「それにしてもはるくん…朝も言ったけど…改めて見るとガチで凄まじい荷物だねぇ…」
 上品な仕草でティーカップを口元へ運んだ後、ちらっと、十八さんの視線が俺の荷物へ向けられた。
 「そうですかねえ〜?」
 「そうだよ〜…だから車を手配するって言ったのに〜…」
 おやおや、十八さんに哀愁が漂ってきましたよ。
 母さんや俺のこと、大切に想ってくれるお気持ちは、とってもとっても嬉しいのだけれど。

 「へっちゃらでしたよ〜?ね、俺、朝と変わらず元気でしょう?これしきの荷物でちょっと歩くぐらい、どうってことないですから。俺だって男ですからね!」
 えっへんと胸を張っても、十八さんの心配そうなお顔は変わらない。
 「でも〜…あ、はるくんの案内を頼んでおいた生徒会の子、そういや見当たらないけど…ちゃんと会えたよね?学園内からは荷物運ぶの手伝って貰えたよね?後でお礼しないと…」
 「まさかまさか!初対面の御方に持っていただくわけには参りませんよ〜」
 「………え…?」

 え?
 あれあれ、十八さん、固まっちゃった?
 「いえ、だってほら、コロコロ付きですしねえ。大したことない量ですし、俺の宝ものばかりですし」
 「………はるくん。念の為聞くけど、そもそも誰の案内で此所まで来たのかな…?裏門から相当距離あるし、複雑な道程だし…まさか、自力で…?!途中で放置されたとか…?!」
 「とんでもないです〜案内していただきましたよ。え〜と…生徒会副会長を務めておられるそうで…王、じゃない、ひかげだてりひと先輩って仰っておられました。綺麗な御方ですねえ。親切にしてくださって、とっても助かりました」

 あれあれれ?
 「ひかげだてりひと」先輩のお名前を出した途端、十八さん、ますます固まってしまった。
 どうしました???

 「………はるくん。更に念の為に聞くけど、その案内してくれた子、マジで日景館莉人君…?亜麻色の長い髪に切れ長の茶色い瞳、シルバーフレームの眼鏡、手足長めですらっとした体長百七十五センチ、穏やか且つ丁寧な物腰だけど、ちょ…本当に十六・十七才の子供…?その若さでもうそんなヒネてるの…?これから先、どんな大人に成るやら…君、大丈夫かな〜?って心配になる程、胡散臭い王子様スマイル浮かべた、日景館莉人君…?」
 
 十八さんが急に真剣に語り始めた!
 真剣な眼差しでしかめっ面ながら、大仰な身ぶり手ぶりを交えて語るものだから、俺は思わず「ぷっ!」と吹き出してしまった。
 「十八さんったら!そんなふうに面白おかしく…それにしても、ちょっと言い過ぎじゃないですか?」
 「だって!ホントにそうだし!はるくんだって感じなかった?!あの子はね、結構曲者だよ…大人の勘!」

 あら、まぁ。
 ここへ至るまでの短い時間、束の間のやりとりを思い返しながら、慎重に言葉を紡いだ。

 「そうですねえ…俺など想像もつかない程、たくさんの人々と接してお仕事為さってこられた、十八さんの勘を否定するわけじゃないのですが…ここまで案内していただいた、僅かな時間では本来のその御方を知ることは難しいですし…まして、外部から入学した一般生徒で一後輩に過ぎない俺と、初対面から腹を割ってお話することなど、そうそうないことですものね」
 「はるくん…」

 「それを踏まえて…確かに、副会長さまの笑顔はどこかよそよそしい、なにかの芸術品のように身近じゃない印象でしたけど、違和感はなかったです〜。丁寧に応対してくださって、遥々ここまで案内していただけて、ほんとうに助かりました。
 馴染みのない後輩の世話を焼く時と、副会長さまが心を許す場所にいらっしゃる時では、また違うお顔でしょうし…俺がそこまで親しくさせていただく機会は、残念ながらないと思われますし…副会長さまには副会長さまの人生、想いがおありですものねえ」

 そう。
 母さんと…父さんから、教えてもらったことのひとつ。


 「人の人生は、一瞬では計れない」。


 どんな人にだって、今まで生きてこられただけの人生がある。
 ひとりひとり、いろいろな物語を持っている。 
 それは、短時間で容易く語ってしまえるようなものではない。
 自分以外の人間を、ほんとうに知り、芯から理解することなんて、ずっといっしょにいたってできないこと。
 自分のことだって、完全に理解したり、コントロールすらできないのだから。

 人が人を、簡単に決めちゃいけない。
 フィーリングが合う、合わないはとにかく。
 どんな人にだって、語り切れない、たくさんの物語があること。
 それは、瞬間で増減していく。
 自分だけが把握し、時には自分も知らない、想うようにはいかない物語たち。

 ひとりひとりの物語を、わかっても、わからなくても、わかり合えなくても、決して否定してはならない。

 いろいろな物語があって、いろいろな人がいる。
 だから人間関係が築ける。
 だから、自分の人生がいろいろな物語の影響を受けて、面白くなるんだ。



 2010-03-31 22:38筆


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