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十八さんは、きっとへにゃへにゃ顔になっているであろう俺を見て、ふうってため息。
「はるくんと陽子さんには、本当敵わないなぁ…」
「陽子さん」、俺の母の名前だ。
「とんでもないです〜十八さんが心配してくださってるのは、とってもうれしいですから…ありがとうございます。心配してくださっているのに、生意気に自分の意見を言っちゃってごめんなさい」
「いや、僕こそ嬉しいし!!はるくんが思った事、感じた事、どんな事だって話して欲しいし!!ほら、か、家族に近付いたみたいで…だから、何も遠慮しなくて良いんだからね?これからもずっと、はるくんと何でも話し合いたいし、大いに意見の交換もしたいんだ」
十八さんの、なんだか切なそうな微笑に、頷くので精一杯だった。
もうとっくに、「家族」だと思ってますよ、って。
そう言いたかったけれど、言えずにただ、笑っていた。
ああ、俺はまだまだ、非力で無力で。
自分勝手な子供だ。
ごめんなさい。
ごめんなさい、父さん、母さん。
ごめんなさい、十八さん。
俺が言い出した、再婚を承諾する条件のようになってしまった提案。
十八さんが経営する学校へ入学して、そこで生活する中で、十八さんのことをもっと知りたい…
十八さんのお仕事ぶりを、生徒として感じることができたら、俺はずっと素直に母さんの再婚を喜べるかも知れないなんて、浅はかなことを思った。
そんなひねくれた提案を、母さんも十八さんも受け入れてくれた。
ほんとうはもう、とっくに納得していたのに。
会えば会うほど、話せば話すほど、十八さんのこと、尊敬できる素敵な大人の男性だなって。
好きだな、って。
きっと、これからの生活を共にしていくこと、人生の節目節目に十八さんも存在してくれること、母さんと俺にとっても自然で、簡単にイメージできた。
それなのに、俺は子供じみた提案をした。
全寮制の学校だと、最初から聞いていた。
わかっていて、十八さんが真摯に経営なさっておられる学校を、利用しようとしている。
三年間の猶予へ、逃げているようなものだ。
それなのに、誰にも責められなかった。
もう始まっていた同居生活、母さんはずいぶん前にお店を畳み専業主婦の態勢になっていて、後は正式な手続きだけだったのに。
十八さんは笑って、『じゃあ、はるくんが卒業してから入籍できるように頑張るよ!』って言ってくれた。
『この三年間で、はるくんに認めて貰えなかったら…認めて貰えるまで諦めない』
『僕は、君達と家族になりたい』
素直じゃない俺を、優しく受け入れてくれた。
ごめんなさい。
お茶を飲んでいる、穏やかな様子の十八さんをこっそり見つめた。
三年と言わず…俺の気持ちの整理がついたら、ちゃんと、言います。
もうすこし、待っていてください。
もうすこしだけ、俺に時間をください。
2010-04-02 21:50筆[ 24/761 ][*prev] [next#]
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