50.副会長の真っ黒お腹の中身(3)


 「あれ、言ってなかったっけ?」

 昴が電話しているのを視界に入れながら、クソガキ共が3時(正確に言えば3時32分46秒)のおやつに群がる様を注視していた。
 誰からの電話だ。
 大概、掛かってくるなり画面を確認、通話ボタンを押した直後に切り捨てる、電話の意味がない非道っぷりなのだが。
 「「りっちゃん、悠がいっぱい取ったぁー!!」」
 「…りっちゃん、悠、が。」
 「取ったもん勝ちだもぉ〜ん!やーい、ゆーもみーもそーすけもノロマ〜」
 「…お前らバカか…大量にある物を取り合うな」
 とっとと切り上げて、コイツらの面倒を見てくれないと、俺の仕事が捗らないではないか。

 「だから〜、俺と莉人の所は問題ねえ。昨日ぶっとい釘差しといたし?……あ?下品?ナニが?お前のその想像こそ下品じゃね?」

 何の話だ。
 下ネタに精を出していないで、家長としての務めを果たしてくれないものか。
 「「やー!!自分の食べてるクセに!!悠、マジムカツクー!!」」
 「…奪った。ムカツク。」
 「ぼーっとしてんのが悪いんだよぉ〜ん!あー美味い美味いぃ〜」
 「「りっちゃん、叱って!!」」
 「…叱って。おれ、暴れる?」
 「暴れるな、宗佑。悠、俺の後ろに隠れるんじゃない…てめぇ…!人のブレザーに何擦り付けてくれてるんだ、ああ…?!」
 「だって指に付いちゃったからぁ〜こーちゃんとりっちゃんも早く食わないと、俺食っちゃうよぉ〜?」
 額に青筋が浮かんだのが、自分でも分かった。

 「ははっ、怒んなって〜怒ったお前も可愛いけどな…?ははは!だからそう怒鳴るなって…わーかってる、わかってるっつの。はいはい、イチには念の為、鬼メールしとくから。…何だ、やけにムキになんのな?そんなにアイツが大事かよ?俺というものがありながら妬けるわー…ぶはっ、怒んなって!鼓膜破れるっつの」

 誰相手の通話をいつまで愉しむつもりか。
 こっちは宗佑の顔色が変わり、ゆーとみーも不穏な気配を醸し出し、俺は俺でブチギレ寸前だってのに。
 いっそこの怒りの矛先を方向転換し、全員で昴を襲ってやろうか。
 いや、全員まとめて返り討ちにされるだけか(経験済み)。
 俺が出来る事は、ヤツのいつにない長電話が終わるのを待つばかりだ。
 「「必殺・ホイップ尽くしー!!」」
 「…クリーム…!すき。です。」
 「えええ〜?!ずっるう〜どっから出したぁ〜?!3人だけずるぅい〜!!りっちゃん、3人だけずるいよぉ〜」
 因果応報だと、微笑っていたら、悠が喚き出した。
 こうなると手が付けられんのだが、天は我々を見捨てなかった。

 「うるっせえ、悠!!さっきからピーピーぎゃーぎゃーおやつの取り合いなんぞで人の電話中に喚くんじゃねえ!!クソガキが!!」

 カーブを描いてすっ飛んで来た、「暗黒クマのプウ太・初心者トレーニング仕様ぬいぐるみ・約1kg」が、悠の後頭部にヒットした。
 ばたりっと悠が倒れて、漸く静かになった。
 数々の次男(悠)の愚行を見て来て、大いに世渡りの術を心得ている優月と満月と宗佑は、ちいさく拍手して静かに微笑み、おやつの続きを楽しんでいる。
 「…あ?あー、悪ぃ。とにかくその件に関しては問題ない。…は?お疲れ様?…察してんなら、俺に対してもあいつ想うぐれえに日頃から優しくしてくんね?ははっ、お互いに無理な話だったな。ま、お前が元気なら良かった」
 何事もなかったかの様に、昴の表情は晴れ晴れとしている。
 「おーじゃーな。また後で」

 また後で?
 通話が終わった途端、メールを打ち始めた昴に、おやつの乗った皿を差し出しながら疑問を呈した。
 「誰だ?」
 「サンキュ…って、羊羹取り合ってたのか、あいつら…マジでアホか…」
 「「こーちゃん、ホイップ要る?」」
 「…クリーム。おいし、ですよ。」
 「要る。つか、コレ、飲み物用にストックしてたやつだろ…ま、いーけど」
 「「悠を退治してくれたお礼に、たっぷりあげます」」
 「…かたじけない。です。」
 「あーあー、気持ちは嬉しいが程々で良い。ありがとうなー、よしよし」
 
 左右からホイップクリームを絞る双子の頭を撫で、満足そうに目を細めた双子の横で、物言いた気な宗佑もついでに撫で、線目になった3人にびしっと言い放った昴は、完全に父親化している。
 「これ食ったら、お前らは宿題片付けろよ。ミーティングまでに間に合わせられるな?」
 「「はい!」」
 「…はい。」
 「「わかんない所、聞いてもいーい?」」
 「…いーい?」
 「んーどうしても分からない所だけな。ゆーもみーもそーすけもやれば出来るんだ。先ず自分の力で頑張ってみな」
 「「はい!」」
 「…はい。」

 応接セットへ散って行った3人を見送りながら、昴は慣れたもので、すっかりいつもの調子に戻っている。
 「で、電話の相手だっけ?」
 「あぁ。昴にしては長かったな」
 「相手に因る。生真面目な凌君を邪険には出来ねえだろ」
 成る程。
 「『お母さん』関連か」
 「こっわ…!莉人、勘良過ぎ…!」
 「ふざけるな。心太からメールがあった。大方、凌が連行の現場に出会したって所だろう」
 「そう。世話が焼けますわねー、あの新米ママさん」
 しかし、ふざけて微笑う昴の瞳は、どこか穏やかだ。

 「こーちゃん、ひどいぃ〜!俺のこと、ぶったぁ〜!!」
 「「「「っち…もう起きたか…」」」」
 「…っち…。」
 今日も生徒会は賑やかだ。
 小1時間程したら行われる予定の、3大勢力ミーティングは、もっと賑やかなものになるだろう。
 だが、何となくこれは束の間の平和かも知れないと、俺らしくもない感傷を覚えながら、羊羹を口に運んだ。



 2010-12-14 09:31筆


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