70.シャルウィーパーリィ


 扉を開けたら、仁と一成が立っていた。

 「はると、おはよー」
 「おっは〜はるる〜」
 「おはよう!仁、一成」
 今日も2人は格好いいなぁ、さすが3大勢力さま。
 お揃いだろうか?かなり色褪せたデニムのつなぎと、なんてことのない白いTシャツを、それぞれのやり方で個性的に着崩している。
 アクセサリーがじゃらっと付いているのは、いつものこと。
 よくよく見ればTシャツには、「武士道」と筆のようなタッチで勢いよく描いてある。
 つなぎのあちらこちらには、いろんな色のペンキが飛び散ったような跡がある。
 そういうファッションなのかなと想いきや、2人の腕と手にもペンキの形跡。

 そして、何よりも。
 「……2人共、かなり疲れてる…?」
 
 いつも通りの明るい声、表情だけど、じっと見たらすぐわかった。
 数日間も徹夜でやんちゃした時みたいに、目元に睡眠不足の相が現れているから。
 「あ〜…ちょっとなー…最後の仕上げが…」
 「最後の最後で気づいちゃったからね〜…」
 ハハハと、語尾を濁して力なく笑う2人。
 なんだかよくわからないけれど、十八学園版「ホーム」の完成に、最後の最後まで手こづったと言うことだろうか。
 どろっとした疲弊たっぷりの空気を感じて、ほんとうに心配になった。

 「大丈夫…?2人がこれだけ疲れてるって言うことは、他の皆も同じでしょう?俺なら全然急がないから…『ホーム』へのご招待、また後日に変更しよう。皆ゆっくり休んだほうがいいよ。お弁当も託すから」
 そう言ったら、立ったままでも眠れますといった状態だった2人が、はっと顔を上げた。
 「いやいや、だいじょーぶだいじょーぶ!!はるとが今日来ないってなったら、オールで急がせた…じゃなくて急いだ意味ねーし!ヤツらもキレるだろーし!」
 「はるるが来てくれたほーが〜俺らの癒しだし〜折角頑張ったから今日見て欲しいし〜休んだほーがい〜なら、ご招待&花見の後に昼寝したらい〜し〜」

 どうやら、今日に間に合わせる為、皆で相当無理しまくったみたいだ。
 容易に想像がつく。
 仁と一成が総指揮を取り、幹部の皆が指導に当たっている様子。
 やんややんやと容赦のない叱咤激励が飛び、誰もが鬼のような形相で汗水垂らして一丸となる。
 それが、いつもの武士道だ。
 恐らく白Tシャツとデニムのつなぎは、作業用にと気合いを入れたお揃いユニホームなんだろうな。
 お揃いのユニホームって、気持ちを固めるひとつの手だし、ちょっと羨ましい。
 だから俺も一緒に手伝うって、言ったのに。

 黙り込んだ俺を、2人共おろおろと覗きこんで来た。
 ちっちゃい子みたいだ。
 もしかして、それだけ今日を楽しみにしてくれていたのかな。
 再会して1週間、なかなか外出はできないけれど、十八学園にも出来た「ホーム」。
 「はると…?」
 「はるる〜…?」
 心細そうな2人に、俺は笑った。
 「2人がそう言ってくれるなら、俺は今日行きたいな。どんな『ホーム』なのか、楽しみで楽しみで仕方がなかったんだ〜幹部の子以外はまだ会ってないし、十八学園にいる武士道の皆に会いたい」
 「「やったぁ!」」
 「ただし!お弁当食べた後のお昼寝は絶対ですからね!」
 「「はぁい!」」

 と言うわけで、「「早く早く!」」と2人に急かされるまま、たくさんの荷物と一緒に寮を出たのでありました。

 「疲れてるのに重いでしょう?俺、もっと持つよ」
 「「モウマンタイ(問題無し)」」
 お弁当も勉強道具も、ほとんど仁と一成が持ってくれた。
 俺だって男ですから。
 何たって入寮初日、大量の宝物(鍋など調理器具)を持って、山の中と敷地内を歩き回ったぐらいですから。
 逞しさには自信があります。
 だから、そんなに気を使ってくれなくていいのに、2人はこういうところ紳士だ。
 ……ふん…見かけはそりゃあ、ちょっとばかり背が低くて、ちょっとばかり肉付きも悪いですけど?
 それはちょっとしたことであって、俺だって力仕事の1つや2つできますし、料理人はそもそも力仕事だし、ちょっとした見かけで判断されたくない。
 けれど、2人はのらりくらりと俺の言い分を交わしながら、そのまま延々と歩き続けたのでありました。

 寮から10分ぐらい歩いただろうか。
 ショッピングモールと反対方向だなあ、ということぐらいしかわからない。
 「そろそろ着くぜー」
 「はるる〜はい、どうぞ〜」
 ふいに2人が立ち止まり、一成がポケットから何かを出して手渡してくれた。
 「何、これ」
 それはアイマスクだった。
 しかも、少女まんがチックにキラキラの瞳が描かれたアイマスクだった。

 「驚いて欲しーから〜着けて〜ちゃんと連れて行くし〜」
 「最初だけ最初だけ。帰りは着けねーから」
 「ふうん???」
 なんだか、バラエティ番組の企画みたいだ。
 ちょっと面白い。
 信頼できる2人、武士道じゃなかったら、怪しんで着けないところだけど、ちょっとわくわくしながら着けてみた。
 おー、真っ暗だ〜何も見えない!
 「はるる、かわい〜キラキラしてる〜じゃ、行こ〜」
 「いつもこんな感じじゃね?あ、はると、すぐ着くからなー」
 左右から2人に手を引いてもらって、繋ぎ馴れた手の感触に安心しながら、そろそろと歩いた。



 2011-01-15 23:04筆


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