59.真実だけが必要なのか?


 日景館先輩を見送ってから、やれやれと武士道を振り返ったら。
 ふわふわふわっと、いろんなものが俺の身に被さって来た。
 仁からフリースのカーディガン。
 一成からその上にスウェットのパーカー。
 頓田くんからはもこもこのストール。
 椿堂くんからはフリースの手袋。
 苅田くんからはファー素材の耳当て。
 吉河くんからはあったかーい缶入りのココア。
 心許ない軽装から、急に全身くまなくあったかくなって、ほっとなった。

 「あったかぁい……」
 あったかいと、しあわせだ〜…
 目を細めて、しばらくココアの缶を頬に当てて楽しんだ。
 皆を見ると、おでこをさすりながら、へへっと照れくさそうに笑っている。
 ああ、この空気、やっぱり武士道と一緒にいると、すっごくすっごく安心するなぁ。
 皆でひとしきり、へにゃへにゃ笑ってから、しばらくしてはっとなった。
 「ご、ごめん…!俺、自分の加熱に夢中で…!皆は?!あんまり厚着してないじゃない…俺にこんなに渡してくれちゃったら、皆が寒いんじゃないの?!」
 あわわ!
 また、皆の好意に甘えっぱなし状態?!
 慌ててひとつひとつを返そうとしたら、皆、快活に笑ってくれた。

 「はると、気にすんな!俺らは山暮らしに慣れてるし」
 「そうそ〜だいじょ〜ぶだよ〜はるる」
 「「「「俺ら、意外と着込んでるよ!」」」」
 おお、山暮らしのプロ…!!
 そう言われてみれば皆、俺みたいに丸まった姿勢じゃなくて、いつも通り、しゃんと背筋を伸ばして立っている。
 「俺らよりはるる、寒かったっしょ〜?山の天気は変わり易いからね〜」
 「春っつっても、まだ油断できねーんだよな〜」
 「「「「お母さん、大丈夫?風邪引いてない?」」」」

 皆…皆、優しいなあ…
 なんていい子たちでしょう…!
 不覚にも涙が滲んだ。
 「俺なら大丈夫!皆のお陰であったかくなったし、途中まで先輩がブレザーを貸してくださったから」 
 って、あれ…?
 「…ふーん、莉人がなぁ…」
 「…莉人、ねぇ〜…」
 「「「「…りっちゃん、か…」」」」
 なんで皆、急に目の色を変えちゃっているのでしょう。
 なんでしょうかと聞く前に、すぐにまた、和やかな空気は戻って来たけれど。
 さっきの一瞬の間は一体???

 先輩に対して野次を飛ばしたりしていたし、なんだか穏やかならない気配だなあ。
 でも、「今は日景館先輩のことに触れないで欲しい」みたいな空気を感じて、踏みこんだことは聞けなかった。
 それに、深く考える間もなく急に、仁と一成が左右から抱きついて来たから。 
 「ところでマジごめんな、はると!今日、すぐ迎えに行けなくてさ」
 「ごめんね〜はるる!親衛隊のヤツらに、何かヤなことされなかった〜?」
 「「「「ズルい、総長、副長!」」」」
 「あ、皆、俺が親衛隊の皆さんのところにお邪魔してたこと、知ってるんだね…」
 とみた先輩とおりべ先輩のこと、とってもいい人たちだったこと、話そうとしたら、仁と一成が素早く耳打ちして来た。

 「…悪ぃ、『先輩達』の事は内密で頼む」
 「ごめんね?公には出来ない事情だから〜…」
 
 武士道幹部の皆には聞こえなかったらしく、きょとんとしている。

 「「「「総長も副長もお母さんにくっつき過ぎ!」」」」
 どころか、ぶーぶー文句を言っている。
 「ええと…親衛隊の皆さんとは、お茶を飲んでお話して…楽しい時間だった、よ」
 「「「「えー!お母さん、マジ大物!!」」」」
 「流石、はると!やっぱパねぇわ〜」
 「アノ親衛隊とお茶、ね〜…ま、はるるならだいじょ〜ぶと想ってたけど〜俺らも昴達に止められなかったら助けに飛んでったさ〜」
 一成のさり気ないフォローに、仁も頷いている。
 「昴と莉人が、てめぇらの親衛隊にストップかけてなかったら、弁当シフトミーティングどころじゃなかったよな〜」
 「「「「お母さんも会ったでしょ?化粧オバケ達に」」」」
 
 仁と一成、2人は武士道を束ねる立場で。
 頓田くんと椿堂くんと苅田くんと吉河くんは、それを支える幹部で。
 それでも、皆、知らせ合っていないことがある。
 武士道は皆とても仲がよくて、信頼し合ってる最高の仲間だ。
 それでもこうして、十八学園内では複雑な事情があって、仲間内でも隠していることがある。
 その複雑な事情には、どうやら仁と一成の他、柾先輩や日景館先輩、とみた先輩やおりべ先輩も関わっている。
 恐らく、ごく少数の生徒さんの間で、共有されている事情。

 誰だって、100%正直では居られない。
 言えない個人的な事情は、確かにあるけれど。
 武士道内でも共有できないその事情の在り方は、とても哀しいと想った。
 同時に、こうやって伏せなくちゃならない事情があることは、仁と一成の本意ではないだろうと、何故か確信した。

 「こら!化粧オバケとか、先輩のことを悪く言っちゃいけません!どの御方も皆、皆、一生懸命なんだから…好きだな、尊敬しているって想える人を、素直に追いかける親衛隊さんたちはすごいなぁって、俺は想ったよ?ね、一生懸命な人たちを悪く言うことは許しませんよ」
 「「「「はぁい!さすが、俺らのお母さんは意見が違うなぁ…」」」」
 なぜだかうっとりする皆に悟られない位置で、仁と一成が「悪い!」「ごめん!」と、顔の前で片手を上げているのが見えた。
 皆の私物?のお陰であったかい筈なのに、肌寒く感じるのはどうしてだろう。

 「取り敢えず〜いつまでも此所に居たら目立つし寒いから〜歩こ〜」
 「お、そうだな!行こうぜ、はると」
 「「「「お母さんのお家に一緒に帰ろー!」」」」
 「うん…皆、迎えに来てくれてありがとうね!お腹も空いたでしょ?晩ごはんは『武士丼』にしよっか!」
 「「「「「「やったぁ!!」」」」」」
 ああ、いつも通りだ。
 いつも通りの武士道だ。
 「武士丼」にテンションを上げ、早く帰ろう!一刻も早く帰ろう!と、俺の手を引いたり背中を押したりしてくる、元気でやんちゃでわんぱく盛りの武士道だ。
 「今日はそぼろも卵もフンパツするからね!」
 「「「「「「わ〜い!!イっちゃう〜!!」」」」」」

 わいわいと帰路を辿り、部屋に帰り着いたところで(美山さんはまだ帰ってないようだ)、忘れない内に…と仁から「お弁当シフト表」を渡された。



 2010-12-29 22:43筆


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