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 幼等部からずっと、顔は整っているものの虚弱体質で、極力目立たない様に大人しくして過ごして来た一舎祐。
 それが変わったのは、中等部に上がってからだ。
 学園内は中等部から急に、色恋沙汰で盛り上がり始める。
 コイツが日景館に連なる美形でありながら、不可解で奇妙な趣味にいきなり走っても、誰も意に介さない。
 元々周りと馴染まない孤立した存在だ、コイツの顔に興味のあるヤツ以外は今迄通り、視界に入れず避けて通るだけ。

 3大勢力や所古に十左近が、コイツの存在を無視出来なくなったのは、いつからだったか。 


 「見ましたヨォ、見ましたヨォ!!前陽大はやっぱり最高の萌えキャラ!!3大勢力や問題児だけじゃなく、元・3大勢力の宮成センパイまでもオとすとは…!!今日も萌えりーは萌え萌えミラクル発動中すな!!

 『宮成先輩…渡久山先輩のコトはもう忘れて…?そんな哀しそうな貴方、見て居られないんですっ…!』小動物きゅるるんウル顔、どやっ!?『前…』学園中にバラまかれた赤っ恥ゴシップに傷付いたセンパイのハートも萌えドッキュン!『……別れた人の哀しい想い出より…今側に居る、俺のコトも見て下さいっ!俺……初めて先輩を見た時から…』涙ポロリのトラブルで据え膳食わぬは男の恥!『前…!凌のコトは本気じゃなかったんだ…いいかげんな付き合いをして来た自分に嫌気が差しているだけで…俺は、俺は!!お前に相応しい男に成りたいと想って…!』『先輩…!』萌えぇネ、萌えぇネ!!しかーし!!アノ男が黙っていなーい!!『陽大…!てめぇは俺様のもんだ、誰にも渡さねぇ!宮成先輩…?何ならまた勝負しましょうか…?』『くっ…柾…!』うぉー、三角萌え関係、これぞ萌え道!!前陽大を手に入れる為には、アノ最強最悪の猿山のボスを倒さねばならないのであった!!俺様ボス×平凡も萌えす、でも、俺はセンパイと前陽大の意外な派生CPも萌えす〜!萌えの為には我が命惜しみ萌えぇ!!

 ……てなワケで、宮成センパイ?かわいーかわいー萌えりー前陽大の為にも、目の上のたんコブ、超ウザ障害壁の猿山ボス、倒しちゃいません…?俺と組んだら萌えラクすヨン。あのウザってーの、追い出しちゃいまショ!だいじょーぶ、風向きは今に変わりマス。十八の天下は宮成センパイが取って下さらないと、皆つまんないデショ」


 相変わらず、気味が悪い。
 
 前陽大に会って凪いでいた心が、急激に不快で染まった。
 高等部に上がってから尚の事、薄気味悪さが増した様だ。
 異国から来た優男みてーにおキレイな面して、華はあるのに、コイツは暗い。
 果てしなく底まで濁っている沼の様に、得体が知れない。
 昼間なのに、コイツが居るだけで辺りが暗く感じた。
 着ている服がいつも黒一色という事を省いても、暗い。
 
 一舎は特に、俺にしつこく絡んで来やがる。
 他のヤツの前ではまだ、多少猫かぶっている様だが、俺には容赦なく底知れない闇を押し付けて来る。
 『柾を一緒に追い出そう』
 言葉は変わっても、主張はいつも変わらない。
 役職付きの目上へ対する礼儀は端から無かった、一応のふざけた敬語を操って味方を語りながら、俺を堂々と侮辱し貶める。
 コイツにとって、常に光に照らされている柾は、個人的に親交を持った事も無い、近い存在でも無いにも関わらず天敵の様だ。
 俺の、柾に対する複雑な感情を、知った風に逆手に取って誘い掛けて来る悪魔。 

 知ったつもりでいやがる、俺とも柾とも、いや学園の人間の誰とも、真っ向から向かい合った事などない癖に、何もかも知っている気で嘲笑ってやがる。
 「……相変わらずだな、一舎」
 「誉め言葉デスカ、センパイ?」
 バカにしてんじゃねー。
 俺は確かに自己嫌悪する程、柾より劣る下らない男だが。
 亡霊みたいにフラフラしながらあちこちに媚を売り、腹の内を誰にも明かさない、世の中の全てに背中を向けて嘲笑ってるだけのお前とは違う。
 お前の言う事には、何の感銘も受けない。

 悪魔と手を組む程、落ちぶれてはいない。


 「消えろ。俺の返事は変わらない。柾は十八学園に必要不可欠な存在だ。俺の後任に柾以外の人間を考えた事はない。
 例えお前にどんな後ろ暗い戦力や策謀が在った所で、お前が敵う相手じゃない。気に入らねーなら本人に喧嘩道でも申し込めよ。てめーの素手で正面から戦って来い。俺みたいに派手な号外が出るかもな?」


 光を映さない翳った瞳が、暗鬱と細められた。
 「ふーむ……残念デスネー。宮成センパイ、益々ツマンナイ人になっちゃいましタネ」
 「誉め言葉だな」
 笑ってやったら、一瞬、その瞳に狂気が宿った。
 前陽大と大違いだ、コイツは一体どういう男なんだ。
 高等部でも要注意人物という事に変わりない、益々厄介に育った気配さえする。
 コイツ自身には体力も何も無いから、気味の悪い言葉に耳を貸さなければ害は無い。
 問題は、コイツの背後だ。 
 学園で起こった、聞くに堪えない悲惨な事件の数件に、コイツが黒幕として関わっている可能性があると、3大勢力は警戒している。

 「ま、猿山ボス引きずり落としの件はいーデス。センパイ、もう卒業ですモノネ。せめて卒業まで、萌えりーとラブラブ萌えぇ頑張ってクダサイナ。かわいーデショ、萌えりーコト前陽大、凌センパイよりかわいーデショ。もう気に入っちゃってるカモネ?せめて萌えりーと萌え萌えしまくって、俺を愉しませてクダサイネ!」

 ふらりと去って行く、妙に細長い影を見送りながら、一舎が前陽大と同じクラスである事を想い出し、強い危機感を覚えた。



 2011-01-28 22:45筆


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