65.彼の企みはメガヒット


 教室へたどり着くまでの道々も、あちこちからからお声をかけて頂いた。
 「頑張れ」
 「皆様をよろしく」
 「応援してる」
 好意的なお声の数々に、一礼して応えながら、胸がポカポカとあったかくなった。
 当然ながら、すべての生徒さんが応援して下さっているわけじゃない…
 怪訝なお顔をなさって遠巻きに見ていらっしゃる方々、無関心を決めこんでいらっしゃる方々も少なくない。
 それは仕方がない。

 ただ、一昨日の号外が出た時と、すこし違うことがうれしい。
 こうしてちょっとずつでも、この学校に馴染んでいけたらいいな。
 俺の行動は、どうしても浮いてしまうみたいだけれど、それすら目立たないように馴染んでいけたなら。
 そんなふうに想って、はっと気づいた。
 どちらさまのご提案か知らないけれど、ああやって掲示板にお弁当シフトのことが暴露されたのは、却ってよかったのかも知れない。

 隠密裏にこっそり進めるよりも、端から公にしてしまったほうがサッパリしてわかりやすい。
 どうしたって3大勢力さまの華やかさは消すことができないし、俺のこの平凡っぷりが急に男前さんへ変化することはないだろう(いやいや、努力はしますけどね!容姿はどうしようもなくても腹筋割るぐらいは俺だってね!身長だって、自然の摂理でまだまだ伸びるだろうしね!)
 簡単に覆せない現実だから、逆に、堂々と公表する。
 ありのままの真実を、ありのまま提示する。
 問題が生じるのは、こそこそするから、隠そうとするからであって、後ろ暗さは前からも後からも付随してくるから。

 結果、万人の賛同は得られなくても、わかってくれて、応援してくれる方々が出て来て下さった。
 時と場合に因るのだろうけれど、関係者の誰もの不快も負担も極力少ない、荒療治だ。 
 この大胆さはすごいなぁ…
 発案者さまがどなたさまか、薄々察せられる、お人柄の強い存在感もすごいけれど。 
  
 「……前は、何かすげーな…」
 「うぇ?は、はい?美山さん、どうなさいました?」
 すごいなあと想っていたら、静けさを保っていた美山さんが、階段を上がりながらふと呟かれて、飛び上がりそうに驚いた。
 まごまごしていたら、ちらっとこちらを見られてから、視線を逸らされた。
 「……偏屈の巣窟」
 「へっ?」
 「此所は普通じゃねー。イカレてる」
 ええっ?
 無表情な美山さんの眼差しは、どこへ向けられているのだろうか。

 「こんなイカレた場所で、前は自然体で厄介者達を懐かせてる。お前、すげーよ」

 「え、ええと…?あの…俺は特に何も…入学早々、学校をお騒がせしてばかりで大変恐縮極まりなく…そんなつもりはないのですが、だからこそ余計に申し訳なく想っている次第で御座います。俺に関わってくださる皆さまがすごくて、よく配慮なさってくださる親切な方々ばかりで…」
 「違ぇよ。お前だから、だろーが」
 「???」
 「3大勢力も…俺らも、誰も親切心なんか欠片も持ち合わせてねー。個々で必死だからな…お前じゃなかったら、誰も、俺も……いや、何でもない。気にすんな」
 「え?え?あの???」
 「いーから気にすんな!」
 「は、はいっ!…???」
 「……行くぞ」
 後ろから見る美山さんは、今日もピリっと凛々しく隙がなくて、だけどなんとなく、耳の辺りが赤いように見えるのは気の所為なんだろうか。


 美山さんと教室に着いたら、音成さんを筆頭に、お昼をご一緒した方々にも温かい言葉をかけられ、ますますポカポカ度が増した。
 程なく、ホームルームが始まった。
 合原さんが何か言いた気だったのが気にかかる。
 休憩時間にお窺いしてみようかな。
 いつも通り、業田先生が出欠確認と今日の連絡事項を話された後、名前を呼ばれた。
 「あーっと…前、個人面談するべきかも知れんが…まー、クラスの連中も関わってるみてーだし、んな大ゲサな段階でもねーし、今言っとくわ」
 「はい。何でしょうか」
 まんがかDVD関連のことかな?と、一瞬想ってしまった。
 カリスマガキ大将と同名の先生のお言葉ならば、猫ロボットまんが全巻貸し出すのも理不尽ではありません。
 
 「お前、かなりいろんな面倒事に巻き込まれてるみてーだが、1年担当職員一同、お前の味方だからな」
 へっ?
 先生の、予想にもしなかったお言葉に、目が点になった。
 「あ、えーとホレ…2、3年の3大勢力共の担任もお前の味方だ。奴らに手こずってるのは、生徒だけじゃねーからな」
 「あ、あのう…?」

 「いや、な…授業開始早々、前のすげー真面目な授業態度、職員室でも話題になってんだわ。今まで類のない程、すげー必死にノート取るし、鬼気迫る真剣さで聞いてるし。ここまで真面目に授業受ける生徒って珍しいし、そんな生徒が学園の注目浴びて、何よりアノ3大勢力まで従えちゃってんだろ?そりゃ応援したくなるじゃん?
 前が面白いヤツなのは、俺は初日でわかってたしなー。ま、程々に頑張れよ。弁当シフトか何か知らんが…奴らに手ぇこまねいたら、俺とか教師陣にも声掛けてくれ。何とかしてやれる事もあるだろーし?ウチのクラスも弁当シフトとやらに参加すんだろ?前の応援と手伝いしてやれよー」
 「「「「「はーい」」」」」
 えええ…?

 「しっかし意外だわ…アノ味にうるせー柾が興味持つって、お前の弁当、どんだけ?」
 えええ!?
 ぶつぶつと誰にともなく呟かれた後、先生は盛大に欠伸なさった。
 「俺からの連絡事項は以上!じゃ、今日も1日、前の素行を見習い、前の言う事を聞いて良い子で過ごす様に!」
 「「「「「はい!」」」」」
 えええー…
 なんだか、とんでもなく事が大きくなっている様子に、改めてビックリです。



 2011--01-06 23:59筆


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