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 乾杯した後、すぐ皆一斉にゴネ始めた。
 「「「「「お母さぁん…お腹空いたぁ〜!」」」」」
 やれやれ…手のかかる子たちばかり!
 でも今日ばっかりは仕方がない。
 皆、皆、この数日は徹夜で頑張ったみたいだから、お昼にはちょっと早いけれど、ごはんにしましょうかねぇ。
 そう告げるなり、皆の瞳がキラキラキラキラ輝いた。
 ケーキは取り敢えず大きな業務用冷蔵庫に入れ、探検も後回し。
 本日のメインイベントは、この春最後のお花見でもありますからね。

 昔々は、理事長棟だったという立派なこの洋館、周辺には桜の木が何本も植わっていて、日があまり差さない立地だからか、未だに満開状態。
 リビングのガラス戸を左右に大きく開けば、ちょっとしたテラスになっていて、そこからもお花見が楽しめるようになっていた。  
 日があまり差さないと言われたものの、どうしてどうして、洋館周辺は視界が開けている。
 首を傾げていたら、なるべく明るい空間になるように、学園の園芸部さんや造園業者さんに相談しながら、木の枝や葉などを随分刈りこんだらしい。
 あくまで自力で改装したのだと、「だってお母さんに早く会いたかったんだもん!」と誇らしく胸を張る子たちに、目頭が熱くなった。 
 皆、天晴!!
 さすが、武士道!!

 たっぷり誉めてから、食事の準備をスタート。
 大きなビニールシートを何枚もテラスに敷いて、どこからともなくクッションや座布団が運ばれて来た。
 仁と一成が運んでくれたお弁当と、皆が用意した取り皿や飲みものをその真ん中に並べた。
 「あったか〜い豚汁もありますよー」 
 「「「「「わぁ!お母さんの豚汁!」」」」」
 「「「「「やったぁ!」」」」」
 リビングの片隅に据えられたキッチンに向かい、棚を開けたら、ちょうどいい大きさのお鍋が見つかった。
 きれいに磨いてあるということは、ウチの子たちが抜かりなく用意してくれたということ。
 もう…ほんとうによく気が利く子たちなんだから!

 わくわくと周りに群がる皆の前で、お湯をわかし、タッパーに入れて持って来た、あらかじめ煮ておいた具材を投入。
 温まったところで、味噌を……
 味噌を……って、あれ?
 「あれ?あれ??あれ〜???」
 「「「「「???お母さん?どうしたの?」」」」」
 ダシ入り味噌のタッパー、用意してたのに!!
 「…お味噌、忘れて来ちゃった…?」
 「「「「「ズコーっ!」」」」」
 ノリよくズッコケてくれた皆に気づいて、ビニールシートのセッティングに勤しんでいた仁と一成がやって来た。

 「どうした、はると」
 「ナニ遊んでんの、お前ら〜はるるの邪魔すんじゃねーよ〜?」
 「「「「「そーちょー、副長!お母さん、味噌忘れたって!」」」」」 
 「「味噌〜?」」
 わー、申し訳ない!!
 「ごめんね…やっちゃった…」
 「はるとが謝る事ねーよ。気にすんな」
 「味噌か〜…食材関連はね、はるるに聞いてからにしようっつって〜全然買い置きないんだよね〜」
 豚汁の具材入り・ホカホカの白湯…なんて、冗談にならない。

 「俺、ちょっと戻って取って来る!」
 「おー、はると、俺らも付き添う」
 「行こ〜」
 「1人で大丈夫だよ〜方向だけ教えてくれたら、ダッシュで行って来るから!仁と一成は鍋を見ながら、皆と一緒に軽く始めてて!」
 「「「「「お母さん…」」」」」
 何故だか心配そうな皆に、大丈夫だって!と言い張った。
 「ほら、こうして立ち止まってる間に行ったほうが早いから!皆、お疲れさまでしょ?すぐ行って戻って来るから」


 何かあったら、即・携帯1ギリ!という約束を、仁と一成から厳しく言い聞かされて、あらかじめ用意してあったらしい、寮とホームを結ぶ地図を貰ってダッシュした。
 こんなまっ昼間、寮とホームの敷地内往復だけのことなのに、ウチの子たちときたらほんとうに心配性だ。
 俺ってそんなに頼りなく見えるのかねぇ。
 自慢じゃないけれど、数多のタイムセールで鍛えられた脚力と、方向感覚には自信があります!
 的確な地図に従って、行きは順調にたどり着いた。
 ダッシュで片道10分か…この距離感、嬉しいなあ。

 部屋に入ってテーブルの上を見たら、案の定、紙袋がぽつんと残されていた。
 お味噌のタッパーと、なんとびっくり、桜餅の入った折詰入りだ。
 危ない危ない…桜餅まで置いてけぼりだったなんて。
 しっかりと紙袋を手にし、改めて室内をキョロキョロ見渡して、もう忘れ物はないかなぁとチェック。
 他に忘れ物はなかったけど、ついでにあの立地は冷えるみたいだから、カイロとブランケットと…
 あ、TVあったからきっと観れるかな、皆も好きな「クレ●ンし●ちゃん」の戦国DVDも持って行こう…となると絶対感涙するからタオルも…えーい、ついでだ!中途半端に残ってた野菜のピクルスも持って行っちゃえ!と、どんどん荷物は増えて行った。

 うーん、荷物がある分、帰りはちょっと遅くなりそうだ。
 ともあれ、やり切った感があって大満足です! 
 急いで帰らないと、お腹を空かせたあの子たち、ひもじい想いの余り、ケンカしてしまうかも知れない。
 寮を出てから、荷物を抱えてダッシュ!
 皆、いい子で待っててねー!!

 道半ばまで来ただろうか、ひたすら走っていた俺は、遥か前方に見知ったお顔を発見し、スピードを緩めた。
 今日は眼鏡をかけておられない、渡久山先輩とお友だちさんらしき数人の方々。
 皆さま、とても大人っぽくて、落ち着いた雰囲気の御方ばかりだ。
 静かに会話を楽しみながら、お散歩なさっておられるようで、お声をかけていいものかどうか判断に迷った。
 迷ったから、わかったのだろうか。

 ふと、見つけた。

 木々の陰で所在なく立ち止まっておられる、獅子のたてがみのような勇ましい髪型には、覚えがあった。

 宮成先輩だ。  



 2011-01-21 22:36筆


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