63.広げよう!お母さんの輪!


 なんですか、これは。
 なんなんでしょうか、これは。
 くらっと目眩がする。
 この記事はなんなんでしょうか。
 しかも、入学時に提出する書類に使った、俺の写真が拡大されて貼ってあるんですけれども。
 ガチガチに緊張した、とんでもなく映りの悪い証明写真だ、だけど公にされるものではないからまあいっかと想っていたのに。
 どうしてこれが勝手に使われているんでしょうか。

 いろんなことにモヤモヤ、くらくらして、どんな風に感情を持ったらいいのかわからない。

 3大勢力の皆さまは、それは目立つ華やかなスターの如き存在。
 一方の俺は皆さまと比べるべくもない、地味の代表を見事に務める自信がある一生徒。
 月とスッポン、まさに「これが月とスッポンが現実化した実用例です」と提示できる程、両者の差は大きい。
 だからこそ、内密に進められて行く事柄だったのではないか。
 渡された書類には確かに、「各自の親衛隊(或いはそれに該当する生徒達)の理解を得ておく事(理解が得られなかった者の参加は不可とする)」の1文があった。
 それはあくまで、皆さん各自が個別にお話する、ということではなかったのか。

 なんでしょうか、この、「えーい!もう面倒くさいや!全部まとめて公表だ!」と言わんばかりの、投げやりな勢いが感じられる事態は。

 ふりだしに戻る。
 
 人生ゲームで言えば、そんな感じ…?
 食堂云々の記事が出た時に、また戻って来てしまった。
 生徒さんたちの視線が、痛……い?
 「あのぅ…前君?だよね…?」
 おずおずといったご様子で、掲示板を遠巻きになさっておられたひとつの集団から、1人の生徒さんが近寄って来られた。
 「は、はい…?」
 ネクタイの色が違う…先輩さんのようだ。

 静まり返った空間。
 次々と登校なさって来る生徒さんたち、元々いらっしゃった生徒さんたち、皆さんが固唾を呑んで注目しているのがわかった。
 どうしましょう…!
 小柄で、なんだか小動物のようにお可愛いらしい雰囲気の先輩さんは、思い詰めたようなお顔でまっすぐに俺を見つめていらっしゃる。
 パチパチ、瞬きする度に睫毛が揺れている。
 この学校の生徒さんたちは、ほんとう会う人会う人皆さん、整ったお顔立ちをなさっておられるなぁ…などと想いを馳せる程、冷静さを取り戻していたら。
 きゅっと、ちいさな手を握りしめて、先輩さんが口を開いた。


 「お弁当シフト、頑張ってね…!」

 
 え…?!

 「僕は、天谷悠様の親衛隊員です。その…昨日はお疲れ様でした。親衛隊として、今回の件はまだ検討中だけど…大旨、君を応援する形になると想う。それ以前に天谷様の親衛隊員として、前君が来てくれて本当に安心してるんだ。前君も知っての通り、天谷様はとっても偏食家だから…だから個人的に応援しています。皆様のお弁当を用意するのは大変だろうけど、頑張ってね!」
 頬を赤くしながら、一生懸命、言ってくださった先輩さん。
 こんな…失礼かも知れないけれど、お可愛らしくって優しそうな先輩さんが、ひーちゃんの親衛隊員だなんて!
 あの子、なんてしあわせ者なんでしょう!!
 
 「そうなんですか…!わざわざお声かけてくださって、ありがとうございます。ひーちゃんがいつもお世話になって…って、すみません、幼馴染みなものでしてつい…とにかく、いつもお疲れさまです。先輩方のご苦労は重々お察し致します。俺が来たからには、あの我が儘坊主の偏食はきっちり更正させますので、俺から言うことではないかも知れませんが…どうか今後共あの子のことをよろしくお願い致します」
 ぺこりと一礼したら、先輩さんはくすっと笑って、こちらこそお願いしますと言ってくださった。
 ほんとうに素敵な先輩さんだ〜ひーちゃんったら果報者!!
 感動していたら、今度は反対側から声をかけられた。

 「話の途中で済まない。前君、俺は風紀委員会に属する風犬隊の者だ」
 んん?
 振り返ったら、武士道に勝るとも劣らない派手な髪色をなさった黒ブチ眼鏡の、これまた先輩さんが立っておられた。
 凛々しいシャープな雰囲気は、なるほど、風紀委員会さんと一致するけれど、髪だけ見ると武士道みたいだなあ。
 しかし、やっぱり男前さんだ。
 「前君の活躍は委員長と副委員長から聞き及んでいる。我々風犬隊は、前君を認める方針だ。君の今後の活躍には大いに期待している。だが、程々に頑張ってくれ」

 おお! 
 期待を寄せてくださりながらも、俺の負担になり過ぎないように気遣ってくださる物言い、なんて大人っぽい御方なんだろう。
 「はい!ありがとうございます。お弁当シフト、大いに楽しみながら挑ませて頂きたいと想っております。大したことはできませんが、俺なりに奮闘努力致しますので、よろしくお願い致します」
 「あまり力み過ぎない様に、な」
 「はい!」
 ぺこりと一礼したら、こちらの先輩さんも笑ってくださった。
 ほのぼの、うれしい気持ちになっていたら。

 周りから、次々にいろんな声がかかった。

 「頑張れよー!」
 「皆様のこと、よろしくね!」
 「クセ者揃いの3大勢力に負けんなー」
 「大変だろうけど頑張って!」
 「どんな弁当か見たい〜」
 「羨ましいけど、応援してるから…」
 「ファイトー!」

 わー…
 顔を上げたら、冷たい眼差しはどこにもなかった。
 皆さん、同学年さんも先輩さんも、穏やかなお顔をなさっておられる。
 いろんなお声に、心の底から、元気になれた。
 やる気がみなぎって来た。 
 「ありがとうございます…!学校の代表を務められる3大勢力の皆さまに、未熟者ながら工夫を凝らしておいしいものを作り、召し上がって頂いて、すこしでも元気にお務め果たして頂けますように、一生懸命尽力したいと想います。ふつつか者ですがよろしくお願い致します!」
 うん!
 頑張るぞー!!
 


 2011-01-04 23:21筆


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