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 何故、副会長さま…日景館先輩がこんなところにいらっしゃったのだろう。
 なんだかお疲れの雰囲気漂う日景館先輩、勝手知ったるといったご様子で入って来られた。
 とみた先輩は面白そうににこにこ、おりべ先輩は…え…?今まで温厚に、丁重に接してくださっていたおりべ先輩は、どちらへ?!
 もんのすごいしかめっ面で、心底イヤそうに、その姿見たくもないといった雰囲気で横を向いていらっしゃる。
 えええー…?
 確か、とみた先輩は柾先輩と、おりべ先輩は日景館先輩と、お家のご事情などから幼馴染みで、その関係で親衛隊長へ…っていう経緯じゃなかったっけ。
 
 秘密を共有していることもあり、とても仲がよろしいのだろうなと予想していたのだけれど。

 「前陽大、やはりまだ此所に居たか」
 御2方の反応を何ら気にすることなく、日景館先輩は俺を見つめた。
 「日景館先輩、こんばんは。お昼ぶりですね。その節はお弁当を召し上がってくださってありがとうございました!先輩はこんな遅くまでアイドル…生徒会さんのスケジュールに追われていらっしゃったのですか?」
 そう言った途端、とみた先輩が「ぶはっ!アイドル…!莉人が、アイドル…!!」と噴き出した。
 …蛙の子は蛙というやつですか(すこし意味が違うけど)…とみた先輩も柾先輩を彷彿とさせる噴き出しっぷりだなぁ…やっぱり笑い上戸さんなのだろうか。

 「ああ。弁当シフトを決めるのに、相当モメたからな」
 お弁当シフト???
 俺ととみた先輩と、なぜか妙に距離を取っていらっしゃるおりべ先輩、揃って首を傾げた。
 お弁当シフトを決めるのに、こんなに遅くまで?
 なんだろう、何か重大な学園イベントに関することなんだろうか。
 お弁当シフト…行事予定表には書いていなかったと想うけど、最近聞いたことがあるような、ないような…
 首を傾げたまま静止していた俺と先輩方に、日景館先輩は、呆れたため息を吐かれた。

 「前陽大。君の弁当シフトの事だ」

 俺のお弁当シフト!
 「え、ええと…?」
 「何だ、忘れていたのか。君が我々の好きな様にしろと言い、昴が3大勢力を召集して、モメにモメながら決定したのに」
 「あ、いえ…!忘れたわけではないのですが…あの、モメたって言うのは一体…?」
 「主に悠をメインに、優月と満月と宗佑だな。生徒会が4日全部取るだの、1日食堂の日も生徒会が貰って当然だと駄々をこねた。それに大いに反発して来やがったのが武士道だ。武士道が朝昼晩は勿論、1週間全て取ると言い張り、話し合いはガキ共の所為で難航した。風紀は静観していたと想ったら、勝手に君を風紀委員に認定する書類を作成していた。最終的には昴がブチギレて円満に解決した」
 なんですと…?

 「……それって、ほんとうに円満解決なんでしょうか……?」
 よくよく見れば、日景館先輩のお顔、手元に、ごくごくちいさな引っかき傷のようなものが窺えた。
 まさか…大乱闘…?
 生徒会さんや風紀さんの皆さんのこと、俺はまだよく存じ上げていないけれど。
 武士道の皆のこと、そのやんちゃっぷりは大体わかっている。
 グズりだしたひーちゃんの変貌っぷりも、よくわかっている。
 まさか、まさか…3大勢力大ゲンカの巻?!
 しかもその理由は、俺のお弁当シフトについて?!

 口元が引きつる俺に、3人の先輩は「「「大丈夫だ、いつもの事だから」」」と涼しいお顔。
 いつものことなんですか、大ゲンカが?
 「結果、昴の考えた曜日制に落ち着いた。食材費の寄付の件も決まった。取り敢えず今週は君の想うがままに、シフトは来週から実行になる予定だが、それで構わないか」
 「…それで結構ですが…幼馴染み同士でケンカするような子たちに、食べて頂けるお弁当はどこにもありませんよ…?いつからお話なさっていたのか知りませんが、お弁当のことなどでこんな時間までケンカするなど、ちょっと有り得ない…」
 「あはははっ!やーい、莉人、怒られてやんのー!ザマぁないね!!良い機会だ、こってり絞られなー」
 面白がるとみた先輩に乗って、おりべ先輩も離れた位置からくくくと笑っていらっしゃる。
 日景館先輩は、コホンと咳払いして、若干困ったご様子だ。

 「俺からはこれで問題無いとしか言えないが…我々が顔を合わせれば争いになるのは最早伝統だ、それで不可思議な仲を保っているとも言える。富田先輩も心太も、他人事だと想って面白がるな。昴が知ったら、『親衛隊と前陽大の交流お茶会』シフトも打ち切りに成り兼ねん」
 「えーそれは困るぅー!弁当シフトに親衛隊も乗り出すつもりなのにー!」
 「っは…莉人のクセに偉っそうに…」
 あれあれ…? おりべ先輩はやっぱり、日景館先輩に対して、嫌悪感とまではいかないのだろうけど、敵対心と言うか、なんだか穏やかならない感情を持っていらっしゃるのだろうか。
 うーん?

 「日景館先輩の仰ること、了承致しました。俺にはまだまだ把握していないことがたくさんあって、皆さまの仲もよくわかっていない部外者なので…皆さまなりの交流?のやり方に、俺が口出すべきではありませんよね。けれど、文字通り『同じ釜の飯を食う仲』になるわけですから、なるべく仲よくして欲しいなあと想ったりもしますが…ともあれ、お弁当シフトの件、謹んでお受け致します。ふつつか者ですがよろしくお願い致します」

 一礼したら、とみた先輩がまた噴き出した。
 「ぷぷっ、前君、莉人に嫁入り宣言みたいだよー!」
 「よ、嫁入り…?!そんなつもりではなかったのですが…申し訳ありません、日景館先輩」
 「いや。こちらこそ世話が焼けるガキばかりだが、宜敷く頼む」
 「はい!恐らく1番の問題児であろう、悠には慣れてますから!武士道も慣れてます!」
 「そらー心強いなぁーよかったねー、莉人も昴もガキ回しから多少解放されんじゃね?その代わり、前君の負担になり過ぎない様に気を付けてやんないとね!」
 「あぁ、そうする」

 和やかに会話が進んだところで、ふと、静かなおりべ先輩を見たら。
 「嫁入り……嫁……」
 ちいさな声で、とみた先輩の仰った冗談を、無表情に繰り返しておられた。
 無表情なのに、どこか切迫した、今にも泣きそうな瞳に見えて、どきっとしてもう1度見直した時には、おりべ先輩はもうお顔を上げられていて、「頑張ってね、前君」と俺に笑いかけてくださったのだった。
 おりべ先輩…?
 俺の見間違いだったのかなあ。



 2010-12-21 23:20筆



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