62.ジャックは報道部だけじゃないぜ


 その翌朝のことだった。

 3日連続で早起きしてくださった美山さんと、お弁当の用意をして朝ごはんを食べて登校。
 今週はこのまま穏やかに過ぎて行くのかな。
 来週からはいよいよ、お弁当シフトがスタートする。
 武士道の皆も美山さんも、ずっと手伝うって言ってくれた。
 心強いサポーターのお陰で、ただでさえ楽しそうなお弁当シフトが、ますます楽しいものになる予感!
 勉学方面は武士道によくお願いしておいたし…
 そう言えば、「ホーム」が今週中には完成するって言ってたなぁ…十八学園版「ホーム」、どんな具合に仕上がったんだろう。
 週末には遊びに行けるかなあ、近くに桜があったら、お花見もできる。
 うん。
 1学期早々、お楽しみ企画満載!

 そんなことを取り留めもなく考えながら、歩いていたら、何やら覚えのある感覚。
 なんだろう?
 ほんとうになんだろう…?
 「っち……」
 おお、美山さんも舌打ちなさっておられるよ。
 この感覚は一体なんだと、きょろりと辺りを見渡して、はっと想い当たった。 
 校舎に近づくにつれ、増えていく、登校途中の生徒さんたち。
 俺が辺りを見渡した途端、ばっと不自然に逸らされる視線。
 前に向き直ったら、また、様々な方向から突き刺さってくる、たくさんの視線と囁き声。
 これは、まさか…!

 「……月曜と同じだな…弁当シフトがバレてんのか…」
 ひとりごとのような美山さんの呟きに、やっぱりそうか!と手を打ちそうになった。
 そうだ、デジャブのように感じる程、一昨日と酷似したこの状況。
 注目するに値しない俺に対して、この視線の集中っぷり。
 果たしてなにごとが起こっているのやら、俺が騒動の発端になっているらしいことに、恐縮の余りますます背が縮む想いでいっぱいです。
 神様、父さん、どうか成長期の俺から身長を取り上げるのだけはご勘弁願います。
 内心、ちょっとした混乱に陥っている間に、校舎前へたどり着いて、まさにデジャブ、掲示板前に群がっておられる人だかりに卒倒しそうになった。

 もしや、また、新聞報道部さんのご活躍でしょうか。
 いや、その割に道行く生徒さん、どなたも号外を手にしておられなかったような…
 今朝は配られなかったのだろうか。 
 「前、どうする」
 美山さんの短い問いかけに、俺は力なく笑った。
 このまま、素知らぬ顔で校舎へ向かうこともできるけれども。
 「見て行きます。明らかに俺が関係しているようなので…確認したいです」
 軽く頷いてくださった美山さんと、掲示板へ近寄ると、さーっと波が引くように人垣が割れた。
 どう前向きに考えようとも、やっぱりどうしたって原因は俺のようだ。

 今度は一体、どんな記事になっていることやら…
 意を決し、掲示板を見上げて、目が点になった。


 『3大勢力の掲示板ジャック/第33回
 〜お母さんの弁当は誰にも渡さない!俺らの弁当戦争(365×3年間)−土日祝日長期休暇分〜


 ●生徒会親衛隊員に告ぐ!
 
 1年A組生徒、前陽大の料理の腕は相当なものだ。
 俺らの健全な生徒会活動の為にも、食事の充実は外せねえ。
 因って生徒会は、来週月曜から始まる、前陽大の弁当シフトに参加する事を此所に宣言する。
 生徒会の弁当日は木曜だよぉ〜!邪魔しないでねぇ〜!
 また、他日に我々ないし一部の生徒会員が前陽大と食事していても、一切の疑惑、懸念、妨害の必要は無い。
 全ては生徒会の健康を守る為!ひいては学園の平和を守る為!
 諸君の快い理解と協力を、我々は心から要求する。
 わからないことがあったら、各自に問い合わせてねぇ〜!
 
 PS.親衛隊の皆も、前陽大と仲良くしてみたら良いんじゃないかな!(ラブ抜きで)
 ちったあ前陽大を見習って、美味い茶の1つでも入れられる様になってみな。

 生徒会一同/代表 柾 昴



 ●風紀委員会「風犬隊」に告ぐ!

 1年A組に在籍する外部生、前陽大の人となりは、諸君も既に心得ている事だろう。
 彼は自身の家柄も容姿も成績も利用する事なく、持って生まれた母性だけで学園内に新たな風を巻き起こしている。
 彼の言葉、行動、姿勢は平和な学園の在り方に自然と添い、秩序を正すもの他ならない。
 つまり、我々風紀委員会と志が等しいのではないか。
 因って、我々は前陽大と交流を持ち、正しい学園の在り方を共に模索する考えへと至った。
 そこで、弁当シフトは一般生徒である彼との交流手段に過ぎないと前提しておく。
 賢明なる「風犬隊」諸君等は、余計な邪推も異論も、無論持っていない事だろう。
 諸君等の平常の忠誠心に大いに感謝しつつ、此所に弁当シフトの報告とさせて頂く。
 風紀委員会は毎週水曜日が担当だ。
 くれぐれも警戒を怠らぬ様に、諸君等の素晴らしい活躍を期待して居る。

 風紀委員会一同/代表 日和佐 誉



 ●Dear,武士道の「野良猫」達へ

 はろー!
 武士道にゃん!皆、元気にゃ〜?
 てめぇら、わかってんだろーな?!
 あらかじめ通達してある通り、皆でお母さんをしっかり守ろうぜー!
 ファイト、オー!!
 お母さんは武士道のお母さんにゃー!!

 つか〜生徒会も風紀も、てめーらの子飼いに連絡すんの遅くね?(笑)
 マジ、チームの統合性疑うわー!
 このまま勝ち越すにゃー!(≡^・ω・^≡)ノ

 武士道/代表 加賀野井 仁


 ↑調子乗んな、武士道
 ↑野良猫如きが犬に勝てると想うな

 ↑↑昴も日和佐センパイもウザっ(^∀^)

 ↑3大勢力が神聖な掲示板をまたもジャックするとは…!
 この恨み、とっておきスクープで晴らしてみせますよ!!
 覚悟なさい!by 新聞報道部』



 2011--01-02 22:17筆


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