11.国王さまはデカい小動物でした


 ふうっと一息吐いた十八さんが、カップを置いて、真面目な視線をこちらに向けられた。
 「…うん、それでね…はるくんの考え方はとても好きだし、僕にはない発想だから良い刺激になる…人を安易に判断しない、それは大人でも中々出来ない事だ。どうしても我々は瞬間を重視して、自己分析された狭い視野の中だけで、人や物事を判断してしまうから。
 …だけど、ね、」


 「「生徒会には気をつけて」」


 十八さんの言葉、予想できたから。
 思わず声を出したら、見事にハモってしまった。
 息がピッタリ合ったことに、俺はまた、吹き出してしまった。
 十八さんは切なそうに眉を顰めておられる。
 「笑ってしまってすみません。でもだいじょうぶですよー十八さんに話してもらったこと、ちゃあんと覚えてますから!」

 この学校へ入学することが決まった時、何度も重ねてお話してもらった、「平和な高校生活を謳歌するための秘訣」。


 其の一、曲者揃いの生徒会には近づかない。
 其の二、同じく曲者揃いの風紀委員会には近づかない。
 其の三、更に同じく曲者揃いの不良集団には近づかない。


 その他諸々、いろいろな注意事項がある中、この三点だけは絶対に外せないポイントなのだそうだ。

 「油断してた僕が悪かったけど…まさか副会長の日景館君が自ら動くとは思ってもみなかったんだ。生徒会の中でも比較的害のない子が来るだろうって、安易な予測をしていた…彼等が何を考えているのかはわからないけど、とにかく本当に気をつけてね!
 生徒会も風紀委員会も不良集団も、『特権』を活かして夜な夜な外出しては、眠らない街・大都会で阿鼻叫喚…あぁ、恐ろしや恐ろしや…!!はるくんに、このはるくんに、彼等の黒さが乗り移ったらどうしてくれようか…!!いいや、はるくんの陽子さん仕込みのしっかり者っぷりで、彼等の魔の手は逃れたとしても、どんな悪影響があるやら…!!
 あああ、考えただけで動悸目眩息切れが…!!はるくんが僕の学園に入学してくれたのは、学園中スキップして回りたい程、喜ばしい事だけど、万が一、はるくんの身に、」

 いつもの心配暴走が始まってしまった十八さんに、俺はティーポットを傾けて見せた。
 「はいはい。十八さん、お茶のおかわりはいかがですか?」
 「あ、いただきまーす。ん〜…はるくんが入れてくれるお茶は、やっぱり格別に美味しいなぁ〜…」
 「ふふー、そう言っていただけるとうれしいです!ますます腕に磨きをかけるべく、今後共精進いたします」
 「え〜もう今のままで十分だよ〜!あ、そうそう、頂き物のお菓子が………って、そうじゃなくて…!!そうじゃなくて…はるく〜ん………」

 真剣な眼差しで暴走なさっていたかと想ったら、のんびり和んで、その次の瞬間には我に返ってノリツッコミ。
 今はウルウルした眼差しで、じいっとワンコさんのように俺を見つめていらっしゃる。
 十八さんって、表情豊かでユニークで…なんと言いましょうか、お茶目さん?
 お可愛らしいなぁ。
 なんて、大人の方に対してこっそり思ってしまう。

 「大事なお話の途中でしたのに、ごめんなさい。でも十八さん、ほんとうにだいじょうぶですから…ね?そんな特別に華やかな御方たち、しかもお忙しそうな先輩方ばかりですのに、一般生徒の俺と接触すら有り得ないでしょう。ばかりか、三年間まったく関わらないまま終わりますよー。
 副会長さまとだって、先程の一瞬だけで、もう直々にお会いすることもないでしょうしねえ。俺は、だいじょうぶですから」

 十八さんはまだまだ、何か言いたげな、心配でたまらないっていうお顔だったけれど。
 ふと、目を細められた。
 「………そうだよね…家に居る間、ずっと注意事項ばかり話していたし…はるくんはしっかりしてるし、大丈夫だよね」
 「はい!しっかりしてるかはさておき、俺は絶対安全平和主義ですからね」
 「ははは…どうしたって心配は尽きないんだけど…余りうるさく言い過ぎるのも良くないよね…とにかく約束した通り、はるくん、どんな些細な事でも良いから、何かあったらすぐ僕に相談してね?大抵の平日は此所に居るから」

 「はい。十八さんだけが俺の頼りですから…こちらこそ、よろしくお願いいたします」
 「え、マジで…?僕だけがはるくんの頼り…?そんな風に思ってくれて…?」
 「はい!もちろんですとも!」
 「は、はるくん…!!!」
 ほんとうにお可愛らしいなぁ、十八さんったら。
 俺の両手を握って、感極まっていらっしゃるのか、ウルウルにプラス、キラキラ輝く瞳がなんともかんとも…頭を撫でてしまいたくなるというか、小動物的なお可愛らしさだ。

 年上の男の人、ましてこれから家族に…父親、になる御方に、そんなことできないけれども。
 早く、素直に言えたらいいなぁ。
 「お父さん」って。
 心の中では、何度も練習してる。
 母さんにも、「おめでとう」って笑顔で、いつか… 
 そのために、ちゃんと気持ちの整理をつけないと!

 親元を離れた(実際には十八さんがいてくださるけれど)寮生活で、俺はすこしぐらい大人になれるだろうか。
 頑張ろうって、改めて心に誓った。



 2010-04-02 22:23筆

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