嘲笑って遮られた。
「心春が心配する様な事は何もないけれど…?友人、か…心春の初めての友達だね」
嘲笑された、悔しさよりも。
初めての、友達…?
前陽大が、僕の、友達だって?
追いすがっていた足を止めるに相応な捨てゼリフ。
友達とかどうとか、そういう以前に、とにかくイヤな予感が消えてくれない。
続いて欲しい平穏は、簡単に崩れる脆いものの様で。
僕の十八で培って来た武器のひとつ、天性の勘が告げている。
今は良くても、これから先、良くない事態が起こるのではないかと。
化粧オバケ共が前陽大と接触する事は、その予感を増長させる。
誰かが泣く未来が、今にも現実になりそうで怖い。
その時、泣くのは、一体誰…?
2011-02-18 22:07筆[ 253/761 ][*prev] [next#]
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