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 「では〜十八ホームの完成を祝して〜そーちょーから一言〜」
 「お?おお、あー…数日のオールを経て今日という良き日を迎えられた事は、わたくしにとって非常に喜ばしく、」
 「はい〜お言葉ありがとうございました〜」
 「「「「「ありがとうございましたー!流石、そーろー、染みるっす!」」」」」
 「誰が早漏だっつの!お前らなぁ…はるとが来てるからって、テンション上がり過ぎだっつの…」
 「「「「「キヒヒ!」」」」」
 皆の笑顔でいっぱいの空間が、嬉しくて楽しくて、俺はずっと笑いっぱなしだった。
 
 手作りケーキにちいさなろうそくが立てられ、一成に手招きされた。
 「では〜はるるお母さん、お願いします〜」
 「へっ?」
 一成愛用の格好いいライターで、ケーキに火がつけられた。
 誰かがブラインドを下ろし、別の誰かが室内の照明を落としたら、お昼前なのに暗くなった。 
 「俺が消しちゃっていいのかな…何か、お誕生日やクリスマスみたいだね」
 「「「「「お母さん、早く早く!」」」」」

 揺らめく、ちいさな炎。
 あったかいオレンジ色の光に、ぼんやりと、クラッカー第2弾を構えた皆の笑顔が照らされている。
 どの顔も、キラキラ輝いていて、年相応の少年っぽさが可愛いらしかった。
 本家「ホーム」でも、何かお祝いごとがある度、こうして皆でお祝いしたっけ…
 皆でケーキやごちそうを作って、飾りも手作りして、わいわい騒いだ。
 そう遠くはない記憶が、とっても懐かしい。
 「では、僭越ながら…十八学園版・ホームの完成、おめでとうございます!」
 「「「「「おめでとうございまーす!!お母さん、大好きー!!」」」」」

 想いっきり息を吸いこんで、ふううっと吹き消した。
 ろうそくは全部きれいに消えて、暗がりの中、クラッカーや歓声が鳴り響く音がこだました。
 「「「「「イエーェェイ!!おめでとう、俺達〜!!」」」」」 
 すぐ明るさを取り戻した室内は、また一段とにぎやかさを増していた。
 「はると、ちゃんとお願いしたかー?」
 仁に聞かれて、こっくり頷いた。
 ほんとうにお誕生日みたいだけれど、ろうそくを吹き消す前、こっそりお願いしてしまったんだ。

 「何のお願いごと〜?」
 一成に聞かれて、にっこり即答。
 「内緒!」
 「え〜教えてよう〜」
 「マジ気になるしー」
 「だぁめ!こういうことは内緒にするものなんですー」
 「えぇ〜教えてよう〜」
 「ちょっとぐらいいーじゃんー」
 「ダメです〜」
 3人でいつもみたいにじゃれていたら、わあっと他の皆も寄って来た。
 「「「「「そーちょーと副長ばっかりズルいー!」」」」」

 「お母さん、お母さん!俺ねー壁、赤く塗ったよ!」
 「へー!頓田くんが赤く塗ったんだ〜すっごく上手ー!よく頑張ったんだね…偉い偉い」
 「へへっ」
 少し屈んだ姿勢の頓田くんの頭をよしよし撫でたら、得意そうに胸を張り、照れくさそうに笑った。
 「ズリー頓田!お母さん、お母さん!俺も俺も!ブラインド、探して取り付けたの俺!」
 「本家とそっくり同じのブラインド、椿同君が…上手にまっすぐ付けたね!偉い偉い」
 「お母さん、お母さん!俺は?俺は?あのねえ、お母さんのソファー見つけたの、俺だよ!」
 「そうなんだー!あんな良い感じのソファー、見つけるの大変だったでしょ?苅田くんも偉い偉い」
 「お母さん、俺は廃材の手配がカネを懸けても長引くと言われたので、古めの木を廃材に仕立てました」
 「ええっ…この床、新品なんだ…吉河くん、すごいねー!すっごく良い風合いの床!偉い偉い」
 
 武士道幹部の話を聞いて、お手柄を誉め、頭を撫でていたら、他の子たちも口々に一生懸命、自分が手がけた仕事を語ってくれた。
 ちゃんと目を見て、耳を傾け、誉めて頭を撫でて。
 久しぶりに、武士道1人1人と向き合ったなぁ…
 懐かしく感じる交流に、じんわり、胸が熱くなった。
 全員の順番が終わってから、仁が手を叩き、皆そっちへ注目した。
 「よし!全員、終わったなー」
 「「「「「はぁい!幸せっす…」」」」」
 「よちよち、よかったでちゅね〜では〜続きまして〜カンパイしよ〜ぜ〜」
 一成の合図に、皆、さっと飲みものをグラスに入れて手に持った。

 「はい!お母さんは『武士道カクテル』ね!」
 「わぁ、ありがとー」
 炭酸水にストロベリーのフレーバーシロップとレモン果汁、ベリー系のフローズン果実をたっぷり盛った、見た目にも鮮やかなドリンクは「ホーム」で俺の定番だった。
 いつもはマスターのヒロさんが作ってくれる、それを覚えてくれたみたい。
 ちいさな習慣ひとつひとつ、忠実に再現されること、皆の笑顔が嬉しくて嬉しくて、心から笑った。
 「じゃ、カンパイの音頭もはるとな!」
 仁に指名されて、また俺でいいのかなとキョロキョロしたら、皆揃ってうんうんと肯定してくれた。

 「では〜はるるお母さん、お願いしま〜す〜」
 一成がグラスを構えて、皆も一斉に倣った。
 「では…僭越ながら、乾杯の音頭も取らせて頂きます。重大な役目ばかり授けて頂き光栄です!どうもありがとう!!では、十八学園での皆との再会と、ホーム完成を祝して、乾杯!!」
 「「「「「カンパーイ!!お母さん、大好きー!!」」」」」


 ろうそくに託された願いは、ずっとずっと、その後も変わらない願いのひとつのまま。

 ――武士道の皆が、いつまでも仲よく、元気で、なんでも笑い合える、あったかい仲間のままでいられますように…――


 大好きだったから、ほんとうに。
 大人になってからも、度々この日のことをよく想い出した。
 いつまでもキラキラ輝き続ける、かけがえのない時間のこと。
 たくさんの想い出の中でも、この日は特別、輝いた存在として覚えていた。
 大好きな皆の笑顔、ひとつひとつ、細かく覚えている。

 だから、十八学園で過ごす日々が過酷なものへ変貌した時も、この日の想い出は俺の胸を温かく照らし、顔を上げさせてくれたんだ。



 2011-01-18 23:29筆


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