56.副会長とかーえろ


 「ところで莉人、どうして此所に?」
 とみた先輩の問いかけに、日景館先輩は軽く肩をすくめられた。
 「富田先輩と心太の事だから、まだ前陽大を解放していないだろうと推測した所、案の定だった。前陽大は今、何かと注目を浴びていながら、立ち位置が不安定だ。夜道が危険だと武士道が立ち上がったのだが、親衛隊の本拠地に入れるのは俺か昴ぐらいだ。昴はガキ共の世話に忙しい上に、学園スキャンダルの親玉化しているから俺が来た。と言う訳で前陽大、帰るぞ」
 スラスラと澱みなく述べられた言葉にすごいなぁと感心していたら、最後に手招きされてしまった。

 「成る程ねー確かにりっちゃんなら安心だ。想ったより前君が面白くて和やかな人だったから、つい引き止めちゃったんだよね。送って行こうと想っていた所なんだ。じゃ莉人、頼むよ」
 「わざわざお気遣いありがとうございます、日景館先輩。俺なら走って帰るので、寮の方向だけ教えて頂ければ助かります」
 「走って帰れる程、安全な学園だったら良かったのだが。生憎、必ず送って来いと3大勢力から言付かっている。途中まで武士道が来ているしな」
 「前君、ホントにビミョーな状況だからさ。気兼ねなく莉人に付いて行きなよ。だいじょーぶ!コイツ、意外とストイックなヤツだから。…表面と建前上、学園に居る限りは。下界と裏では、ね…それなりに、ね…」

 表面と建前上?
 下界と裏ではそれなり???
 とみた先輩は怪しく微笑っておられる。
 おりべ先輩は相変わらず離れた位置で、これまた嘲笑っておられる。
 日景館先輩は涼しげなお顔で無表情。
 「通称『化粧オバケ』共がスッピンでうろうろするよりは問題無い。行こうか」
 「「あはは!黙れ、莉人。消えろ」」
 わぁ、先輩方、笑っていらっしゃるのに笑っておられない…言葉に表情がない。
 仲よし幼馴染みさんたち、ではないのかな、いや、軽口も叩ける仲の良さってことかな。
 しかし、そろそろほんとうにお暇しなければ。
 武士道も近くまで来てくれているんだったら、早く行かなくちゃ。
 
 「で、では…とみた先輩、おりべ先輩、たのしい時間を過ごさせて頂いてありがとうございました。いろいろお話してくださって、とても為になり、楽しかったです。キッチンも使わせてくださってありがとうございます!俺には想像も容易くなく、お務め大変かとお察しします…どうかお身体を労りながらお過ごしくださいね。俺、ほんとうに先輩たちのファンですから!陰ながらご活躍の程、心からお祈り申し上げております」
 ぺこりと一礼すると、先輩方はどこかうれしそうに、にこにこ笑っておられて安心した。

 「俺も楽しかったし、久しぶりに癒されたー!またねー前君!またお茶しようねー」
 「こちらこそ美味しいお茶と楽しい時間をありがとう。気を付けて帰ってね。……莉人、ちゃんと送れよ」
 「言われなくても。富田先輩、また後日。じゃあな、心太」
 「おまっ…名前で呼ぶな!頭触んな!とっとと出て行けっ、2度と来るな!!…前君はまた来てね?」
 あらら…最後の最後に、ちょっとした乱闘になってしまった。
 日景館先輩がおりべ先輩の頭を撫でたら、おりべ先輩おかんむり、顔を真っ赤にしてカンカンになりながら、日景館先輩の腰辺りに想いっきりハイキック!
 したかと想ったら、それまでの動揺などなかったように、俺に向けてにっこり笑って手を振ってくださった。
 手を振り返し、目礼してから、腰をさすっておられる日景館先輩と部屋を出た。

 「…腰は男の命だと言うのに…」
 ぼやいていらっしゃる先輩は、こちらへ通い慣れていらっしゃるのだろう、迷いなく歩を進めておられる。
 半歩ほど下がって付いて行きながら、恐る恐る聞いてみた。
 「あのう…日景館先輩とおりべ先輩は、いつもあんな調子なのでしょうか」
 「あぁ」
 すぐに返って来た短い同意に、そうですか…と頷いたら。
 「アイツは中等部に入った頃ぐらいか…急にキレ易くなった。他には普通だが、俺に対して異常なまでにな。3大勢力の親衛隊として、務めは滞りないから構わんが…俺にも意味がわからない」

 「そうなんですかー…?お心当たりもないのですか」
 「ない。全くない。初等部まではアイツも可愛いヤツだったのだが…昴に言わせれば、今も可愛気があるらしいが、それも意味がわからない」
 「はぁ…とみた先輩もおりべ先輩も、とても親切にしてくださった、とてもお務め熱心ないい先輩だと感じましたので…日景館先輩とのやりとりがちょっと意外だったのですが、それだけお心を許しているということかも知れないですね?厳しいお務めの日々の中、気安い時間のひとつ、みたいな…」
 「どうだか?」
 でもきっと、そうだと想うけどな。
 本気で嫌がっているご様子はなかった、と想うから。

 こうしてお話ししている内に、階段を降り、廊下の灯り以外は照明が落とされた、静かな1階へ戻って来た。
 2人分の足音が、もう誰もいない建物の中によく響く。
 いつか、1階も2階も探検させて頂く機会があったらいいな…そんなことを名残惜しく想っていると、玄関ホールへ出た。
 「恐らく殆どの生徒が食堂か寮に居る時間帯だが…此所は敷地内の外れ、照明関連も乏しいとは言え、委員会や部活帰りの生徒と出会す事は十分に考えられる。道は選ぶつもりだが、俺と前陽大が共に歩いて居る、こんな些細な事態もリークされたら面倒だ。生徒が通り掛かったら、俺の後ろに隠れる様に」
 「はい、わかりました」
 「出るぞ」

 日景館先輩が扉を開くと、春のつめたい風がふわっと、頬を撫でて通り過ぎた。



 2010-12-22 10:15筆


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