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 「そして、我々親衛隊は、そんな『3大勢力』をサポートする為に存在している」

 親衛隊が、サポート…?
 「皆さまのファンではない、ということですか…?」
 俺の問いかけに、とみた先輩はますます笑みを深められた。
 「何かに対して熱狂的なファン集団、というのが、親衛隊の広義の意味になっている。学園内でも我々の事は、狂信的なファンの集まりだと認識されているしね。表裏がある『3大勢力』であっても、役職が下位の者は本来の『3大勢力』と親衛隊の存在を知らない。学園の殆どの生徒は何も知らないまま卒業して行くのが普通だ」
 う?

 「そう、なんですか…あの、何故、俺はそんな大切な秘密を教えて頂けるのでしょうか…」
 十八さんにも教えてもらっていないこと、聞いてしまっていいんだろうか。
 もしかして、十八さんも知らないこと、なんだろうか。
 先輩方は、変わらずにこにこなさっている。
 「前君は誰のファンでもないし、3大勢力や我々に関わっても臆することがないから、かな?」
 「外部生で利害がない立場、だからこそ秘密を共有し、身を護る必要があるとも言える」
 「「詳しい事はいずれ明かされるから、その時聞いて」」
 「は、はい…」
 なんだかよくわからないけど、とりあえず聞いておいたほうがいい、みたい?

 「話を戻すよ。
 親衛隊は本来、身分の高い人を警護する軍隊を差す言葉だった。英語で当てるなればbodyguards、そのまんま、ボディガードって事だね。
 我々はそんなご大層な存在ではないけれど、何かと様々な障害が多い『3大勢力』を、腕ずくではなくて頭脳労働で守る存在って所かな。『3大勢力』設立当初は、端からそんな存在だったらしい。だけど、時代の変遷と共に本来の意味まで変わってしまった。まあ、逆手に取って、狂信的なファンを装いながら暗躍し易いっていう利点も無きにしも非ず、だけどねえ…」

 なんと!
 ボディガードですって?!

 「と言う訳で、現親衛隊の中で、俺と織部は異色な存在って事。学園内皆、幼馴染みみたいなもんだけど、家の関係で俺は昴と、織部は莉人と幼馴染みでね。奴らが『3大勢力』にのし上がって行った時、親衛隊としてサポートしてくれって泣きつかれてさ。
 だから、やりたくもない似合わない変装までして、奴らのファンですーってフリして、懸命に親衛隊長まで成り上がって来た訳。本当なら地味な1生徒として卒業して行く筈だったんだけどねー」
 「俺達はノンケだし…何とも想ってない幼馴染みに対してきゃーきゃー言ったり、隊内でソレらしく振る舞うのは、正直疲れるけどね」
 「「仕事だから仕方がない」」
 うんざりとため息を吐かれる御2方は、でも、どこか愉しそうでもあり。
 何よりも。


 「…格好いい…!!」
 「「……は?」」


 「格好いいです…!!ボディガード…!!
 なんだかよくわからないですが、悪の秘密結社と戦う3大勢力を陰ながらサポートなさる先輩方…!!表向きは絶大なるアイドルと熱狂的なファンの関係!しかし、裏では互いに支え合って戦う、熱く強固な友情で繋がれた関係!正義を守る為には、悪に見えても厭わない…誰にも明かせない秘密を胸に、ひたすら使命に立ち向かう…!!そうして地球の平和を守り、黙って卒業なさって行く…自分の成し遂げた実績を誰にも明かさずにそっと…。
 素晴らしいです…!!先輩方、すっごくすっごく格好いい…!!3大勢力さまより格好いい!!これぞ男のロマン!!先輩方のような名サポーターがいらっしゃるから、3大勢力さまが輝くのですね!!人の輝きを引き出す、ますます輝かせる表立たない存在こそ、尊く素晴らしいです…!!尊敬します!!」
 

 想わず拳を握りしめ、一息に語ってしまった。
 けれど、悔いはありません。

 肩で息をする俺に、先輩方はいやいやと首を振りつつ、照れたように笑ってくださった。
 「悪の秘密結社って…!そんな大層な敵はいないけどねー俺達の動機も、『ま、別にヒマだしやっても良いよー』っていう軽いノリだったし?」
 「俺は昔から莉人には逆らえないって言うか…アイツ、我が儘だしね。どちらにしろ軽いノリだなー地球の平和まで考えていないし?」
 「そんな飾らない素朴なところも素敵ですっ…!俺、俺…先輩方の大ファンになりそうです…!」
 「「俺達の、ファ、ファン…?!」」
 「はい…!!もちろん、先輩方が身の危険を顧みず明かしてくださった秘密、他言無用にさせて頂く所存ですが…陰ながら応援させて頂いてもよろしいでしょうか?!」

 あれ…?
 あんまりにも熱くなりすぎたかな?
 先輩方の顔から、笑顔が消えてしまった。
 「…俺達が何て言われてるか、前君はそりゃ知らないよね…」
 「表でも裏でも言われてる…『元は平凡のクセに家を利用して隊長にまで成り上がった』『化粧オバケ』等々」
 「昴や莉人には気にするなってフォローして貰ってるけどねーま、マジこの通りの地味顔、地味性格なもので、隊長キープは険しい道さ」
 「自分を演じて疲れるばっかりでね。責任重い分、誰にも知られないけどやり甲斐はある…かな」
 変わって浮かんだ、自嘲のようなため息に、先輩方のご苦労が窺えて。
 そんなお顔、して欲しくなくて、もっとご自分を誇って欲しくて。

 『演じてんだよ』と微笑った会長さまを、ふと想い出した。

 「とみた先輩もおりべ先輩も、すっごくすっごく素敵です!!誰が何と言おうとも、俺はそう想います!!」
 「「前君…」」


 「まだ入学したばかりの俺には、先輩方はもちろん、3大勢力の皆さんの苦労の程はわかりませんが…そうやって幼馴染みの方と、ご自分を演じてまでなにかを守っていらっしゃる皆さんはとても素敵です。真相は存じ上げませんが、何かに対して一生懸命に打ちこむこと、それが誰かの為になっていることは、とっても素晴らしいことじゃないですか。人生の中でもかけがえのない財産になると想う…後で振り返った時、苦しかったこと程、心に残ってだいじな想い出になったりするから…。

 変装を不審に想われるのは、ある程度は仕方がないのかも知れません…自分に心を開いてくれていないんだと感じてしまうし、その変装が人を喜ばすものではなくて、隠しごとがある上でのことなら尚更で…俺も不躾ながら、先輩方の先程のお姿よりは、今のお姿のほうが好きです。自然だなってほっとします。
 それに、先輩方が地味だとか、そんなことありませんよ!!目的のために我が身を粉になさってる、徹底して向き合っていらっしゃる…先輩方は、すごいです。ほんとうのことを語ってくださった先輩方の目は、とっても輝いていらっしゃった、力があった。御2方が笑ったお顔は、すごく安心します。俺はやっぱり、先輩方の大ファンです!!」


 またも拳を握り、力説してしまった俺を、目を見張って見つめておられた、とみた先輩とおりべ先輩。
 どうして俺はこうも熱くなってしまうのだろうかと、自省は尽きない。
 でも、どうしても言いたかった。
 まだ何も知らないけれど、知ってしまった先輩方のこと、絶対に否定なんかできない。
 先輩方の陰ながらの努力を、俺は心の底から応援したい、できることがあるならお力になりたいって想うから。
 しばらく黙っていた御2方は、やがて、そっと顔を見合わせた後、ふわっと、笑顔を浮かべた。

 「「ありがとう、前君」」
 
 それはほんとうの笑顔で、「騒々しくまくしたててすみません」と謝罪しながらも、俺の頬もつられて緩む程、きれいなものだった。



 2010-12-16 22:53筆


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