81.音成大介の走れ!毎日!(2)


 「――…そんな具合で本日、弁当シフト初日は滞りなく終わりましたー!以上、音成の報告を終了致します!んじゃ、また!もう戻っていっスか?前のヤツ、食後のデザートまで用意してるんスよーあ、何なら今日の弁当の内容聞きます?聞きたいでしょ?聞きたいんでしょ?聞くつもりでしょ?」
 
 わざと聞いてやったら、ものっそい不機嫌な声が『ブログで見るから良い』と返して来た。
 はは、素直じゃねーの。
 超!超!超!羨ましいクセに。
 笑いを噛み殺しながら、はいはいと応じ、辺りを見渡した。
 新1学期そうそう一波乱も二波乱もあった週が明け、月曜日の昼休み、大概の生徒はまだ食堂に居る時間だ。
 目立たない渡り廊下の端には、殆ど人気(ひとけ)がない。
 辺りに気を配っている内、携帯の向こうから何か喋る声が聞こえて、ちょっと焦った。
 
 「はい?!あーはい、問題は今の所何もないっスねーまだ初日だし。親衛隊は勿論、教職陣も一般生徒も大半がもうヤツの味方ですしね。流石ですね、あんたの前陽大は入学して1週間ちょいでヒーローだ。
 はぁ?いやいや、別にバカにしてねーし。俺なんか既にヤツの味方っしょ。何です?当てにならないって?じゃー俺を使うなって話じゃないスかー。ははっ、まーお互い痛み分けっつかしょうがないって所っスね!ドンマイ俺達!え、一緒にするなって?ははは!」
 声を潜めて笑いながら、すっかり満たされた胃の辺りを撫でた。
 
 「つかー、俺、マジで胃袋支配されちゃってますし?あんたの話じゃ半信半疑だったけどねーあいつ、マジで料理上手い。まだ未完成で荒削りっつーの?俺は腹いっぱいになりゃ何でもいーぐらい、食い物にはそんな興味ないんでよくわかんないスけど。ウチの食堂みてーに、プロっていう感じはないけど味わい深いっつーか。
 あんたの指令じゃなくても、これから親交深めてって、もっと食わせてもらおーかなーって考えてますよ。部活の差し入れとか超ドリーム!

 はい?ちょっと呪詛吐かないで下さいよー怖いなー!まあまあ…ご安心下さいー俺が超絶ノンケってあんたが1番知ってるっしょ。あんたのモノには手ぇ出さねー。あくまで俺は卒業までオトモダチ立ち位置スから。他の連中は知らねーけどー?ははは!だからー、他のは知らねーしアイツが誰かに惚れるかどうかもわかんねーし、俺が監視してどうにかなるもんじゃねー、人の気持ちは他人が指図できる様な簡単なもんじゃないでしょー」

 ぐだぐだとガキくせー文句を訴えて来る携帯を、1度耳から離し、静かになった所で通話再開。
 懸念を伝えておかねばなるまいて。
 不安要素は全部報告するのが義務、契約だ。 
 「ま…気に触るヤツは1名居ますけどねー…ほら、話した事あるっしょ?何かと暗い背景が見え隠れする、一舎祐ってヤツ。あ、覚えてました?やっぱり?同じクラスでビビリましたけどねー。嘘吐けってあんたな、俺は無敵じゃありません。バスケに青春捧げてる爽やか音成大介スよ?
 はい、冗談はさておき、本気で警戒しておきます。他の連中もすげー警戒してるみたいですけどね。あー、あんたの仰る通り、頼りになるのは己の本能だけス」

 では、またねーと軽い調子で通話を切った。
 ブレザーに携帯を放り込み、教室へ戻る道を辿る。
 昼食を終えて満ち足りた様子の生徒と、何人かすれ違った。
 「きゃー、音成様!お弁当シフト、いかがでしたぁ〜?」
 途中、自分の親衛隊数人ともすれ違った。
 話はスムーズに隊員内に浸透してるし、弁当シフトの件は全校生徒が知っている。
 理解しているかどうかはとにかく。

 「おー、美味かったぜー」
 本当にその通りだから、心から笑えた。
 「良かったですぅ!」
 きゃーとかわーとかはしゃぐ姿を見て、俺の昼が満たされたものであった事を喜んでいるのか何か知らないけど、コイツらが計画して作ったものじゃあるまいし、我が事の様に喜ぶのは何なんだと苦笑が浮かんだ。
 細かい事にまで首を突っ込まないのが、親衛隊との良好な関係を保つコツだから、笑って手を振るのみだけど。
 しっかし、マジ美味い弁当だったなー。

 機嫌良く角を曲がり、教室が見えて来た所で、問題のヤツと出会した。
 
 一気に冷めるテンション。
 水を差された様で気分が悪い。
 表に素直に現すワケには行かないから、殊更笑ってやった。
 「あれー?一舎じゃん!お前、毎時間何処ほっつき歩いてんの?今日も授業出てなくね?」
 ヤツは、余裕で対抗して来た。
 おキレイな顔に浮かぶ、偽善者面の王子様スマイルは、今期の副会長にも負けてない。
 あっちのが大分マシだけど。

 「音成君、心配してくれるのデスカ?目立たない僕の為にありがとう…でもやっぱり体調『も』気分『も』悪いから、今日はこのまま寮に帰りマス。この後も萌えりーと萌えぇ時間、ヨロシクお願いシマスネ!爽やかスポーツマン×平凡だけど中身オカン…ハァハァ!明日になったらバスケコートで合体しています様に…ハァハァ!」
 少なからずとも人目があるから、コイツの表面上だけの気味悪いトークにどん引きする体を装いつつ、冷静に観察した。
 一舎は、前陽大にかなり興味を持っている筈だ。
 十八では珍しい外部生で、一見すると目立たない前だけど、3大勢力も懐かせるぐらい不思議な引力を持っている。
 目立つ生徒には必ず絡んで来る、何を企んでるか得体の知れないコイツの興味を引かないワケがない。

 「何かよくわかんねーけど…ま、気ぃつけて帰れよー」
 「あぁん、僕に優しくする隙があったら、萌えりーにもっと萌え萌えしてあげテっ!!いやっ、最初は冷たく突き放して、その後に優しくしてあげテっ!!」
 力なく笑って見せながら、その横を通って教室へ入ろうとした。
 すれ違い様に、俺だけにしか聞こえない低い呟きが耳に入った。
 「……音成君、コソコソひそひそ誰と交流中…?君ってホント、アヤシい人だヨネ…?」
 「お互い様じゃね?」
 お前に言われたくないっつの。
 つか、人が電話してる所、どこからか知らんが勝手に見てんじゃねー。

 内心すげー疲れながら戻って来た俺に、クラスメイトに囲まれていた前がすぐ気づいた。
 「音成さん、おかえりなさい。電話大丈夫でした?」
 「……あー、ちゃんと話せた。ただいまー」
 「はい。これ、音成さんの分です。さくらんぼソースのミルクプリン(改)、お嫌いじゃなかったらどうぞ召し上がってみて下さい」
 「サンキュー、食う食う!つか、(改)って何だよ?」
 「改良版なんです!従来のさくらんぼソースプリンよりパワーアップしております!」
 「ははっ、前ってマジ面白いなー」
 
 「あんたの」前陽大は、なかなか強い引力で、厄介なしがらみとか全部除けても、仲良くなりたいと想う。
 例えば、「指令」が変わってコイツを傷付けろってなったら、俺は多分、何とかコイツを逃がそうと画策するだろう。
 取り敢えずー、当初の目標は「音成さん」呼びから、名前呼びへ変わるぐらい仲良くなることだな!



 2010-02-04 22:40筆


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