87.双子猫のきもち 第2号


 やっと木曜日になった。
 お待ちかねの昼休みが終わってから、僕らはずうっとゴキゲンさんだった。
 だって、すっごぉぉぉく楽しかった!
 前陽大とお昼ごはん。
 これから木曜日はずぅっといっしょ。
 もっともっと仲良くなったら、きっと、ずぅぅぅっといっしょに前陽大とごはん。
 おいしいおいしい、前陽大の手作りごはん。

 いつか絶対に、前陽大を生徒会のものにするんだ!
 生徒会で独占するんだ!
 その為に頑張ろうねって、僕らはこっそり誓った。
 前陽大の側にいると、とっても安心する。
 ほんわか、へにゃあってなる。
 それは僕たちだけじゃない。

 食べることに興味のないりっちゃんが、いつもよりいっぱい食べてた。
 好きキライ多いひさしも、前陽大にはメロメロで、いつもウダウダうるさい文句を言わず、嬉しそうに食べてた。
 人見知りの激しいそーすけも懐いてて、それは幸せそうに目を細めて食べてた。
 なによりも、こーちゃんと前陽大がいたら、なんか無敵な生徒会って感じ!
 いつもプンプン怒ったり、営業スマイル炸裂させて忙しいこーちゃん。
 学園で1番大変でお疲れさまの、ゆーとみーの憧れで、大事なお父さん。
 前陽大がいると、こーちゃんの雰囲気もちょっとだけ、ふわあってなるみたい。

 ごはんを食べながら、話している2人をこっそり観察して、ゆーとみーは頷き合ったんだ。
 こーちゃんと前陽大が、お父さんとお母さんで、ゆーとみーたちはその子供みたいだなあって。
 そんな風がいいなあって、想った。
 そうしたら、どっちともずぅっと一緒。
 皆一緒、幸せになれる。
 今よりもっともっと、楽しい学園生活が送れる。
 これは名案ですぞ!
 決めた!
 ゆーとみーは、こーちゃんと前陽大にお父さんとお母さんになってもらう為に頑張る!!

 ゴキゲンさんで、放課後、ひさしとそーすけと4人で歩いてた。
 こーちゃんとりっちゃんに頼まれて、1年生組はおつかい。
 よくある仕事も、何だか楽しい。
 楽しい計画があると、雑用まで楽しくなってしまう。
 ひさしとそーすけは、なんかテンション低かったけど、僕らは気にしなかった。
 毎日忙しいから、気分にムラがあるのは当たり前。
 テンションの上がり下がりの激しさは、特別珍しいことじゃない。
 それよりも、「明るい家族計画」に夢中だった。

 一舎君に会うまでは。

 「アレ…生徒会の1年生組サンじゃないデスカ〜お疲れサマデス」
 おつかいの途中、たまたま立ち寄った自販機の前に、一舎君はぽつんと立っていた。
 りっちゃんみたいに、王子様の顔。
 だけど、りっちゃんよりも黒い雰囲気で、暗い暗い瞳。
 想わず足が止まってしまった。
 こーちゃんとりっちゃんに言われなくたって、この子には近寄りたくなんかない。
 別の自販機に行こうって、ひさしとそーすけの制服をぎゅって、引っ張ったのに。

 「ウチの萌えぇ前陽大こと萌えりーとのランチタイム、確か初日でしたヨネ〜?いかがでシタ〜?萌えタイムは…畜生、生徒会室に忍び込んで萌えりーの総受けっぷり、ムービー撮りたいゼ!俺様カッコ実はヘタレ?カッコ閉じる会長+鬼畜腹黒副会長+大型ワンコ+チャラ男会計+イタズラ小悪魔双子攻め…×萌えりー…!6P美味し過ぎんダローがハァハァ」
 「ちょっとぉ〜馴れ馴れしく話しかけないでくんない〜?はるちゃんに変な呼び名付けんじゃねぇよ…てめぇのもんじゃねぇしぃ〜クダラナイ妄想で汚すな」
 「…はると、萌え…?ダメ。勝手、妄想、ダメ。」

 どうしよう…
 ひさしとそーすけがおかしい。
 いつもは相手にしないクセに、どうして?
 一舎君は、キレイなお顔でにいっこり笑った。
 ひさしとそーすけを見て、にいっこり、お伽話の猫みたいに妖しく笑った。


 「おおーコワ…!だけど君タチ、敵は俺じゃないデショー?君タチの親玉、柾センパイ様々は間違いなく萌えりーゲット狙ってんデショ。敵は生徒会にアリ!
 弁当シフトだっけ?考えたのはダァレ…?
 君タチの大事な大事な前陽大と、1番接近してるのはダァ〜レだ…?
 俺、知ってるヨー?柾センパイが前陽大とコソコソ会って、それを誰にも秘密にしてるコト…」


 一舎君の笑顔は、でも、すぐに無表情に変わった。
 固まった僕らの前に、ちいさな頃から見慣れてる、おおきな背中が現れたから。

 「なかなか戻って来ねえと想ったら…何道草食ってんだよ、悠、宗佑、優月、満月。飲み物ならこんな品揃え悪ぃ所じゃなくて、委員会棟の自販で買えっつってんだろ?」
 不敵に笑うこーちゃんに、僕らは正直、とてもホッとしていた。
 「わぁお、親玉登場デスカー」
 「一舎祐、俺の可愛い後輩に何か用があるなら、俺が聞く」
 「センパイってマジ過保護ーアッハ、アンタどんだけ自分に酔ってんだかー!マジ気色ワルゥ〜だからアンタとは話したくないんデスヨ。じゃ、サヨーナラ。いつまでアンタの独裁政権が続くやら…これからが見物デスネェ?」
 「てめえも男なら、人の周辺嗅ぎ回って裏で暗躍する前に、正々堂々正面から来やがれ。暗躍する度胸があるなら簡単だろうが」
 「センパイと話すと孕みそうで怖いんデスー僕、身体弱いシー宮内センパイみたいにみっともないのも御免デスー」

 こーちゃんの空気が、変わった。
 でも一舎君は、もう居なかった。
 そういう、身の危険を読む才能があるのかも知れない。
 こーちゃんはため息を吐いた後、僕らを振り返った。
 「帰るぞ、悠、宗佑、優月、満月。飲み物なら向こうでもっと美味いの買ってやる」
 「「うん!」」
 いつものこーちゃんにほっとして、ゆーは左手、みーは右手に飛びついた。
 こーちゃんのおっきな手は、ゆーとみーの安心。

 「別に助けてくれなくて良かったのにぃ〜」
 「…助け、いらない。だいじょぶ、だった。」
 それなのに、ひさしとそーすけは、なんだかムッとしていて、こーちゃんの顔を見なかった。
 「俺、ここで買ってくし」
 「おれ、も。」
 こーちゃんがおいしいの、奢ってくれるって言ってるのに。
 ひさしとそーすけ、順番に買った飲み物が、ごとんっと落ちて来る音が、なんだか寂しく聞こえた。



 2011-02-14 23:59筆


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