68.一方、スイートな電波も飛ぶ
どうしようもない想いを抱えたまま、時間は過ぎて行った。
通常授業が始まった。
渡久山先輩と宮成先輩のお別れが、公にされてしまった。
柾先輩が宮成先輩に喧嘩道を申し込み、勝敗を喫した。
親衛隊さんの秘密基地へ案内された。
クラスの皆さんや、3大勢力の皆さんと、お弁当を食べることが決まった。
そのお弁当シフトは、学校中に知られてしまった。
皆さん、概ね好意的に受け止めてくださって、応援して頂けた。
そんな、1週間。
そうして、今知っている以上の「秘密」を知ることはなく、あっと言う間に週末がやって来た。
週明けからは、いよいよお弁当シフトが始まる。
皆さんからの希望をお窺いして、とりあえず1ヵ月分の大まかな計画は組んだし…
勉強方面がとっても不安だということを打ち明けたら、どちらの皆さまも「わからないことがあったら何でも聞いて」と優しく仰ってくださった。
先行き、いい感じ!
十八さんは心配そうだったけど、「大丈夫!十八さんにも差し入れできるチャンスがあったら差し入れしますね」と言ったら、すぐにご機嫌さんだったし。
よしよし!
お弁当作りを目いっぱい楽しんで、皆さまからのご意見をありがたく頂戴して、勉強させてもらおう!
…勿論、学業も…優秀な皆さまのお力をお借りして奮闘しますとも…。
土曜日の今日はいよいよ、十八学園版・武士道の「ホーム」完成祝い&今年最後のお花見パーティーだ。
約束の時間まで後30分足らず、もうすぐ皆が迎えに来てくれる。
念には念を入れて、今1度、指差し確認スタート!
お花見料理、用意よし!
週明けの授業に備えて、「ホーム」で予習復習する為の準備もよし!
電気よし!
各所の戸締まりよし!
俺の身支度よし!
出かける用意は万端だ。
美山さんもお誘いしたけれど、昨夜からどこかへお出かけするご用事があるとそうで、もう部屋にいらっしゃらない。
お花見料理のお裾分けは、メモを残して、きちんと冷蔵庫に入っている。
ふうっと息を吐いて、ソファーに背を預けながら。
わずかな時間を利用することにした。
携帯電話に指を滑らせ、画面を操作する。
アドレス帳を繰って、お目当てさんに電話。
久しぶりすぎて、ちょっと緊張…
早くなった自分の鼓動と、呼び出し音に耳を澄ませる間もなく、2コールで繋がった。
『――…陽大…?』
着信歴を見てくれたのだろう、すぐに俺の名前を呼ぶ、どこか懐かしく感じる声に嬉しくなった。
「秀平…!電話では久しぶり…元気?今ちょっと話してもいい?」
ふっと、電話の奥で、秀平が微笑う気配。
その瞳も、口元も、やわらかく緩んでいる様が、容易に目に浮かんだ。
小学校から仲がよかった、大事な友だちの顔は、まだまだ記憶の中に新しく残っている。
『良いに決まってる…陽大からの電話、ずっと待ってた。その声の様子だと、元気そうだな。良かった…』
「うん…俺は元気だよー!ブログ見てくれてるならわかるでしょ?秀平は?礼央(れお)は?皆元気にしてる?」
『俺も皆も元気だ。コメント見てくれてるなら、わかるでしょ?』
むむ?
「真似しないでよー!」
『マネシナイデヨー!』
「……秀平さん……?」
『はは、悪い…嬉し過ぎて悪ノった。陽大がマジ元気そうで安心した』
途切れない笑い声に、こちらまでついつい、頬が緩みっ放しになってしまう。
「心配してくれてるんだ?」
『当たり前だろうが…俺だけじゃない、皆陽大を心配してる。十八学園は魔境だからな、迂闊に手が出せねー山ん中だし?』
「ふふ!魔境って!なかなか楽しい魔境だよ?」
『陽大なら、そう言うだろうと想ってたけどな。楽しくやれてんなら良かった。今日はどうした?ソッチも休みなんだろ。ヒマなら全員で襲撃してやろうか?』
「結構です!」
『即答か…』
だって、さ。
長期休みじゃないのに、ここで皆に会ったりしたら、懐かしくて嬉しくて、十八学園で過ごす始まったばかりの日常へ戻る時、とんでもなく寂しくなってしまう。
「襲撃は要らないんだけど、報告しておこうと想って…ブログでは書けないこと」
郷愁を堪えてさらっと言ったら、急に空気が変わったような気がした。
『……ブログで書けねー事……?』
「もしもし?秀平さん…?急に声、低くなってない…?」
『……陽大……まさか…』
「な、何…?」
それまでの和やかな会話が消え失せた。
シリアスさを増す秀平の声音に、まったく意味がわからないし、焦る必要もないのに同調してしまった。
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