79.穏やかな日々が続きますように


 「はると!」
 「はるる〜!」
 姿が見えたと想ったら、仁と一成が駆け寄って来た。
 「2人共…わざわざ迎えに来てくれたんだ?ごめんね、遅くなっちゃって」
 揃って心配そうだった表情が和らいだかと想ったら、すぐに険しい顔になって宮成先輩の後ろ姿を見咎める2人。
 「それは良いけど〜アレ、宮成じゃね〜仁?」
 「だな。はると、宮成に何か言われたり絡まれたんか?」
 なんですと?!
 「こら!目上の人に対して偉そうに呼び捨てしないの!失礼でしょう?たまたまお会いしたから、1後輩として普通にご挨拶しただけだよ。そんな言い方しないの!」

 渡久山先輩が通りがかるのを目撃したなんて、とても言えなくて、そこはお茶を濁すしかなかった。
 やむを得ない事情ばかりだけれど、ここへ来てからどんどん、誰かに言えないことが増えて行く。

 いつもは注意をしたら、素直に受け入れてくれる仁と一成が、険しい表情のまんま納得していないのは、俺が正直に打ち明けない空気を察しているからだろうか。
 「つかはるる〜目、赤くない〜?」
 「あ、ホントだ」
 「そんなことないよ。山だけに花粉かな?さっき、ちょっと目が痒くてこすっちゃったから…」
 「スマートに即答するぐらいアヤシいものはないんだよね〜え、はるる〜?」
 「はるとが花粉に弱いとか初めて聞くし?」
 うう…強気でじりじりと迫って来る2人には、強気で対応するしかない。

 「花粉症はいつデビューするかわからないんだよ?今年が俺のデビューかも知れない…そうなったらお花見はもちろんお弁当シフトどころじゃないよね」  
 大げさにため息を吐いたら、2人も息を吐いた。
 「しょうがねぇな〜ソレ出されたら折れるしかねーし…」
 仁がやれやれと言って、荷物の大きさに驚きながらも、有無を言わさず持つと言ってさらって行った。
 一成もやれやれと言いながら、俺の背中を軽く押して、皆待ってるから行こうと言った。
 「はるる、でもね〜俺ら武士道は、宮成先輩を許さねーのよ〜」
 「一成…」
 見上げた一成の表情は、どこか遠かった。

 「昴や凌が許しても、例え仁が許しても、俺は宮成先輩は嫌い〜許さない〜アノ人がナニして来たか知ってるからね〜だからできれば、はるるにも近付いて欲しくねーのよ〜」
 「俺が許すワケねーだろーが…勝手に決めんなよ、一成。つかもう止めようぜ、こんな重い話。折角のホーム完成祝いなんだ、今日は余計な事は何も無し!その辺の事情は追々わかるだろうし、その時にはるとがどう判断するか、俺らが決められる事じゃねーし。俺はとにかく武士道総力上げてはるとを守るだけだし」

 ほんとうにいろいろあったし、いろいろあるんだろう。

 「ん〜基本はソコだね〜まぁ、なんくるないさ〜か…ごめんね、はるる〜空気重くなっちった〜」
 「ううん…俺、まだ皆の事情がわからないけど、心配してくれてありがとう、一成。仁もありがとう」
 お礼を言ったら2人共、どういたしまして!と笑ってくれた。
 「すっかり遅くなっちゃった!早く戻らないとね!」




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